金貨と依頼
「最後まで聞けって」
「厄介ごとの気配しかしない」
「そう言わずに」
「俺には関係ないだろ」
「でも金払えないだろ?」
ぐうの音もでないとはこのこと。と渋い顔をするロイスの横で、いろいろと諦めたようにため息を吐くカレンが言った。
「しかたないかも……。だってお金ないもん」
「事実をいうのはやめろ」
「事実だもん、しかたないじゃん」
こういう時ばかり現実を見る少女である。
再びドンっと椅子に座って、ロイスは片肘を机につけると身を乗り出した。ここまできたら聞くしかない。という姿勢だ。
オーランドがよしよしと頷くのが、不快ではあったがしかたない。そう諦めて続きを再び促す。
オーランドは二人に向かって近くに来るよう手招きすると、ロイスとカレンの耳元で囁いた。
「ちょっとな、盗賊退治を依頼されたんだ」
「盗賊?」
「しかも、金貨八十」
両手の指で四をそれぞれ作ってオーランドが二人に見せる。
「半々で割っても四十だ」
小声で続けれらた言葉に、ロイスは渋面を作る。
ーーそれはまた。
「随分な金額だな」
ーーやっかいごとの気配しかしない。
「金貨八十枚……うん? どのくらいすごいのかピンとこないんだけど?」
カレンが首をかしげる。
道中人間界の貨幣については軽く教えていたが、軽く教えた程度ではわからないだろう。
オーランドはそれを、金額が高すぎてピンとこないと思ったらしく、カレンに向かって説明する。
「世の中にはこんな言葉がある。『金貨一枚あれば十日、金貨十枚あれば百日人は生きられる』」
「つまり? 金貨八十枚あれば……八百日!? 3年近く生きられる!」
興奮して立ち上がるカレン。そのの腕を掴んで、ロイスは強引に座らせる。
「単純計算にもほどがある。しかもそれは随分昔の例えだ。今で言うと……そうだな、例えば神聖都市で一番いい宿を取っても1日金貨一枚ってところだろう」
「アルドだったら一番いい宿に五日は泊まれるぞ」
二人の説明にカレンはやがて静かに座り直すと「つまり……」と一人計算を始めた。
ーー考えてわかるのかよ。
「……要するに、その辺の街に滞在するくらいなら、食事付きで一年は普通に暮らしていけるくらいの金額ってところだ」
「それって、依頼料としては多いの?」
カレンの疑問にロイスは軽く頷く。
盗賊退治といえば、多くの場合は早い解決が求められる。そして戦力も。急ぎで、且つ人数がいるとなると、そのくらいの金額を出すのは普通といえば普通だ。しかしそれは、人数分分割されることを想定してのこと。
「お前一人に対する依頼料って言うなら、随分多い気がするな」
怪訝な様子でロイスはオーランドを見遣った。
「なにも俺一人でやるとは言ってないだろ。仲間がいるからってことでその額で受けたんだ」
「いないだろ、どこにも」
「いなかったけど今見つけたからなぁ、いやぁこれで領主にも堂々と報告できる」
つまり、人数を用意すると言って受けた依頼だったが、その仲間はどこにいるのかと尋ねられ、どうにかして仲間を用意する必要があったということだった。
そして偶然にも、ロイスとオーランドは再会してしまったのだ。
「二人じゃ人数がいるとは言えなくないか?」
呆れていうロイスに、オーランドが自信満々に「何言ってるんだよ!」と声を上げる。
「俺とお前。二人いてできないことがあるってのか? ないに決まってるだろ!」
絶対の信頼を乗せた言葉。思わず面食らってロイスは瞬きを繰り返した。
ロイスは面映ゆい気持ちになりながら、しかし渋るように顔をしかめる。
嫌な予感がするのだ。
どうしようもなく。こういううまい話には大体裏があると相場は決まっている。
「いいじゃん。やろう!」
ロイスの迷いを蹴散らすように、カレンが声を上げた。
「おお、お嬢ちゃんもやるのか? 危ないぜ」
「カレンよ。お嬢ちゃんなんて歳じゃないってば」
「こりゃ失礼」
ーー呼び捨てはいいのか……俺の時も良かったからいいのか。
そんなことを思いながら、ロイスはやる気のある二人を交互に見やる。
正直やりたくない。
しかし金がないのは事実。
「ちなみに受けてくれたら、ここは奢ってやるよ」
「……汚いぞ」
思わずじっとりとしたから睨みつける。




