義妹に襲われて
「おそいよお兄ちゃん!いつまでミルク絞ってるの!」
部室のドアを開けると冷たい空気と共に煩わしい声が聞こえてきた。
「ほら、お待ちかねのしぼりたてミルクだぞ」
椅子に腰かけつつ手渡してやると、ありさはにやにやして受け取った。
「ありがとお兄ちゃん。それでありさの写真ミルク絞りに役に立った?」
「お兄ちゃんは義妹のパンツには興味ありません。」
即答してやったぜ。
「うそはだめだよお兄ちゃん。ほんとはお兄ちゃんもありさのことエッチな目で見てるくせに~」
そういうとありさは椅子を寄せてくっついてきた。
「汗かいてんだからくっついてくるなよ。少し涼ませろって」
「だからいいんだよ」
椅子を離したがまた寄せてきやがった。
「すぅー、はー、ああー、いい匂い」
近寄るだけでは飽き足らず俺の胸元に顔をうずめて深呼吸し始めたぞ。
「…なにしてんの?」
「うーん、なにって見ればわかるでしょ?やだったらありさを退かしてみてよ」
すー、はー、すー、はーして退く気はないようだ。
とても暑苦しいのでやめて頂きたい。
「もう満足しただろ?いい加減どけって……ん?」
ありさを退かそうとしたが腕が動かない?いや、腕だけじゃない!足も腰も首も体全体が動かない!
「すぅー、はー、どうしたのお兄ちゃん?ありさを退かさないの?それともやっぱり退かせないのかな?」
ありさは俺の胸に両手を当て、俺を見上げにやにやしている。
「ありさね、今朝からそうじゃないのかなって思ってたんだ」
くにくに、くにくに
「……」
くにくに、くにくに
「部室に来るのも遅かったし、もしかして逃げちゃったのかなって思ったよ」
くにくに、くにくに
「……ありさ、乳首触るのやめてくれないか」
ありさは俺の着ているワイシャツの上から中指と薬指の間に乳首を挟み、くにくに、くにくにと刺激を与え続けている。
「お兄ちゃんはまだ状況が理解できてないみたいだね。あ、固くなってきたよ」
「何が!ありさが人の乳首いじってるから話が進まないんだろ!」
「あんまり口答えしないでねお兄ちゃん。ありさのさじ加減一つでこの先の展開が変わっちゃうってことわかってるのかな」
「うひっ」
首筋に吸いついてきやがった!
そして乳首への刺激も休まずに続けられている。
くにくに、ちゅっちゅ、くにくに、ちゅっちゅ
まずい、このまま流されると取り返しがつかないことになるぞ!
「気持ちいい、お兄ちゃん。どくんどくんってお兄ちゃんの胸鼓動はやくなってるよ」
「やめてくれ、ありさ」
くそ、体が動かない!
一体どうなってるんだ!
「お兄ちゃんはありさにもっと気持ちいいことしてほしいから動かないんだよね?いいよ、してあげるね」
ありさの手が俺の下半身へと向かう。
動け俺の体!このままじゃありさに食われちまう!性的に!
しかし無情にも全く俺の意思を体は受けっとってくれなかった。
「ほら、そんなに力まないで楽にしててね」
ありさが甘く囁いた言葉を耳にして俺は抗うことをあきらめた。
ああ、俺の秘密が…、魔法使いになる権利はこんな所で終わってしまうのか…
おじさんやおばさんにはなんて言えばいいだろう…
諦めて放心状態になっていたがいつになっても下半身を襲ってくる刺激が無い。
不思議に思い閉じていた目を恐る恐る開くと二人の手が映った。
1つは俺の息子へと伸ばされたありさのもの。
もう1つはそのありさの手首をつかんで止めている!
誰だ!この部室には俺とありさしかいなかったはずなのに!
「見学させてもらっていたけれど、無理やりは良くないんじゃないかしら?」
ありさの手首を掴んでいる人の声だ。
どうやら女性らしい。
「お兄ちゃん!これはどういうこと!」
ありさはなぜか俺に苛立ちをぶつけてくる。
どういうことって俺が聞きたいよ!
「俺の方が状況を理解できてないと思うぞ!」
「二人とも少し落ち着いたらどうかしら?」
パチン、彼女が指を鳴らすと目の前にいたありさは部室の端で椅子に座っていた。
な、何が起きたんだ!
唯一動かせる目を最大限動かし状況をみるしかない!
確かに一瞬前までありさは目の前にいた。
でも今は壁まで下がって座っている。
この数分間で俺の理解の範疇を超える事が起きている!
