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繰り広げられる修羅場

クロードが聖剣を持っているということで、ディオン皇太子殿下他、聖剣を持った者達と共に北の魔女に会いに行くといって出かけてしまった。

何でも災厄が迫っているという事らしい。


クロードが居ないと心にぽっかり穴があいたようで、グリザスは寂しかった。

騎士団の見習いの講義が終わり、部屋に戻ると、勉学に励む。

大分、今のマディニア王国について解ってきたし、字もまともに書けるようになってきた。


部屋の扉をノックされる。誰だろう。

扉を開けると顔なじみの見習いの青年が。


「グリザスさん、お客さんが来ています。寮の入り口で待たせてありますので。」


「俺に客?知らせてくれてありがとう。」


知り合いなんていないはずだが、寮の入り口に行ってみると、見知らぬ青年が立っていた。


黒髪で髪は短く、薄茶のコートを羽織り、ブーツを履いている。


冬が近く、大分、外は寒くなった。道行く人達も、日々厚着になっていく。


その青年はグリザスを見て、近づいてきて。


「君が200年前からよみがえった死霊の黒騎士だね。僕はユージン。リーゼティリアの夫だ。」


「聖女様の。俺はグリザス・サーロッドだ。何の用で俺に会いに来た?」


ユージンはグリザスを睨みつけて。


「妻に付きまとうのは止めてほしい。僕は妻を愛している。」


「いつ俺が聖女様に付きまとったというのだ?目覚めたあの日以来、個人的に会った覚えはない。王宮にもディオン皇太子殿下に呼ばれた以外は足を踏み入れていないのだが。」


「それは本当なのか?君が妻に付きまとっていると手紙が届いた。君も妻を愛しているのだろう?」


その言葉に対して、グリザスははっきりと言い切る。


「聖女様は俺の信仰の対象だ。200年前の人間なら、ほとんどの人が聖女様を信仰していた。

個人的に愛だの恋だのそのような感情は一切ない。」


ユージンはグリザスを正面から見上げて。


「まぁ…君がそう言うのなら、その言葉を信じよう。死霊と不埒な事をしようとしても出来るはずもないし…妻も信徒の一人として君を見ているのだろう。しかし、何故に今更、王宮に戻って来たんだか、死霊なら死霊らしく、行くところへ行くべきだったのではないのか?」


かなり辛辣な言葉をユージンはぶつけてくる。相当、グリザスの存在に頭に来ているのだろう。それだけリーゼティリアの事を愛しているのだ。


グリザスはこれ以上、この男と話していたくはないとは思ったが、はっきりと無実を訴えておかないとまずいと思い、更に言葉を重ねる。


「要件はそれだけか。誓って聖女様に付きまとっていない。俺がこの王宮に戻ってきたのは、

聖女様との約束もあるが、騎士は国に忠誠を誓っているからだ。マディニア王国の騎士なら、戦が終われば、王宮に戻ってきたい。当たり前だろう。」


バチバチと二人の視線が絡み合う。


こういう時にクロードが割って入って助けてくれるのだが、今夜はクロードはいなかった。


ユージンは叫ぶ。


「ともかく、リーゼティリアは渡さない。絶対にだ。」


「俺の言葉を信じるのではなかったのか。」


「何だか言い訳にしか聞こえなくなった。君が言い訳をすればするほど、リーゼの事を愛している愛していると聞こえてならない。」


凄い泥沼化してきた。


いい加減にこの男に帰ってほしい。


俺が黒騎士で、鎧姿ではなかったら、おそらく胸倉をつかまれて殴られていただろう。


そこへ背後から声をかけられた。


「あのーーー。まだお話は終わらないんですか??迷惑なんですけどー」


「俺達、勉強しなけりゃならなくて。」


一人は金髪のそばかすがある、細身の青年、もう一人は栗色の髪のずんぐりした太めの青年、

いつもクロードとつるんでいるギルバート・コンソルとカイル・セバスティーノである。

その後ろにはこの寮全員の他の17人がなんだなんだと集まっていて。


ギルバートはユージンに向かって。


「グリザスさんが、付きまとっていないって言っているんですからーー。いい加減に帰って貰えませんかーー。」


カイルもユージンの横に行き、じろじろ見つめながら。


「しつこい男は女性に嫌われるっていいますよーー。」


ジャック・アイルノーツという、初日の授業でグリザスがふっとばした公爵令息が前に進み出て。


「どうぞお帰りを。貴方は平民ですよね。何なら、治安隊に引き渡しましょうか。」


ユージンは不機嫌に。


「失礼する。」


扉を荒々しく閉めて帰ってしまった。


グリザスは皆に礼を言う。


「ありがとう。助かった。」


ギルバートはニコニコ笑って。


「グリザスさんは仲間ですから。しかし、あれ、王立病院のユージン先生だよね。」


カイルも頷いて。


「そうだ。ユージン先生だ。奥さんってリーゼティリア様だよな。最近、聖女って判明したセシリア皇太子妃の女官の。」


グリザスは困ったように。


「聖女様への付きまといを疑われた。付きまとった覚えはないのだが。」


ジャックがふふんと笑って。


「これだから無自覚な男は困る。付きまといはせずとも、グリザスは聖女様を愛しているのだろう?」


他の見習い達が叫ぶ。


「えええええーーー?やはりそうなのか??」

「そうだと思ったんだよな。」

「だって膝枕を望んだって噂だぜ。」

「それって不倫??

「まずいんじゃないの??」


ジャックがグリザスの顔の前で指を突き付け、にやりと笑い、


「それじゃグリザスは、聖女様の淫らな姿を妄想した事はないと断言できるのか。」


言葉に詰まる。男なら誰しも…妄想するだろう?女性の淫らな姿…


ギルバートがうんうん頷いて。


「するするする。あの女の子は胸が実っているなぁとか…あの女の子は胸が貧しいなぁとか。」


カイルもうんうん頷いて。


「それは妄想じゃなく観察だろーー?しかし世の中は無情だよな。その胸を収穫する機会なんて、なかなかないんだからさぁ。」


他の騎士団の連中も頷く。


「そうだよなーー。胸の収穫をする機会をもっと与えたまえーー。」

「そうだそうだーー。」


グリザスはぼそっと。


「お前ら全員、行動に移したら、わいせつ罪で捕まるぞ。」


ジャックがグリザスを肘で小突いて。


「話を逸らすな。冤罪を晴らしたければ、聖女様のせの字も口にしてはならないと思うが。」


このジャック・アイルノーツという生徒だけは、俺に敬語は使わない。公爵令息ということで威張っているのだろう。俺も王族以外に敬語を使う気はしないが。


「解ったと言えない所が辛いな…」


そう言うと、グリザスは自分の部屋に向かった。


部屋に戻るとベットに仰向けに寝転ぶ。


誰が、自分を陥れようとしたのだろう。


悪意が感じられる。


聖女リーゼティリアの淫らな姿か…


戦場での野営の時、よく、そんな姿を妄想した…。男だから仕方がない。


愛か信仰か、自分でもよく解らなくなってきた…

例え愛だとしても…それは叶わぬ愛…


自分は死霊なのだから。


胸の奥が、チクリと痛んだ…


久しぶりに…聖女リーゼティリアの淫らな姿を妄想した。


騎士団の見習い連中も、グリザスも男です(笑)

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