無知と興味
確かに、魔族と魔術師を似ていると称する者は多い。
魔力を蓄え、魔術を使う。たったそれだけ、されどそれこそが大きな類似点であり、普通の人間と最も違うところ。
そこに注視すれば、たしかに魔術師と魔族は似通っている。
しかし魔術師からいえば、魔族は魔力そのものを自らの体を動かす力に変換できるという、最大の違いが存在する。
魔力を力に。これは魔物にも見られる特徴で、つまり彼ら魔族が魔界の生物であることの証のように思えた。
この特徴をもつことから、彼らは長命で、丈夫で、強いのだ。
ロイスはその魔族の筆頭である魔王の娘をじっと見つめながら、そうしたもろもろの考えを押し殺す。
そこに意識を向けてしまえば思い知ることになる。カレンもまた、人間ではないのだという事実を。
そして気づく。ロイスが今連れている少女がロイス以上の魔術の使い手である可能性があることに。
ロイスは渋面を作って彼女を見やった。
ロイスより強い魔術師がいないわけではない。自分自身が必ずしも最強などと自惚れているわけではない。だが、目の前の少女に劣るのではと思うと、妙に嫌な気分になった。
とはいえ、当の人間界では化け物と呼ばれれる魔族の少女の目は、好奇心で輝いて、ロイスを真っ直ぐに見つめてくる。
この好奇心の目には敵わない気がした。なにせ自分自身にもそうした面があることを知っている。一度興味を持ったら、そうそう、その興味が失われることがないということを。
そこまで考えて思考を戻す。
「商人が警戒してた理由などわからん。魔術師だから嫌われているというのも、なんとも言えないな」
「どうして?」
間髪を入れずに問がかえってくる。
──知りたいざかりの子供か。
魔術師と魔族。同じ嫌悪の対象と見る者もいれば、そうでない者もいる。それを教えるのは面倒くさい。そこまで考えて、ふと「暇つぶし」。そんな言葉が頭に浮かんだ。
──そうだな。
ロイスはその言葉に従うことにした。
「…………魔術師と魔族。似てるところもあるな。だからそういう、差別的な思考もなくはないが、場所によるな」
脚はまっすぐ西に向かっている。
どうせ街までは二、三時間はかかるというし、その間沈黙していても構わないが、話していても構わないだろう。
そう。ただの暇つぶし。
「なんで?」
とたとたと走って、ロイスの隣に並んだカレンは、後ろ手に手を組みながら首を傾げた。
「……教会の教えが広まりきっていないからな」
ロイスたち魔術師にとってはありがたい話なのだが。
「教会ってなに?」
ああ、そこから説明が必要なのか。そんなふうに思う。
「何も知らないんだな。魔族ってみんなそうか?」
「人間だって魔族については知らないでしょ」
確かにそうである。
「魔族について教えてあげるから、人間についても教えてよ」
「また取引か」
「そういうことかな」
──せっかく無償で教えてやろうと思ったのに。取引にしなければ俺が応じないと思っているのか? 思ってそうだな………まあ、いい。
あの遺跡で出会ったあの時のように、互いの目的のために互いに利用する関係だ。
「今回は、隠し事するなよ」
「……しないよ」
ぽつりとそんな返事が返ってくる。
「大事なことあえて言わなかった自覚はあったんだな」
皮肉にもそんなことを言ってみる。なんとも言えない沈黙があった。
「なんで言わなかったんだ」
カレンは沈黙した。
やはり大事なことは沈黙で返すことにしているらしい。言い訳くらいすればいいのに。と思うが。
「言い訳はしたくないの」
心を読んだように、カレンが言った。
──そういうところばかり誠実で……やっぱり、妙なところで敏い奴…。
ロイスは頭を振った。
──雑念だ。どうせ気にしたところで、こいつは本当のことは言わないだろうし……。
本当のことを喋らせる。そのための手段は、選ばなければいくらでもあるのだ。それでもそうしないのは、相手が少女だからなのか。それとも、本当に情でもうつったというのか。ロイスにはよくわからなかった。
ロイスはカレンの意気消沈した顔をちらりとみやって、話を戻すことにした。
「それで、教会についてだったか?」
「あ、うん」
話してくれるんだ。そんな感情が露骨にカレンの表情をかえる。
「暇つぶしだからな」
なんて、うそぶいてみる。
実際、魔界の情報、魔族の情報。それを知るいい機会だ。ロイスとしても興味がある。もともと教えてやるつもりはあったわけだし、与えられた情報の分、こちらの情報を与えても差し障りはない。




