朝の商業都市
街と組織の大まかな説明です。
瞼の裏が段々と白く染まっていき、朝日が昇ってくるのを感じる。それに伴い、朝を知らせる雄鶏の鳴き声や、目覚めた馬がブルルとなくのが聞こえてきた。
「…ん」
ゆっくりと身を起こして目を擦る。外の家畜たちの声が段々激しくなり、ようやく朝が来たことを実感する。軽く伸びをして寝床にしていた馬小屋から外に出る。朝日を浴びながら空を見上げる。
「今日もいい天気になりましたと」
雲一つない空を見上げながら独り言ちる。そして近くの川へ向かいそこで軽く水浴びをし、着ていたものを軽く洗濯する。そろそろ新しい服と下着が欲しくなってきたと思いながら体を乾かす。その間に、持っている武器の手入れも忘れない。
大分明るくなった頃、服もあらかた乾いて来たところで、馬小屋の管理人さんに挨拶と一緒に家畜の世話を手伝う。その後に朝食を分けてもらい、身支度を整えたところで都市部にある【冒険者ギルド】に出発した。
◆ ◆ ◆
おれ達が暮らしているのは大陸の西側に位置している【リール王国】(大体は王国で通じる)、そこにある首都から馬車で東に三日ほどかかる距離にある【カイエン商業都市】(こちらはカイエンで通じる)という。行商人たちの通行の要としてのほか、外敵から首都を守るための要塞として建てられたため、人工はそこそこ多い。警備の兵士や冒険者にに向けた商店が街道沿い位に軒を連ねていて、人通りはとても多い。
街の外に出ると、【ダンジョン】と呼ばれる魔物が発生する洞窟がある。カイエンの冒険者はそこを拠点にして【ダンジョン】を探索し、魔物を倒してその部位を討伐の証として【冒険者ギルド】に報告してその報酬をもらうことで生計を立てている。
別に魔物討伐だけが冒険者の仕事なのではなく、町の掃除や、森で薬草の採集。更には落とし物の捜索依頼など、魔物討伐以外の雑用なども引き受ける、いわゆる何でも屋でもある。
そんな【冒険者ギルド】は、街道沿いに大きな建物を構えている。
◆ ◆ ◆
【冒険者ギルド】の中は、入り口から入って正面に受付があり、そこにはいつもそこに座っている姐さんがいた。右手に掲示板、左手に酒場を兼ねた集会所があり、今日もたくさんの冒険者で賑わっていた。おれは掲示板から『表通りの掃除』と書かれた紙を剥がし、受付の姐さんに持って行く。
「この清掃依頼を受けたいんですが」
姐さんにそう声をかける。
「あぁ、いつものやつね!お役所からかなり感謝されてるよぉ」
「感謝?」
「そうそう。なんでも向こうも人手が足りずに仕方なくこちらに依頼を回しているようなんだよねぇ、でもここにいる野郎共ときたら一も二も『旨い討伐依頼はあるか?』ってさぁ、そんなん知るかっての!おかげでこういう雑用系の依頼がどんどんたまっていってさぁ…」
姐さんは、ハァ…とため息をつく。
「それで最近は掃除や採集依頼がこうしてたまってるんですね」
「そうなのよ!ただでさえこの街は大きくて私たちの手の届かない所があるからもう少しこの街のためになることをやってもいいと思うんだけどねぇ」
「それこそ役所の仕事では?」
「あっちはほとんどが文系。街の清掃やら何やらは力仕事になってほとんど動こうとする人がいないみたい。居たとしてもほんの僅かに運動不足解消のためだったり、痩せて女にモテたい馬鹿男が参加するくらい。常に引き受けるのは大体あんたくらいね、おかげで掲示板がすっきりして私たちもとても気分がいいわ」
なんかすごい持ち上げられている気がする。こういう時は用心した方がいいとおれの本能が警鐘を鳴らしている。
「そうですか、では俺はこれで」
「おっと待ちなさい」
「ぐぅぉえ」
そのまま去って仕事に向かおうとしたら服の襟首をつかまれて実に気持ち悪い声が出た。
「追加報酬を出すからさぁ、表通りは勿論だけど裏通りの方もお願いできるかしら?」
やっぱりこういうタイプだった。