通学からミルク
「お兄ちゃん、今日のありさのパンツは何色だと思う」
「お兄ちゃん義妹のパンツに興味はないんだ」
通学中ありさがいつものように俺にセクハラ発言をし、俺が適当に受け答えていると学校が見えてきた。ここらでは進学校で通っていて、中高一貫校でもある。こんな学校に通ってはいるが進学する気はなかったりする。
早く働いておじさん、おばさんに恩返ししたいしな。
「学校も見えてきたし、暑いからいい加減離れてくれないか」
俺の左腕にくっついているありさを引っぺがすと頬を膨らませてまたくっついてきた。
「逆だよお兄ちゃん、学校に付いちゃうんだからギリギリまでは一緒にいようよ」
ああ、義妹よ。そんなふうに腕を組まれるとその凶悪なおっぱいが腕にあたってしまうじゃないか。ほら周りを見てごらん、みんな引いているよ。おまえのおかげで俺が学校でなんて呼ばれているか知ってるんだろ。
「よう、朝からおあついね。義妹食い(いもキラー)」
「ようナオト、その名で呼ぶなと言ってあるよな」
「おはようございます。ナオトさん。今日もお兄ちゃんにおいしく頂かれっちゃってます」
「おはよう、ありさちゃん。いつもかわいいね、そんな靡かないやつ見限って俺の妹にならない」
「ごめんなさい。ありさのお兄ちゃんはお兄ちゃんだけなので」
「ならしょうがないな。ははは」
この頭のおかしいツンツン頭は遠藤ナオト。妹食い(いもキラー)と呼ばれ白い目で見られている俺の数少ない親友の一人だ。俺とありさの幼馴染でもあり、俺たちが実の兄妹でないことも知っている。
「リュウジはいいよな、かわいい彼女がいて、事情を知ってる俺でも嫉妬しちまうぜ」
「彼女じゃないってば。『夫婦』義妹だよ」
ありさよ、人が喋っている時に、かぶせ気味にいい顔で誤解を招く事を言わないでくれ。お兄ちゃんのお願いだよ。ほら周りを見てごらん、さっきよりひそひそ声が聞こえるよ。実の妹に…、とか妹食いサイテーとか、妹さん洗脳されてるんだわとか、俺が悪者になっちゃってるよ。なんで、みんなありさの味方なの。
「お兄ちゃん、日ごろのおこないの差だよ」
……そんないい笑顔で人の心を読まないでほしい。このままじゃお兄ちゃん彼女できないまま学園生活終わってしまいそうだよ。
それはそうとありさよ、いつまでくっついてんの?もう学校ついてんだけど。
「じゃ、またお昼にいつもの場所でね」
俺の無言の視線に気がついたのか、ありさはやっと離れてくれた。学友たちの元へ向かうありさは手を振りながら去っていく。
その後姿を見送りながら今日からまたこの視線に晒される生活かと思うと憂鬱になってしまう。
「まっ、頑張れや、いろいろと。俺らも行こうぜ」
「おう、サンキュ―。ナオト」
俺に優しくしてくれるのは、なんだかんだでこいつくらいのもんだ。ほんといい奴だよ。
「そういや聞いたか転校生の話。なんでもかなりかわいい子が来るらしいぜ。手続きとかの関係で通いだすのは明日かららしいんだけどな」
「ふぅーん」
「ふぅーんてなんだよふぅーんて。やっぱ女に餓えてないリュウジさんはリアクションが薄いね。毎日ロリ巨乳のありさちゃんにお兄ちゃんお兄ちゃんって言い寄られてんだろ。いいなー、俺もかわいい妹に言い寄られたいぜ」
体をくねらせ幸せそうな顔で妄想している親友に対し、立場を変えられるなら是非変えて頂きたいと思うよ。
「そんないいもんじゃないさ。それにありさは大切な家族だしそういう目ではみてないよ」
「そこがわかんねーんだよな。リュウジとありさちゃんて血はつながってないんだろ。なら合法じゃん。あんなかわいい子が猛アピールしてきたら男なら落ちるでしょ。やっぱお前ホモか!」
「違うから、……ちょっとナオト、なぜ俺から距離をとる?こっち来いって、俺は女の子が大好きだからさ。いや、まじで!」
「…そんな必死になられると逆に怪しいぜ」
