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演武会

そして演武会の前日、王宮の庭に朝、10時にグリザスが出向いてみれば、すでにディオン皇太子殿下とミリオンが待っていた。他の騎士団の出演する連中も、すでに各々リハーサルをしている。ただ、馬を使って演舞する騎士団の連中はこの場にいないようだ。隣接する広い別庭で練習しているのであろう。


グリザスが二人に近づき、

「お待たせして申し訳ありません。」

と挨拶をすれば、ディオン皇太子が。

「時間通りだ。問題はない。さて、始めるか。」

ミリオンも頷いて。

「さぁ…やろうか。グリザス。」


二人は素早く離れて、グリザスを前後に囲む。

手に持つは、各々、聖剣である。


それに対するグリザスの剣は…

昨日、クロードから借りて来た、魔の剣である。


― 魔剣の中でもおとなしいのを選んできました。危険なのだと、グリザスさんの身が危険になるので。 ―


とか、クロードが言っていたが、昨日、確認した時、その黒の剣を抜いてみると、十分禍々しさが感じられる。どれだけの血を吸った剣なのであろうか…。


その腰の剣の柄に手をやり、前後の二人の気配に全神経を集中させる。


まず、ディオン皇太子が緑の聖剣を抜き、襲い掛かって来た。


鋭く抜いてガキっと音をさせ、その聖剣を防ぐ。


背後からミリオンが赤の大剣を上段切りに斬り付けて来た。


ディオン皇太子の剣を力で思いっきり押し返し、返す剣で背後のミリオンの大剣を弾く。


二人はざざっと地を滑る。崩した態勢を立て直しながら、ディオン皇太子はニヤリを笑って。


「こいつは楽しい…本気を出していいか?」


ミリオンも邪悪に笑いながら。


「本気を出して、うっかり殺さないようにしないとなぁ。俺の大剣を弾くとは…」


殺気がグリザスを包み込む。


今度はディオン皇太子は地を蹴って凄い勢いで斬りこんできた。


何合も正面から凄まじい勢いで斬り結ぶ。


背後から再び襲ってくるミリオンを避け、ディオン皇太子を再び力づくで押し返す。


もう一本差していた、予備の小刀一本を左手で抜き、鋭く繰り出されるディオンの攻撃を右手の魔剣で、左手の小刀でミリオンの上段から来る大剣の攻撃を止める。


自慢の聖剣、それも大剣が、なんでもなさそうな小刀で止められたことに、ミリオンは怒りを感じたらしい。


「こいつ、殺してやる。」


ばっと離れると、地面を擦り、鋭くグリザスに今度は下から斬り付けてきた。


グリザスは黒の魔剣を両手に持ち、その攻撃を受け止める。


ディオン皇太子が、鋭い突きをグリザスの兜に向かって突き出してきた。


間一髪で避ける。


再び攻撃してくるミリオンの一撃を避けながら身を捻り、ディオン皇太子の頭に向かって思いっきり回し蹴りをした。


こちらも、間一髪で避けられて。


そんなぎりぎりの線上での攻防を、3人はしばらく、やっていたが。


「死んじゃいますよ。そんな本気な攻防をやっていたら。皆さんに何かあったらどうするんです?」


クロードが声をかけてきて。3人はわれに返ったように、剣を収め。


まずミリオンが。


「申し訳ない。お前を殺しちまったら、俺…後悔してもしきれない。本当にすまない。」


グリザスに頭を下げてきた。


ディオン皇太子も髪を掻き上げながら。


「俺もやりすぎた。つい頭に血が上るといかんな。」


グリザスも、頭を下げ。


「こちらこそ、お二人に失礼な攻撃を…。お許し下さい。」


クロードが呆れて。


「心配になって来てみれば。まったく。演武なんですから。打合せをしっかりしてやってくださいよ。」


クロードが来てくれて助かった…とグリザスは思った。


聖剣持ち二人にこれ以上の本気でかかってこられたら、さすがにしんどい。


命はないであろう。


それから3人は動きの打ち合わせをし、しっかりと演武にふさわしいようなリハーサルをしたのであった。


リハーサルが終わり、騎士団の寮に戻れば、クロードが鎧の清掃をしに今日も来てくれた。

グリザスはクロードに礼を言う。


「本当に、お前には助けられてばかりいる…。申し訳ない。」

「いえいえ、あの小刀、役にたったでしょう?」

「魔剣も凄いが、小刀も凄い。あれはなんだ?」


クロードが説明する。

