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始まった新たなる日常。

クロードと共にグリザスが王宮の庭に行ってみれば、ゴイル副団長と19名の騎士団見習い達が待っていてくれた。

茶髪の髭を蓄え、銀の立派な鎧を着た中年の大男、ゴイル副団長は近づいてきて、右手を差し出し。

「俺はゴイル副団長だ。よろしく頼む。」

グリザスが右手を差し出すまでも無く、勝手に両手でグリザスの右手を掴んで握り締めてくる。

そして、クロードを含めた見習い20名に向かって。

「皆、グリザス指導官に自己紹介。」


端から自己紹介を見習い達はしていく。

皆、貴族の子弟がほとんどで。


「ギルバート・コンソルです。コンソル伯爵の三男です。」

「カイル・セバスティーノ。セバスティーノ男爵の次男です。」

「ジャック・アイルノーツ。アイルノーツ公爵の次男です。」


一人一人紹介をしていく。昨日、ローゼン騎士団長から渡された書類で顔と名前、経歴を確認する。


最後にクロードが。

「改めて、クロード・ラッセルです。フォルダン公爵からの紹介で入りました。爵位のある身内はいません。」


しかし、書類には赤字で。


- 第一魔国の魔王サルダーニャの弟 第一魔国王族である。-


と、何やら理解に苦しむ事項が書かれていた。


書類を持って固まっていると、ゴイル副団長が横から覗き込んで。


「クロードは特別扱いしなくていい。模造剣を持ってきた。各自の実力を見てやってくれ、

ただし、怪我させないようにな。」


模造剣を渡される。

刃がつぶしてあるが、重さは真剣と変わりはない。


ゴイル副団長は。

「真剣と盾は後で部屋に届けさせよう。実力を試す方法は任せる。」


それならば…

「10人ずつかかってこい。全力でだ。」


20人全員が一気に緊張する。


クロードが質問してくる。


「どんな手を使ってもよろしいのでしょうか。」


「ああ、構わない。」


クロードとジャックが皆を集めて、何やら相談している。


何だ??何を相談しているのだ?


王宮の広場の中央に立つと、まずはジャック・アイルノーツを含めた10人が、グリザスの周りを取り囲んだ。


3人の青年たちが剣を持って飛び掛かってくる。


軽く手をはたき、剣を叩き落とす。


その時だった。


左手から3人が飛び出て来て、何やら投げつけてくる。


兜に当たった途端、白い粉がさく裂した。視界が真っ白になる。


更に3人が身を低くして足元を狙ってくる。


そんな姑息な手にやられる俺ではない。

足元を狙ってきた3人の背を次々肘打ちし、気配を頼りに、向かってくる玉を投げた3人に次々とみぞおちに当て身を食らわせていく。その時だった。背から脇腹を狙った鋭い一撃を感じた。かろうじて避ける。