「やってくれるね、おもちゃの分際で!」
立ち上がるありさ。
「人型だとは思わなかったよ。でもそんなの関係ない!お兄ちゃんから出て行ってもらうんだからね!」
何かつぶやきながらありさは右の掌を俺に向けた。
すると掌に小さな球体が出来た。
その球体から光が溢れだしていて徐々に大きくなっていく。
え!俺に向けるの!この状況だと俺じゃなくて彼女にじゃないの?
良くわからんがあんな理解の範疇を超えたもんを当てられたらどうなってしまうかまったく分からないぞ!
「ふふ、もう手遅れよ。私とリュウジは一心同体だもの」
ありさの行動には全く気をさく素振りのない彼女は俺の正面にふよふよと浮いてきた……って浮いてる!
足はある!幽霊じゃない!
ってか小さいな!ふりふりなドレス着てるし!
「ふふ、そんなに見つめて貰えたならこのドレスを着てきてよかったわ。安心してリュウジ、私が守ってあげるわ」
彼女に気を取られていたからだろうか、彼女の言葉を耳にした時には彼女の背中越しからでも感じるほど球体の光が大きくなっていた。
「安心してお兄ちゃん!この光は当たってもお兄ちゃんには無害だからね!」
「いやいやいやいや!何言ってんだよありさ!え!なに!どうするつもりなの!」
「夢の世界に、帰れぇー」
動揺する俺を前に気合の乗った声と共に見事場ピッチングホームから球体は投げ出された。
俺を庇うように背を見せる彼女は慌てる様子もなくただ浮いている。
このままでは彼女にあの球体が当たってしまう!
「ふふ、なにも心配しなくて大丈夫よ」
迫ってくる弾丸のような球体を前に彼女には恐怖はないのだろうか。
パァン、風船が破裂したような音が響く。
彼女に球体が当たった。
ゆらゆらと漂いながら彼女は俺の膝の上に座った。
「大丈夫か!」
俺の声に反応することなく彼女は光に包まれて消えてしまった。
「ああ、良かった。あんなおもちゃにお兄ちゃんを取られちゃったかと思ったよ」
ありさは俺に褒めて欲しそうに無邪気に笑っている。
「彼女に何をしたんだ、ありさ」
自分の声とは思えない程声が震えている。
恐怖もあるが怒りの方が大きいようだ。
なぜこんなに怒りが湧いてくるのだろうか?
「なにって?おもちゃが本来いるべき場所に戻しただけだよ?」
「殺したのか」
「あれはもう人じゃないよ。だから殺したじゃなくて戻したってのが正しい表現だよお兄ちゃん。それにさっき言ったようにおもちゃが本来いる場所…んーそうだなー、おもちゃ箱にいれただけだよ」
「殺した訳じゃないんだな?」
「だからそう言ってるでしょお兄ちゃん」
「ありさ、おまえ一体何者なんだ?俺の知ってる限り人間は掌からあんな危ないもんを生み出したりはしない」
ありさは左の掌に球体をつくり俺に近づいてきている。
「お兄ちゃんの質問に答えてあげてもいいけどどうせ忘れちゃうから意味ないよ」
「どういうことだ?記憶でも消すってのか?」
一歩一歩近づいてくる。
「そうだよ。マンガとかでよくあるよね。実はこの世界には秘密があって世界のために陰で戦ってる人がいたりします。だからお兄ちゃんのような何も知らない人たちは笑顔で暮らせるのでした。しかし、不幸なことに世界の秘密にかかわる事件に関わってしまう人も出てきます。でも問題ありません。なぜなら秘密を知ってしまっても記憶を消す方法があるからです。こうして今日も世界は平和に保たれるのでした。まる」
ありさが説明している間にも少しでも抵抗しようとしたが未だに体が動かず無駄に終わった。
もうありさは俺に触れることのできる位置にまできている。
「さて、お兄ちゃん。お兄ちゃんは今あったことは忘れちゃうけど今のうちに何か言っておきたいこととか何かあるかな?」
「無い」
「声が震えてる割に潔いねお兄ちゃん。記憶を消される時、泣きわめいたり失神したりおしっこ漏らしちゃったりする人もいるよ」
左の掌にある球体が俺の頭に向けられる。
「痛みはないから安心してね。」
球体が迫ってくる。
記憶を消すと言ってはいたが本当にそうなのだろうか?
もしかしたら彼女のように消されてしまうのかもしれない。
ありさが俺にそんなことをするはずがない!
一瞬の間に頭の中を考えが巡る。
「ふふ、ありさちゃん。あなたの思い道理にはさせないわ」
パチン、指を鳴らす音が聞こえる。
「え…なんであなたが!」
「言ったでしょ?リュウジを守るって」
パァン、風船が破裂したような音と共に球体がはじけ飛んだ。
ふらふらと後ろに下がり、倒れこむように沈むありさは、片膝をつき左の掌で頭を押さえていた。
「なにがどうなってんだ!」
正直パニックになっている!。
俺に向けられ当てられるはずだった球体をありさが自分の頭に当てた!