「ああ、名匠が作ったと言われている小刀で、耐久性ではピカ一ですよ。斬れませんが。

30年前、魔王が滅びた際に城に集められていた宝物を、ゴタゴタの際に父上がぱくったらしくて。いわくつきな物が実家の城にごろごろありますよ。」


「やり手だな…お前の父上は。」


「やり手というか、抜け目ないというか…今は両親共々、隠居してますけどね。

まぁ、両親の話はともかく。明日は頑張って下さいね。グリザスさん。国王陛下もお見えになりますから。いい演武を見せたらご褒美も貰えるかもしれませんよ。」


「別に褒美等いらないが…。」


「あ、ご褒美貰える気になってますね。」


クロードがおかしそうに笑った。


明日は、聖女様も、フィーネも来るらしい。それに他の騎士団の見習い達も来るのだ。

良い演武を見せたい。そう思うグリザスであった。


翌日は良く晴れて…。


マディニア国王と王妃、ディオン皇太子殿下、フィリップ第二王子、高位貴族達が観客席に座っている。勿論、騎士団の非番の者達や、見習い達も観客席に座っていた。

セシリア皇太子妃、聖女リーゼティリア、聖女見習いフィーネの姿も見える。

ゴイル副団長や、近衛騎士、そして騎士団の勤務の者達は、王宮の庭で行われるこのイベントの警護をしていた。


王宮の庭の外からは、入れない民衆やローゼン騎士団長を目当ての女性たちが詰めかけて、

遠い会場を覗いている。少しでも見たいが為だ。

ローゼン騎士団長も出演が決まっていた。


高位貴族の女性達にもローゼン騎士団長は人気があるので、出せば喜ばれるからだ。


まずはマディニア国王が一段高い客席から、挨拶をする。

「本日はこのように良く晴れて嬉しいぞ。私は今日の皆の演武を楽しみにしている。よき演武を見せてくれ。」


皆が拍手をする。


そして、演武が始まった。


まずは、騎士達10人による演武である。


舞うようなその剣技、そして動きの統一性に皆、感嘆の声が漏れる。


良く練習されているようだ。


拍手のうちにその演武が終わると。


次は白銀の鎧を着た近衛騎士8人による演武である。


こちらは白馬を操り、槍を交わし、見事な男らしい演武を見せた。


皆、盛大な拍手をする。


そんな演武をグリザスは、出演者控えの席で眺めていた。


つくづく平和な時代だと思う。


自分の生きてきた時代は物騒だった。この王宮の庭も、敵の首や戦利品であふれていた事もあった位だ。


それが今、お祭り騒ぎで皆、浮かれている。


背後からミリオンに声をかけられた。


「出番まで暇だな…ま…こんな茶番に付き合うのもディオンに頼まれたからだから仕方がねぇが。お前も大変だな。」


グリザスは振り向きもせず答える。


「皇太子殿下の命とあれば、逆らえない。だが…俺自身は楽しんでいる。ディオン皇太子殿下とミリオン・ハウエルとの演武を。」


「勿論、俺も楽しいぜ。お前とディオンとの演武はな…。だが…なんだろうな。お前にもディオンにも…そして、この国の聖女っていうのにも黒い影を感じる。気を付けろ。凄い恨みを買っていないか?」


「アマルゼ王国の死人達だろう。この王宮の庭にも首がごろごろしていた。お前の言葉にふと思ったんだが、聖女様が火炙りになった件について、もしかしたら…」


その時である。スっと意識が遠のいて、グリザスの心は200年前に飛ばされた。


第一王子の傍に居た女性。最後に聖女リーゼティリアに会った後に、王子と一緒に居た女性は誰だったか…。栗色の長い髪をしたあの女性は…。


「マルセオ殿下、国民は皆、アマルゼ王国との戦に疲れ切っております。和平は考えられないのですか。」


第一王子に真剣に訴えていた女性。その姿を遠目で見かけた。


昔は遠目で見かけただけで、二人が話している内容までは聞こえなかった。


何故かはっきりと聞こえてくる。


その女性はさらに言葉を続ける。


「聖女リーゼティリアは偽物です。何故、戦で沢山、マディニア黒騎士団の騎士達が亡くなっているのですか。聖女様が祈りを込めて送り出しているというのに、守護されないのですか。」


マルセオ第一王子は、女性に向かって。


「何故と言われても…だが、確かに国民の不満は王家に向かっている。あの、堅苦しいリーゼティリアに私はうんざりしていたのだ。リーゼに罪を着せて、不満を収めるのも悪くはあるまい。」