おしりを抑えながら近づいてきたナオト。やめてくれ、これ以上俺の評判を落とさないでくれ。前言撤回、やっぱり俺に優しくしてくれる奴なんていないんだ。
そうこうしている内に教室ついた。2ーDここが俺とナオトの在籍する教室だ。
ちなみにありさは1―Aだ。学年が違うからありえないが教室まで同じだったら一日中地獄だったぜ。
「じゃ、また後でな」
ナオトが席に向かって行く。ナオトの席は廊下側の一番前の席だ。昼休みが始まると速攻で購買へと向かえるのでナオトは最高の席だと言っていた。
「俺も行きますかね」
俺の席は窓側の一番後の席だ。居眠りにベストのポジションでもある。最も今日は半日で学校は終わるのであまり関係はないけどね。
席に腰掛け黒板の上にある時計を見ると、8時20分を指している。ホームルームまで少しある。
朝からありさによる精神攻撃に会い疲労困憊な俺はこの貴重な時間をぼーと過ごすことにした。
黒板の上にある時計を見ると、11時30分を指している。
夏休み明け初日ということで授業はなく、担任の話を聞いたり、全校集会を行ったりして今に至る。この残暑厳しい9月頭から体育館でのすし詰め状態での校長名物長話はかなりの苦行だったが、ブラ透けを拝めたので良しとしよう。
「明日からは本格的に授業も始まるのでしっかり準備しておくように。では解散」
ガッ、バン、担任の阿部先生が豪快に教室を出て行く。あの逞しすぎる肉体は暑さをより引き立てているとしか思えない。
この学校は普段授業を行う教室にはクーラーがついていないのだが、それ以外の教室にはついている。つまり空き教室とか視聴覚室なんていう頻繁に使わない教室にはついているのだ。一言でいうと、大変頭の悪い作りになっている。どうやらお偉いさん方は、学生たちに快適な環境で勉学に励ませる気が無いようだ。
この教室の配置考えたやつ出てこいや!ぶっ飛ばしてやるぜ!
…暑さで頭が馬鹿になってしまったようだ。
「あちー、部室行くか」
無駄な思考を振り払い、額を流れる汗をぬぐい、席を立つ。
向かうはクーラーがある部室だ。
ありさが待っているデメリットはあるが、涼しい部屋で昼飯にありつけるメリットもある。
ブ―、ブ―、携帯のバイブが鳴った。確認してみると、
From ありさ
Sub じゅーちゅほしいな
飲み物買い忘れちゃったからお兄ちゃんお願い
お兄ちゃんの愛情のこもったミルク、イチゴ味でお願いね
部室冷やして待ってるね
ありさ
若干突っ込みたい所はあるものの、ここは冷えた部屋と昼飯のため大人しく従っておこう。了解、その一文字を打ち自販機へと向かうことにした。
目の前には惨状が広がっていた。自販機の前、床に散らばっている小銭、懸命に拾っている銀髪の女の子、見て見ぬふりをする学生たち。
手伝ってやれよとは思うけど、話しかけずらいのはわかるな。
自販機に用が無いならたぶん俺も手伝わなかったろうな。
「大丈夫?手伝いますよ」
「あ、ありがとうございますぅ」
こちらを向いてきた彼女は左右の眼の色が違っていた。青と緑、どちらの瞳も澄んだ色をしておりいつまでも見ていたい魅力をもっていた。
「………、」
思わず見つめてしまった。
オッドアイを初めて生で見たが、神秘的な魅力を秘めている。
「き、気持ち悪いですよね」
「え?」
彼女は表情を曇らせ、俯いてしまった。自分が悪いんだとでも言うふうに。
「いいんですぅ。無理なさらないでください。髪の色もこんなだし、目の色も左右で違うなんて気持ち悪いでしょ、それに背も低いし」
突然何を言い出すんだと思いつつも、俺が無言で見詰めてしまったせいでもありそうなので、真面目に答えてあげることにした。
「そうですね、人によったらそうかも知れません。日本人は、見た目がほかの人と大きく違ったりすると
距離をとるところがありますから。でも少なくとも俺はそうは思いませんよ。その銀色の髪も左右で色の違う瞳も神秘的で魅力的に感じますし。それに俺は背が小さい人の方が大きい人より好みですよ」
