勝手と礼儀
いやいやながらロイスはカレンを連れて村に入ることにした。
正確には村に入るロイスに彼女は平気な顔をしてついてきた。勝手にしろと言ったから、勝手にすることにしたのだろう。
勝手にしろと言った手前、勝手についてきているのを咎めるつもりもない。明日転移するときに置いていけばいい。
ヨウラ村は、村という形をとっていながらも人の交流が盛んで、昼間でも夜でも大きな通りには人が溢れていた。
ロイスがこの村に転移の先を指定したのは、ここが魔界に転移する前、最後に立ち寄った村であったこと。そして物流が充実しているこの村からであれば旅の準備には困らないだろうと思ったからだった。
なので、今の目的は食料の確保と休息だ。
外壁をぐるりと回りながら、入口を探す。
「この村に泊まるの?」
カレンの疑問に一瞬無視しようとして、しかしそうなれば騒ぎ出しそうな気がして渋々答える。
「……ああ」
「でも……」
追われているのに? そんな疑問が聞こえてきそうな声音にほんのわずかな嘲笑が浮かぶ。
「父親が来るまでには猶予があるんじゃなかったか?」
「そうなんだけど、それでも気持ちの問題ってあるじゃない」
カレンが不安そうにロイスの言葉に抗議する。
「ここからどこに言っても魔界からの距離なんて一緒だろうが。移動する理由がない」
(転移した残滓を追ってくるなんて芸当ができるなら話は別だが……)
魔族ならなんでもありで、出来てしまいそうな気もしなくもないが、かと言って移動するのは、やはり消費の激しい今のロイスには厳しかった。
カレンの父親がくるまでには時間がある。カレンの言葉を信じる理由はないが、仮に信じるならば時間の余裕はある。そ
「転移魔術は魔力の消費が激しいんだ。猶予があるなら、一度眠って体力回復させるのも有りかと思ってな。その猶予はないか?」
「あーなるほどね。それはそうかも」
納得したのか気軽な答えが後ろからかえってくる。
ロイスはため息を吐き出した。
結局、完全に放置していくことは、ロイスの性格上できないのだった。
優しいとか、そういうことではなく、ロイス自信は自分のことを打算的であると思っていた。
魔族の少女をぽいっと放り投げたとして、人間に見つかって殺されでもしたら後味が悪い。それ以上に、ロイスの名前を出されたら面倒極まりない。最悪、魔族と繋がっていると噂をたてられて、魔族嫌いの教会に敵視される可能性もある。そうなると、街によっては立ち入りもできなくなるから困る。
彼女の言う通り魔族の大人から誘拐犯扱いされて追いかけられるのも冗談ではない。
ただ、そういう理由だ。
(そうに決まっている)
ロイスは自分に言い聞かせるように心のうち側でそうつぶやいていた。
村の入り口に差し掛かったところで、ロイスはちらりと後ろをついてくる少女に視線を向け、あらためてその姿を観察した。
一言で言うなれば、カレンは美少女だ。
明るい日の下で見てみれば、しみじみとそう感じられる。
相当の美貌の持ち主で、随分と目をひく容姿をしていた。金の髪は透けるようだし、瞳は大きな宝石のよう。尖った耳などは魔族をうるさいぐらい主張している。
まとっている服装も、見たこともない派手な色。
(何で染めてるんだこれ、木苺か?)
そういう色の、しかもすこし変わった形の服をきている。
女と言うものは、人間なら子供でも滅多に素肌を晒さないものだが、カレンはというとすらりとした手足を惜しげもなく見せている。そういうのは魔族特有の服飾文化なのだろう。
しかし、これでは普通にいるだけで、おそらく多くの人々の視線を奪うことになるだろうと、ロイスは思った。
そのカレンが後ろをついて来るとなると、想像しただけで面倒くさい。
ロイスは自らの外套を脱いだ。
「カレン」
「何? わっ何するのよ」
呼びかけられた途端、外套を頭からかけられて彼女は目を白黒させる。
「その格好じゃ目立つ。どうせ人間界の金もないんだろう。適当に服を買ってやるから、着替えろ」
それまでその外套を被ってろ。と、ほぼ命令口調でいう。
カレンは自らの服装を見て、ロイスを見て、外套を見て、しぶしぶといった様子で頷いた。
「確かに目立ちそうね。ありがと」
(ああ、彼女は礼を言えるのだな)
ロイスは思う。
なんとなく身なりの良さそうな彼女を見て。わがままでイタズラ好きの彼女と接していて。勝手に人間界のわがままな貴族の娘と重ねていたのかもしれない。
(礼もろくに言えない娘たちと比べるのは、失礼だったかもな)
そんなふうに思った。




