親子と攻撃
あまりの衝撃。
あまりに馬鹿馬鹿しい事実。
なんてことだと叫んだ声に反応して、魔王の視線がロイスを、そしてカレンを射抜く。
はっとしたがすでに遅い。
鋭い眼光がロイスに向けられ、明らかに敵意を含んだ目でギロリと睨まれて、思わずロイスは体を固くした。
(バカか俺は! どうする……!)
見つかった。
ロイスは左右を確認して逃亡の余地を図る。そして相手を見据えて、倒せる可能性を考える。
(できるか? いや、いけるか?)
緊張感が場を支配している。そんなふうに感じるロイスの耳を、また先ほどとは違うなんともズレた台詞が通りぬけた。
「カレン! そこにいたのか! パパがどれだけ心配したと思っているんだ!」
パパがどれだけ心配したと思っているんだ。
だって?
「あ?」
思わず間抜けな声を発してしまったロイスだ。
それほどに力の抜ける発言が魔王の口から出た気がした。
親バカ。
そう、親バカの言葉だ。
声色も本気で怒っているという感じではない。完全に親バカのそれだ。
ロイスは痛む眉間を揉む。
(つまり? 要するにあれか? つまりこいつは……)
カレンを見やる。魔王を見やる。
そうだ。つまり。
魔王の娘。
「っっっなんっで言わなかった‼︎」
「なんで叫ぶのよ‼︎ 見つかっちゃったじゃないの‼︎」
二人が互いに向けて叫んだのは同時だった。
そして魔王が「なんだそいつは!」とロイスに怒りをぶつけるのも。
親バカ魔王の頭の中でどのような組み立てが行われたかは知らない。
知らないが、敵視されたのは間違いない。
その証拠に、ギラギラと光る目には怒りが。ロイスに対する強烈な怒りが宿っていた。
直後に飛んできたのは火の玉。
否、馬鹿でかい燃える岩だ。
「いきなりだな!」
ロイスはほとんど悲鳴に近い声で叫び、目の前で両指を組んで【結界】をはる。
魔界の遺跡でゴーレムの攻撃を受けた魔術。【青の書】に書かれた【壁】の術の応用魔術だ。シンプルだからこそ、ロイスが張れる結界の中でも上から何番目かに頑丈なそれ。
しかし、ただの燃える岩ではないのだろう。魔力を多量に含んだその攻撃が衝突した時。結界はその形状をぐにゃり変化させた。
(魔術ごと歪めるか。熱というより魔力の塊だなっ)
魔力の衝突。それによって発生したこの現象。
突きつけられるのは、ロイスが結界に回した魔力が、魔王が発した火の玉にこめられた魔力よりも弱かったという事実だった。
ロイスは頭の中で結界がゴムのように伸びて、受け止め、弾く姿を想像する。
防御と攻撃は表裏一体。ロイスの結果でできる攻撃としては最も単純な攻撃。攻撃反射だ。
次の瞬間、結界は歪むがままに任せてたわみ、そして反動で火の玉を村の外に弾き返した。
魔王にはあてない。それでさらに怒りを助長させることはない。岩は、見当違いな方向に飛んでいく。村の防御壁で見えないので正確な位置は不明だが、遠くで音をたてて地面に落ちた。
それをたしかめて、再び魔王に全意識を向ける。
今も魔王はこちらを睨みつけていた。
(さて、どうしたものか)
先程の攻撃。何度も防御するには魔力の消費が早いだろう。
世界に、大気に混じる魔力。それを体内に留めることができるのが魔術師だ。
しかし噂では魔族は無尽蔵に魔力を蓄えることができるという。人間であるロイスにはそこまでの許容量はない
しかし、とロイスは逃げる村人たちの背を見遣った。
(今は、村人を守らないと……か。となると、結界を張り続ける必要はあるか?)
魔王は、村人を追うだろうか。
いや、とすぐに首を振る。
おそらくその可能性は低い気がする。
魔王は、家出娘を連れ戻しにきたら、男といた。という事実に頭がいっぱいなのだろう。親馬鹿魔王の視線はロイスとカレンから離れない。魔王の狙いはカレン。あるいはロイスなのだ。
このままここにいれば、村に被害が出るが、村を出れば魔王は追いかけてくることで、少なくとも魔王の被害を村が受けることはない。
はずだ。
推測の域を出ないが。今日のロイスの勘は冴えている。残念ながら。
それならば。
「勘弁してくれ」
そう呟いた直後に、ロイスはカレンの腕を取って走りだした。
そのまま村の入り口から外で走り抜ける。
(魔王が村の入り口の外にいて助かった)
横をすりぬけていくが、攻撃はされない。カレンがいるからだろう。
「貴様‼︎」
魔王が叫ぶ。
逃げるなと言いたいのか、カレンの腕を掴むなと言いたいのかわからないが仕方ない。
ここでカレンだけ置いていって、それで万事解決とはいかないだろう。あらゆる可能性を考えるならばロイスとカレン二人が村の外に出る必要がある。
魔王は、思惑通り二人の後を追ってきた。
二人は森の方へと進路を向け、全力で走った。