一撃をくらわしてきた相手に振り向きざま、思いっきり刀身を相手の剣に叩きつけた。


ゴイル副団長が叫ぶ。


「ここまでだ。」


叩きつけた相手は吹っ飛ばされて、背から地面に倒れこんでいた。


ジャック・アイルノーツと名乗った公爵令息だ。

確か、ジャックの叔母はこの国の王妃だったな。


皆が駆け寄っていく。


「大丈夫か?ジャック。」

「しっかりしろ。」


ゴイル副団長も駆け寄って、ジャックを見る。


クロードもジャックの身体に手を添えて、具合を見ていた。


ジャックは立ち上がって。


「大した事はない。」


他の9人も、背中やみぞおち、手の甲をさすっているが、手加減したので大した事はなさそうだったが、ジャックに対しては思いっきり吹っ飛ばしてしまった。


なかなかチームワークを考えた攻撃をしてくる。


クロードが立ち上がって、にっこり笑い。


「グリザス指導官、覚悟して下さいね。」


大言を吐いて来た。


次の10人が周りを囲んでくる。


中でもクロード・ラッセルの気が凄い。


10人が一斉に飛び掛かってきた。


次々に払いのけ、突き飛ばすようにする。


しかし、その中に鋭い一撃が混じる。


鎧の肩口の金属がはじけ飛んだ。


その一撃を繰り出した相手に向かって、鋭い一撃で返す。


ただし、力は加減した。やはり相手はクロードだ。


クロードが間一髪で避けたのか、横に飛びのいて剣を構え直す。


「本気で来てくださっていいんですよ。出ないと…」


クロードが剣を振るってくる。


それを受け止めれば、ガキンと音がして互いの模造剣が壊れた。


ゴイル副団長が止めに入る。


「はいはい。ここまで。備品を壊すな。」


グリザスに向かってゴイル副団長は。


「クロードとジャックの実力が中でも突出している。後は似たり寄ったりだ。」


グリザスも同意する。


「確かにその通りのようだな。下手したら近衛騎士より強いのではないのか?」


クロードもジャックも。

「まだまだです。グリザス指導官、きっちり指導をお願いします。」

「俺もまだまだです。よろしくお願いします。」


他の見習い達も。

「俺達も正騎士になりたいので、よろしくお願いします。」

「グリザス指導官お願いします。」


「解った。しごいてやろう。覚悟するがいい。」


自分が死霊だという事を忘れてしまう程に、皆、普通に接してくる。

黒い鎧が粉まみれになったので、クロードに落としてもらい、

今度は一人一人を相手をし、剣の使い方等を指導する。


人を指導した事もなく、自分の事で精いっぱいだった200年前。


人を指導出来る今は楽しかった。


午後になると、室内でもゴイル副団長の講義がある。

この国の歴史から、一般常識等、徹底的に教え込まれる。


グリザスは一番後ろの席で講義を受けさせてもらった。


なかなか興味深い。しかし、世間から見たら滑稽であろう。背の高い黒騎士が鎧兜をつけて、怪しげなオーラを発しながら、羽ペンを手に講義を受け、メモを取っているのだから。

興味深い内容もじっくりと吟味する暇がない。字が下手な自分はメモを取るのも一苦労で。


前の席のクロードが。


「後で、俺のメモを見せてあげますから。」


と小声で言ってくれた。相当、苦戦しているのが解っているようだ。


講義が終わると、部屋に戻り、クロードがすぐに鎧を掃除して綺麗にしてくれる。

欠けた肩の金属も魔法で修復してくれた。

飯も食べずに、昨日のディオン皇太子殿下に提出する報告書の代筆をやってくれた。

グリザスの紡ぐ言葉の一言一言を紙に書いて行く。


クロードが一通り書いたら、時間は夜中になっていた。

「グリザスさんって苦労したんですね。孤児で育って、16歳でもう、黒騎士見習いで一気に戦場ですか。5回のアマルゼ大戦でも生き残っている。」


「運が良かっただけだ。そのたびに聖女様に祝福を受けて…運よく加護があったのだろう。最後の戦の途中で聖女様が火炙りにあって亡くなってしまった。俺の中で加護が無くなってしまったのかもしれんな。」


「気持ちと実力の問題ですよね。それって。沢山のマディニア黒騎士達が亡くなっているって…加護については聖女様の力はないのでは?」


「それでも聖女様は俺の信仰だった…信仰が無いとあの地獄の中では戦えない。」


今だ、自分は縋っているのか…聖女様の事になると熱く語りたくなる。


戦に出るようになってから、いや、死して200年、更に地獄を彷徨っている間。ずっと想っていたのだ。


クロードは息を吐きだして。


「何だか悲しいですね…。どうか今の生活で貴方の生きがいを見つけて下さい。俺、力になりますから。」


「心配してくれているのか。有難う。クロード。」


クロードだけではない。皆、死霊の自分を普通扱いしてくれる。

そう、二度目の人生を生きているように…。


翌日にはフィーネが聖女様のお守りを持ってきてくれた。

何やら金の紋章が白地に描かれている小さな四角い生地だが、間違いなく、遠い昔に流行った聖女の紋章だ。


手にしてグリザスはそれをベットの脇机の上にそっと置いて。

「ありがとう。フィーネ。」

「いえ、どういたしまして。喜んでくれて嬉しいです。」


ニコニコ笑って今日も手を握り締めて、グリザスの身体を癒してくれる。


騎士団見習を指導しながら、ゴイル副団長の講義を受け、勉学に励む。


そんな日々が続いて、自分が死霊であるのを忘れるかのように、幸せだった。


毎日が楽しかった。


特に毎日、フィーネとクロードと共に話すたわいない話も楽しくて。


そんなとある日の事である。


ディオン皇太子殿下が用があるというので、宮殿まで来るようにと言われた。


何の用であろうか?


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