ただそれだけじゃない!
俺に向けられた腕を方向転換して自分に向けたわけではなく最初からそうだったように掌はありさの頭にのっていたんだ!
「落ち着きなさいリュウジ」
背後から声がする。
「お前!ありさは大丈夫なんだろうな!」
「お前呼ばわりとは随分なものね」
「はぐらかすな!」
「問題ないわ。気を失うだけよ」
「それは問題あるだろ!」
「それじゃあリュウジ、ありさちゃんが気を失う前に見せてあげましょうか?」
「何を?」
「聞かなくても分かるでしょ?」
背後でくすくすと笑う彼女。
「本当にリュウジは手がかかるわ」
「!」
彼女が俺の膝の上に座っている!
この時体を動かせない俺は正面から彼女を初めてまともに見ることができた。
色素の薄い白い肌、フランス人形が着ているようなドレス、日本人が髪を染めても消して出ない輝くような金髪、そして俺に迫ってくる桃色の唇。
あっ、かわいい…素直に思い見とれた。
俺が置かれている状況など頭から消えてしまった。
ただ彼女の姿に魅了され心が持っていかれてしまう。
頬に両手を添えられる。
「だめ!お兄ちゃん!」
ありさの悲痛な叫びが聞こえる。
しかし、今の俺には彼女の事しか目に映っていない。
迫ってくる桃色の唇に意識も神経も集中している。
ちゅっ、彼女の唇が俺の唇と重なった。
やわらかい、こんなに唇って柔らかい物なんだ。
彼女の香りも相まって思考が蕩けていく。
「ああ、そんなぁー」
悲鳴にもとれる呟きと共にありさは倒れた。
「は、ありさ!」
ありさが倒れたのを目のあたりにしてとっさに体が動いた。
彼女を押しのけありさのもとへ向かう。
崩れるように倒れたから心配したが外傷はなさそうだ。
「もう少し余韻に浸りたかったのだけど、しかたないわね。体の調子はいかが、リュウジ」
「お前に唇を奪われた以外は問題ない!」
からかいを含む頬笑みを浮かべ彼女は問いかけてきた。
「違うわ、体はちゃんと動くかしら。どこか違和感を感じたりしない?」
ありさが倒れたことで頭に血が上っていて気が付くのが遅れたが確かに俺はありさのもとに駆けよることができた。
「ふふ、相変わらず妹のことになるとすぐに熱くなるのねリュウジ」
「悪い、取り乱した。助けてくれたんだよな?ありがとう」
「どういたしまして。今私はとても気分がいいの。だから許してあげるわ」
「俺が動けるのも君が?」
「そうよ。口づけを交わした時ついでにありさちゃんが掛けた魔法も解いておいたわ」
ついでって!それじゃあ俺の唇を奪うことが目的みたいじゃないか。
それに魔法って、でもそんな力でも無くちゃ彼女が浮いてたりありさが作ってた光る球体の説明はつかないよな。
「…いろいろと聞きたいんだけどまずは名前を聞いてもいいかな?」
「私の事は零と呼んでちょうだい。時を極めし忘却の魔女とも呼ばれていたわ…なんて目で見るの!中二病じゃないわよ!」
あんまりにもドヤ顔で中二…、いや二つ名を名乗るからにやけてしまった。
頬を赤く染めて否定している零は今までの妖しげな雰囲気よりも親しみやすい感じがしていい気がする。
「いや、そんなこと思ってないよ。えーと、時を極めし忘却の魔女って言うくらいだから時間を止めたりできるの?」
しかし、俺の問いには答えて貰えなかった。
ガッ、バン、部室のスライドドアが勢いよく開かれる。
このドアの開け方には覚えがあるぞ!
恐る恐る乱入者に顔を向けると赤いタンクトップから溢れるばかりのムキムキに鍛えられた肉体が目に入った。
やはり阿部先生だった。
そして俺は今の自分の状況を振り返る。
倒れて気を失っているありさ。
その傍らにひざまづいている俺。
ついさっきまでいたのに姿が消えた零。
つまり二人きり。
介抱しているつもりが見方によったら俺がありさを襲っているように見えないかこれ!
とりあえず言い繕うんだ俺!
「先生!違うんですよこれは!これはあれです!あれ!」
俺、それじゃ駄目だろ!焦ってるし明らかにアウトな対応だよ。あれってなんだよ。
「………」
「先生?」