「え?」
彼女は驚いたように目を大きく開き見つめてきた。そして、しだいに頬があかく染まってきた。
「えーと、口説いてるとかそういうんじゃなくて、単純に俺が今感じたことを話しただけですからね」
あまりに見つめてくるので居たたまれなくなり、言い訳のような事を言ってしまった。
俺だって逆の立場なら突然何言ってんだコイツって思うけど、先にリアクション取りづらいこと聞いてきたのは向こうだししょうがないよね。
「あ、はい、そうですよね」
すこしテンションが下がった気がするが気のせいだろう。
「それより早く拾っちゃいましょうか?」
「す、すいません。ありがとうございますぅ」
神秘的な見た目にドジっ子でロリッ子なのかな。いいね。
「助かりました。ありがとうございます。えーと、」
どうしょうもないことを考えている内に俺が今拾った小銭で最後のようだ。
「どういたしまして。俺は2年の小町リュウジ。君は?」
小銭を渡しつつ尋ねてみる。
「妹背エリって言います。私も2年です。って言っても正確には明日からなんですが、私、転校生なんです。」
「あ、そうなんだ。道理で見たことないと思ったよ。じゃあ、今日は学校見学とかかな」
「はい、そうなんですぅ。それで休憩しようとして飲み物を買おうとしたらこんなことになってしまいましてぇ…」
ああ、また落ち込んでしまった。
「まあ、そういうこともあるよ。気を取り直して飲み物でも飲んで一息つきなよ」
「そ、そうですよね」
二人して埃を払い立ち上がり、自販機を見る。
「お先にどうぞ。私まだ決めてませんから」
「そう、じゃあお先に」
俺はアニミルクのイチゴ牛乳とウーロン茶を買った。
結構待たせてしまったしありさ怒ってるかな?なんて考えていると再び携帯のバイブが鳴る。
From ありさ
Sub オカズあげりゅ☆彡
(添付ファイル)
どうお兄ちゃん?
ミルク絞りに役に立つかな?
早く来てくれないともっとすごーいの送っちゃうよ
ありさ
添付させていたものはスカートをたくしあげて撮ったおパンツの写真だった。
緑のストライプのおパンティ―、いわゆるしまパン。それは白の生地を基調にし、緑色の線が走っている。そこに生まれる白と緑の織りなすハーモニー。また、若干の食い込みがある点も評価に値するだろう。例えるなら、新緑の森林の中に咲く一輪の白い花のように生命力溢れる素晴らしいものなんじゃないだろうか。
は!、いかん、俺ともあろうものが義妹のパンツごときに気を取られるとは!
こんな写真送りやがって、やはりさっき突っ込んでおけばよかった!
お兄ちゃんのミルクって!なんやねん!
ありさから一本取るにはマジモンのお兄ちゃんのミルクを持っていくしかない!
「あの、どうかしたんですかぁ。携帯を見て急に凛々しい表情をされてますが?」
「い、いや、なななんでもないよ。」
まずい無茶苦茶テンパってるぞ俺。とにかく落ち着こう。
「?そうですか。じゃあ次は私が買いますね。んー、もうちょっと!」
妹背さんは背伸びをして腕を上げているが届かないようだ。会ってまだ間もないが年下にしか見えないぞ。
「これ?」
「そうです!それです!」
ガシャン、ゴロン。
「どうぞ」
「すいません、何から何まで」
ぺこぺこ頭を下げてくる妹背さん。
彼女の手にジュースを乗せるときに翡翠色の宝石の付いたブレスレットに目が行ってしまった。
その輝きは彼女の瞳の色を彷彿させた。
なぜか俺のポケットに入っているペンダントを連想してしまった。
「ありがとうございました。えーと、小町さん」
「いや、気にしないで」
ま、関係ないだろうし気にしないでおくか。
「それでは、失礼しますね」
「おう、気をつけてな」
さり際に悲しそうな笑顔を見せて何かつぶやいた。
「もっと…」
「え?何か言った?」
「いえ、なんでもないですぅ」
そう言うと、ぺこぺこ頭を下げて行ってしまった。
俺もありさにミルクを早く持っていかないとな。