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金欠と噂話


「一緒に旅してるんだろう。秘密にすることないじゃないか」


 気軽なオーランドの言葉にロイスもまた顔をしかめる。

 確かに旅を共にしてはいるが、たかが旅の共である。何もかもを知らせる必要もないし、秘密があってはいけない。ということだってないのだ。そのはずだと自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、ロイスはオーランドの行動が不快に思えた。


「もう用はないな。行くぞ」

「え! ちょっと待ってよまだ食べ始めたばっかりなのに……」


 そう言いつつ、カレンは渋々とだが立ち上がった。

 ここには用はない。そう思って立ち去ろうとする。

 そのロイスの背中にぶっきらぼうな、しかしどこか楽しげな声がかけられた。


「金は?」


 足を止めて、ロイスは振り返る。

 そこには意地の悪い顔をしたオーランドが足を広げて鷹揚な様子で座っていた。

「金はあるのか?」


 オーランドが再び言った。


「…………どういう意味だ」

「言葉通りの意味だよ」


 そう言って、机の上の食べかけの料理を指差す。


「ご馳走してくれるんじゃなかったの!?」


 思わず叫んだカレンに、オーランドはお茶目に片目をつむってウインクした。


「おう。オススメの店に連れてきてやったぞ。でも金を払うとは言ってないなぁ」

「ご馳走するって言ったら普通金払うだろ」

「さて、魔術師だから普通がわかんねーなぁ」


 魔術師でありながら普通を論じるロイスと、知らん振りをするオーランド。

 じと目で睨みつけるロイスにオーランドは堪えた様子もなく、事も無げに言葉を紡ぐ。


「ここの飯は安いんだけど、それでもそれなりにはするんだよなぁ」


ーーこの野郎。


 ロイスは睨みつけながら、懐の財布を引っ張り出した。しかし。


「お金、ないんじゃないの」


 カレンが言った。

 確かに、ない。

 心もとない重さ、いや、軽さの財布が手の中にあった。

 エヴンズベルトを出るときに着の身着のままでてきてしまったというのもあるが、なによりここのところ魔力の回復を目的として、宿を取るか、食料を買うかに徹していたため、収入がなかったのだ。

 これまでは、時々立ち寄った町や村で依頼を受けて魔物を狩ったり、雑務を請け負ったりすることで報酬を受けていた。魔術師はそれだけ貴重でもあるから引く手あまただったりする。

 しかし今は金がない。それに。


「しかも、指名手配されてるから稼ぎようがないだろう?」


 なぜか得意げにオーランド言った。

 

「なぜ知ってる」


 ロイスが思わず凄むと、オーランドは両手を挙げて降参のポーズをとりつつ、肩をすくめる。


「そりゃ、神聖都市であれだけのことをやれば噂にもなるさ」

「噂ってなに?」

「大量発生した魔物を一瞬で狩った魔術師がいるって、魔術師の中ではもっぱらの噂だ」


 ロイスは首をかしげた。魔術師というのは【青の書】で学んだことをどう応用するかで優劣を図る部分がある。相手に手札は見せないし、見せられたとて信頼しない。そのあり方から、多くは徒党を組むこともしない、はずなのだが。


「なにもみんながみんな一人でやってるわけじゃない。情報交換のために集まったりもするんだよ」


ーー知らなかった。


 ロイスは少しだけ驚いて目を見張った。一匹狼のロイスには思いつかなかったし、そんなことがあるとも思っていなかったのだ。


「でもさぁ。それなら感謝してくれてもいいんじゃない? 魔物全部やっつけたんだし」

「そうはいかないさ。一応あれは神様の奇跡ってことにされてるみたいだしな」

「なにそれぇ」


 苦い顔をするカレン。

 ロイスは予想どおりの結果であったが、しかしそれでも呆れてため息を吐き出した。

 あれをやったのがロイスだという事実がどこから漏れたのかはわからない。しかし噂として広まっているということは、目撃した者がいたのだろう。あるいは情報伝達に優れた魔術師があの都市にいたのかもしれない。

 しかし、教会がそれを知ってしまったならば、魔術師のしたことを簡単にそのまま受け入れるわけがないのだ。しかも相手は指名手配中で、投獄にも成功していた相手。それを逃し、さらにそいつ、つまりロイスのおかげで助かったなどと、言えなかったのだろう。

 それを神の奇跡と言って広めるあたり、厚顔無恥にもほどがあると思うロイスではあったが。


「で? ここの金は払えないのか? どうなんだ?」


 意地の悪い顔でオーランドがロイスの顔を覗き見る。

 唇をへの字に曲げて、ロイスはドカリと椅子に腰掛けた。習うようにカレンも椅子にストンと座る。そして頬杖をつくと「どうするの?」とロイスに問いかけた。

 その言葉をそのままオーランドに向けるように、視線をカレンからオーランドに移し。


「どうしろって?」


 と、地を這うような低い声で尋ねた。


「そう怒るなって、いい話があるんだよ」


ーー出た。


 こういう流れでくる話でよかった話があった試しがない。ロイスは渋面を作る。

 最近妙に冴えるが見当違いな予感をあたえてくれる、魔術師としての勘が、話を聞くのをやめておけというように感じた。

 だからと言って、このまま聞かないわけにもいかない。

 黙って続きを促す。オーランドは満足そうに笑った。


「実はな、ここアルドの貴族から、高額の依頼を受けたんだ。ってまてまてまて!」


 席を立ったロイスの腕をオーランドが掴む。


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