料理と失言
ロイスとカレンは、オーランドに連れられて小さな飲食店に入っていた。
小さいと言っても随分と賑わっていて、昼間から酒を飲んでいる集団もいたり、美人局だろうか、そんな様子の女も見られた。
そんな、夜は完全な酒場になりそうな、ちょっと治安の悪そうな店で、三人机を囲む。
ちなみに、さきほどオーランドによって弾かれ、手を負傷したひったくりは、オーランドの手で縛りあげられた。そのまま近くにいた旅人風の男に保安局に連れていくように頼む。
アルドの街でも保安局は教会の管理下だ。魔術師であるオーランドも行きにくいのだろうとロイスは推測した。
ひったくりをされた女性に関してはその後追いついてきて、カレンにひたすら礼を言っていた。カレンが飛び蹴りをするのは目撃していたのだそうである。
そうしてうまいこと問題を片付けた後、騒ぎに乗じて逃げようとしたロイスの肩を押さえ込んで、オーランドはロイスを連行した。体格差もあって、振り解くことが難しかったというのが、ロイスとしては非常に悔しいところであった。
そうして連れてこられたのが、このアングラな店である。
ロイスが周囲を警戒する中、適当に頼んだ料理が運ばれてきた。
「おいしそう!」
目の前に出された謎の肉料理。それを見て、カレンが歓喜に声を上げた。
ここのところ、肉があっても適当に火で焼くくらいの食事しかしていなかったからだろう。
ワインでじっくり煮込んだ旨味たっぷりのソースがかかった肉。
ナイフを入れれば肉汁があふれ、添えられた蒸した芋に染み込んでいく。
ほくほくと湯気のたつ芋を口に入れて、カレンが幸せそうに頬を緩めた。
「肉から食わないのかよ」
「いいじゃない。こないだ食べたお芋痩せほそってて美味しくなかったんだもん。美味しいお芋食べたかったの!」
「……あっそう」
カレンはどうやら肉より芋が好きらしい。というのは旅の途中で見つけた芋を食べた後の反応からも明らかであった。
ロイスも口に芋を放り込んで小さく頷く。たしかにここの芋はその時の芋より確かにうまいと思われた。
「うまいだろう。この街ではいつもここで食ってるんだ」
オーランドが我が事のように胸を張って言う。
そう言うオーランドの前には、やはりなんの肉かわからない肉がごろりと入ったシチューがあった。
「昔からシチュー好きだよな」
思わずそんな言葉が漏れる。すると、オーランドは食べていた手を止めて、ロイスを見つめた。一瞬視線が交差した後、唐突にオーランドが笑みを浮かべる。
ーーなんだ今の……。
「シチューは美味いよなぁ! 具が少なくても食べた気になるし」
「それは貧乏性の言い分だな」
「昔は、そうだったじゃないか」
オーランドが笑っていった。
ーーああ、そうか、昔のことを思い出したから、変な顔をしていたのか。
「昔って、十年以上前……って言ってたっけ。あれ? そもそもロイスって今いくつ?」
「俺が今年で三十だから、二十五ってとこか?」
カレンの疑問にオーランドが答え、ロイスは無言で頷く。まあそんなものであった。
「あれ、そうなんだ、私とそんなに変わらないのね」
「え?」
オーランドが驚いた瞬間、ロイスはカレンの足を軽く蹴り飛ばした。
「あいた!」
無言でカレンがロイスを睨み、それにロイスも睨みをきかせる。
カレンは魔族だ。今まで聞いたことはなかったが、長生きな種族だ。見た目どおりとは限らない。限らないが、それを大きな声で言うのはダメだろう。
「ちょうど一回り違うって言うんだよそう言うのは」
それらしいことを言ってカレンの言葉のフォローを入れる。するとカレンも気が付いたのだろう。さっと一瞬顔色を変えて、オーランドを盗み見た後。
「あ、そっか、そうね」
と下手くそな相槌を打った。
「あーなんだ。かわった子だな?」
オーランドもまた奇妙なフォローを入れる。なんとも微妙な空気が流れ、ロイスは咳払いをして場の空気をなんとかかえようとこころみる。
それにしても、この幼い外見の、そして中身も幼い印象の少女と歳がまさか近いとは思いもよらなかったロイスである。ロイスが若干複雑に思うのも致し方ない。
「あー。で? なんの話だったか?」
「ああ、そうそう! えーっと十年以上前の知り合いって言ってたけど……えっと、どういう関係なのかなって」
なんとなく話を逸らしたくてした咳払いとセリフだったが、カレンからの質問を受けて、ロイスは顔を顰めた。
正直あまり話たい内容ではなかったのだ。
そしておそらくそれはオーランドも同じ。そう思ったが、オーランドは快活な笑顔でカレンの方に体を向けた。
「兄弟子ってやつさ。こいつと俺は同じところで魔術を学んだんだ」
「え。ロイスってずっと一人で研究していたわけじゃないの?」
「そりゃ、子供の頃は一人ってわけにはいかないだろうさ。俺もこいつも同じ孤児院育ちでな……」
「オーランド」
呼んで、会話を遮る。
「余計なことを教えるな」
語気を強めていうと、オーランドが笑みを引っ込めて顔をしかめた。




