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回復と我儘

「だから、魔術使えないの……知識はあるんだけど、使ったことない」

「使ってみればよかったじゃないか」

「魔術つかうとゴーレムが動くようになってて……」


 そこまで言われて、ようやくロイスはあの遺跡のゴーレムが襲ってきた理由を知った。

 ロイスは魔術で光を発生させ遺跡を探索していた。あれがゴーレムを起こすことになってしまったということだ。

 思わぬところで出てきた真実に、ロイスは天を仰いだ。

 なんとも情けなく思えてしまったのだった。


「ロイス? 大丈夫?」

「……ああ、全く問題ない」


 天を仰いだまま、そのように答える。

 

 ──まあ、ゴーレムが動いた原因はわかった。

 

「しかし、魔術が使えない魔族がいるっていうのも変な感じだ」


 正直にそう言うと、カレンがムッとした様子で頬を膨らませた。


「しかたないでしょー。好きで使えないわけじゃないもん」

「けどお前、使えたらそれなりに優秀な魔術師になりそうだけどな。いや、魔族を魔術師と呼ぶのは変だが」

「え? そうかな?」


 パッと頬を赤らめて、興奮した様子でカレンが顔を上げた。先程からまるで百面相である。

 ロイスは大きく頷いた。


 暴走していたといえ、あの時地下で見た力は本物だろう。

 父親の性質を引いているのか、無意識に炎が吹き出したことからみても、炎系統の魔術が得意そうだった。

 それに、人間界の少ない魔力でも吸収して体力に還元されるならば、一介の魔術師よりも強大な力が使えそうでもある。そして消耗したあとの回復も早いと予想される。

 ある意味羨ましい限りだ。


「…………わからないが、制御できるようになれば暴走することもなくなる……という可能性もある気がするな」

「……力を強めることになったりしないかな」


 不安そうなカレン。

 なるかもしれない、と思うロイス。おそらく魔王もそれを危惧していたのだろう。

 しかし制御できない力ほど怖いものはない。というのも事実。


 ──それに、気になることもある。


 カレンの暴走を止められたときのことを思い出して、ロイスは顎に手をやって考え込んだ。


 ──時間の流れが変わったようなあの妙な感覚……。触れたことで暴走が止まるのはわからなくもないが、あの現象はなんだったんだ?


 太陽光などの事象を緩和させ、内部で発生する魔力を押さえ込み、外部からの探査も除外する。内からでも外からでも現象を制御できる魔術。まだ探求中で試作とも言える術。名前はつけていない。だから『無名ニヒツ』。


 考えてみればとてつもなく便利な術で、だからロイスも自分に常時張っているわけだが、まだ発動できるようになってからは浅い術だ。ロイスもまだまだその性質を理解しきれていない。

 いろんな術を混ぜ合わせたオリジナルの術で、その可能性は模索中である。


 ──無名ニヒツとカレンの魔力が何かしら共鳴、あるいは反発したことによってあの現象がおきたのだろうか。


 残念ながらそれを否定するほどまだ術についての研究は進んでいない。


 ──カレンの魔力に特別な力があると考えるほうが自然な気もする。例えば、何かしら術に副次的効果をもたらす力があるとか。もしくは、魔族と人間の魔力がぶつかるとああなるというのか。それとも他に理由が? わからないな……。


「ねぇ、ロイス」


 考え込むロイスの顔を、カレンがのぞき込んだ。


「?」

「大丈夫? 顔色悪いけど……」

「そんなことないが」


 実際、三日前よりは随分調子が良くなっていた。明日には普通に行動できそうな気もするほどだ。そんなことよりも。


「魔術、教えてやろうか?」

「いいの!?」


 なんとなくの提案に、カレンが身を乗り出して反応した。ほとんど、触れるギリギリまで顔を近づけられ、思わず狼狽する。

 カレンの瞳はそんなこと気にならないのか、キラキラと輝いて眩しい。


「ほんとのほんと?」


──面倒な提案してしまった気が……。


「……ああ」

「ほんとにほんとに本当?」

「くどいぞ」

「やったぁ!」


 カレンは飛び跳ねて喜んだ。そこまでか、とロイスは思いながら、苦笑をこぼす。

 すると、カレンはロイスみて、急に顔を赤くして、ストンと再び隣に座り込んだ。


「……よろしくお願いします」


 頬を真っ赤にしてカレンは小さく頭を下げた。どうやら喜びすぎた自分に恥じてるらしい。やはり、そういうところは嫌いじゃない。

 ロイスは笑って「じゃあ、まずは、魔術の基礎から……」と話し始めた。




 それが、三日前の事。



「結局ロイスみたいな術は使えないのかな……」


 トボトボと歩きながらカレンが言った。

 片手に火の玉を浮かべて、それを反対の指で突くような行動をしている。その顔は不満気で、やりたいことができないことに本気で嘆いているらしい。


「無理だろうな、向き不向きがある。俺だってお前みたいに攻撃に有利な術が使えるわけじゃないし」


 そしてロイスも仕方ないと思いながら答える。

 使えるようになったのは炎系統の魔術だった。今のところは、その中でも一番簡単な火の玉を発生される魔術くらいを教えたが、それを簡単に操り、標的を追いかけさせるなどの、ある種の応用をやり遂げてみせた。


 及第点とロイスは言ったが、正直今まで教えた中でも一番優秀だったりする。


 ──言いたかないが、流石魔族、ってところか。


 ロイスは渋々そう結論づけて、サクサクとあるき始める。

 流石に六日もあれば、ロイスの魔力も完全回復である。久しぶりの満腹感のようなものに満足していた。

 ということはつまり転移して隠れ家に直接行くこともできなくはない。しかし。

 

「ねぇ! 街が見えたよ!」


「……そうだな」


 先を歩いていたカレンの興奮した声にロイスは苦笑をこぼした。


 たった六日、されど六日。もっと言えば出会ってからら八日あまり。

 ここ数年、長く行動を共にする者がいなかったロイスにしては比較的長い付き合いになりつつあった。だからだろう。


「ほら! いこ!」


 この天真爛漫な少女のわがままを聞くのも悪くない。そんなふうに思うようになっていた。


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