表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/68

勝手と礼儀

  

 いやいやながらロイスはカレンを連れて村に入ることにした。

 正確には村に入るロイスに彼女は平気な顔をしてついてきた。勝手にしろと言ったから、勝手にすることにしたのだろう。

 勝手にしろと言った手前、勝手についてきているのをとがめるつもりもない。明日転移するときに置いていけばいい。

  

 ヨウラ村は、村という形をとっていながらも人の交流が盛んで、昼間でも夜でも大きな通りには人があふれていた。

 ロイスがこの村に転移の先を指定したのは、ここが魔界に転移する前、最後に立ち寄った村であったこと。そして物流が充実しているこの村からであれば旅の準備には困らないだろうと思ったからだった。

 なので、今の目的は食料の確保と休息だ。

 外壁をぐるりと回りながら、入口を探す。


「この村に泊まるの?」


 カレンの疑問に一瞬無視しようとして、しかしそうなれば騒ぎ出しそうな気がして渋々答える。


「……ああ」

「でも……」


 追われているのに? そんな疑問が聞こえてきそうな声音にほんのわずかな嘲笑が浮かぶ。


「父親が来るまでには猶予があるんじゃなかったか?」

「そうなんだけど、それでも気持ちの問題ってあるじゃない」


 カレンが不安そうにロイスの言葉に抗議する。


「ここからどこに言っても魔界からの距離なんて一緒だろうが。移動する理由がない」


(転移した残滓を追ってくるなんて芸当ができるなら話は別だが……)


 魔族ならなんでもありで、出来てしまいそうな気もしなくもないが、かと言って移動するのは、やはり消費の激しい今のロイスには厳しかった。

 カレンの父親がくるまでには時間がある。カレンの言葉を信じる理由はないが、仮に信じるならば時間の余裕はある。そ


「転移魔術は魔力の消費が激しいんだ。猶予があるなら、一度眠って体力回復させるのも有りかと思ってな。その猶予はないか?」

「あーなるほどね。それはそうかも」


 納得したのか気軽な答えが後ろからかえってくる。

 ロイスはため息を吐き出した。

 結局、完全に放置していくことは、ロイスの性格上できないのだった。

 優しいとか、そういうことではなく、ロイス自信は自分のことを打算的であると思っていた。

 魔族の少女をぽいっと放り投げたとして、人間に見つかって殺されでもしたら後味が悪い。それ以上に、ロイスの名前を出されたら面倒極まりない。最悪、魔族と繋がっているとうわさをたてられて、魔族嫌いの教会に敵視される可能性もある。そうなると、街によっては立ち入りもできなくなるから困る。

 彼女の言う通り魔族の大人から誘拐犯扱いされて追いかけられるのも冗談ではない。

 ただ、そういう理由だ。

 

(そうに決まっている)


 ロイスは自分に言い聞かせるように心のうち側でそうつぶやいていた。



 村の入り口に差し掛かったところで、ロイスはちらりと後ろをついてくる少女に視線を向け、あらためてその姿を観察した。


 一言で言うなれば、カレンは美少女だ。

 明るい日の下で見てみれば、しみじみとそう感じられる。

 相当の美貌びぼうの持ち主で、随分と目をひく容姿をしていた。金の髪は透けるようだし、瞳は大きな宝石のよう。尖った耳などは魔族をうるさいぐらい主張している。

 まとっている服装も、見たこともない派手な色。

 

(何で染めてるんだこれ、木苺か?)

 

 そういう色の、しかもすこし変わった形の服をきている。


 女と言うものは、人間なら子供でも滅多に素肌をさらさないものだが、カレンはというとすらりとした手足を惜しげもなく見せている。そういうのは魔族特有の服飾文化なのだろう。

 しかし、これでは普通にいるだけで、おそらく多くの人々の視線を奪うことになるだろうと、ロイスは思った。


 そのカレンが後ろをついて来るとなると、想像しただけで面倒くさい。

 ロイスは自らの外套がいとうを脱いだ。

 

「カレン」

「何? わっ何するのよ」

 

 呼びかけられた途端、外套を頭からかけられて彼女は目を白黒させる。

 

「その格好じゃ目立つ。どうせ人間界の金もないんだろう。適当に服を買ってやるから、着替えろ」

 

 それまでその外套を被ってろ。と、ほぼ命令口調でいう。

 カレンは自らの服装を見て、ロイスを見て、外套を見て、しぶしぶといった様子で頷いた。


「確かに目立ちそうね。ありがと」

 

(ああ、彼女は礼を言えるのだな)

 

 ロイスは思う。

 なんとなく身なりの良さそうな彼女を見て。わがままでイタズラ好きの彼女と接していて。勝手に人間界のわがままな貴族の娘と重ねていたのかもしれない。

 

(礼もろくに言えない娘たちと比べるのは、失礼だったかもな) 

 

 そんなふうに思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