女性はほほ笑んで。

「なら、そうなさいませ。私のお腹には新しい命が宿っております。勿論、殿下の子ですわ。

平和な御世の元で、王子を産みたいと存じます。」


「おおっ。私の子が出来たというのか。私もこの不毛な戦には飽き飽きしていた所だ。

父上に和平をしないか、相談してみよう。リーゼティリアという偽聖女の断罪についてもな。」


女の赤い唇が…怪しげに笑った。


そうだ…あの女は…。


女はマルセオ第一王子が居なくなった庭で呟く。


「聖女を断罪する事で。この国は終わる…。終わらなくても、和平を結ぶ事で救われるわ。

我がアマルゼ王国の為に…。あの憎き聖女を利用しなくては…」


グリザスはその女を遠目から睨みつける。


― あの女を殺さなくては…―  


腰の剣の柄に手を添える。


そっと近づこうとすると、肩に手をかけられ誰かに止められた。


振り向いたら、ミリオンが首を振って。


「さぁ…戻ろう。あの女を斬ったら、おそらくディオンも消える事になる。マディニア国王も、フィリップ殿下もだ。あの女の腹の中にいるのは、間違いなく今の王族の先祖だ。」


「だが、あの女のせいで、聖女様は…火炙りになった。」


ミリオンはグリザスの背に手を添え正面から抱きしめてくれた。


「ヨシヨシ。辛いな。だが、聖女様だって恨みを飲み込んだんだろう。今、マディニア王国に仕えているのが何よりの証拠だ。だから、お前が殺していいってことは無い。何より、俺はディオンが居なくなるのが嫌だ。そうだろう。あの男がいると楽しいからな。お前も友になろう。女もいいが、友っていうのもいいぜ。」


きっと俺は泣いているのだろう…


いつの間にか、元の演武の控えの席に戻ってきていた。


何か周りの視線が冷たい。


そりゃそうだろう。大の男同士が抱きしめ合っているのだから。


フィーネが客席から降りてきたのか、ミリオンに向かって。


「ちょっと、そこのお兄さん、グリザス様を虐めちゃ駄目でしょーーー。」


ミリオンが慌てて、グリザスから離れて。


「いや、虐めちゃいないよ。昨日は殺そうとしたがね。」


とフィーネをからかえば、フィーネは怒りまくって。


「吹っ飛ばす。チュドーンするっ。」


どうも噂ではフィーネは、相手のオーラを爆発させて、ぶっ倒した事があるらしい。


フィーネの背後から近づいたディオン皇太子に声をかけられる。


「それは勘弁してくれ。王都が吹っ飛んでしまうからな。」


ディオン皇太子がフィーネをひょいと抱き上げる。


「さぁ、フィーネは客席だ。俺達の演武の出番だぜ。」


ミリオンが楽しそうに。


「よし、行こうか。」


グリザスも頷いた。


三人の演武は見事だった。


打ち合わせは綿密にしたので、ぎりぎりの攻防に見せかけつつ、派手に見せる剣舞を披露した。


演武が終わった時、拍手喝さいだった。皆、立ち上がる。


そして最後はローゼン騎士団長と、10人の近衛騎士達との演武だった。


こちらは馬に乗っていて、動きが整っており、更に煌びやかで、華麗だった。


女性たちのキャーキャー言っている声がする。さすが国一番の美男と言われるだけの男であり、大人気だ。


全ての演武が終わった後に、マディニア国王が、客席で立ち上がり。


「皆の者。素晴らしい演武だった。私はこのような騎士達を持ち、誇りに思う。ご苦労であった。褒めて遣わそう。」


出演者全員が、王宮の庭でひざまづき騎士の礼を取る。


そして演武のイベントは大成功で終わった。



クロードが心配してグリザスの傍に来て。


「何かありました?フィーネが騒いでいたようだったので。」


「何でもない。」


フィーネがクロードの傍に駆け寄ってきて。


「泣いてた。グリザス様、泣いてたんだよ。」


「ええええ???」


「あの赤い髪の人に虐められてた。」


ミリオンを指さす。


クロードがミリオンに近づいてにっこり笑って。


「ミリオンーーー。ちょっといいかな。」


ミリオンは手を振り。


「だから、俺は虐めてないってば、それじゃディオン。またな。それからグリザスも。今日は楽しかったぜ。」


ディオン皇太子も手を振って。


「俺も楽しかった。また、やろう。」


魔法陣が現れて、逃げるようにミリオンは帰っていった。


クロードはため息をついて、グリザスの傍に戻ってきて。


「何があったのか聞きませんけど、男には言えない事もあるでしょうし。

ともかく、寮に帰りますか。フィーネも王宮にお帰り。」


フィーネは頷いて。


「それじゃまたねーー。グリザス様、今度虐められたら、あのお兄さん、私がただでおかないから。チュドーンするっ。」


グリザスは困ったように。


「チュドーンはまずいのではないのか。ありがとう。フィーネ。」


「どういたしまして。おやすみなさい。」


フィーネは王宮の方に走っていった。


日が傾いてきて、演武も無事に終わってよかった。


しかし、今日のあの幻は…何故、過去に飛ばされたのか…。


グリザスは何とも言えぬ、不安を感じるのであった。


殺意からのヨシヨシって…しかし、グリザス可愛い。ディオン皇太子殿下もミリオンもお気に入りです。クロードもフィーネの絡みも大好きです。

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