目が覚めて
「……、……、」
体が重い、何かが俺の上にのっているようだ。
「……、お兄ちゃん起きて」
「うう、後5分」
「いい加減起きないといたずらしちゃうよ」
そう言うと、もぞもぞと下腹部目指して毛布の中へ入ってきた。
「はい、起きます。今起きますとも」
今まで寝ていたのはうそのような速度で毛布をはねのける。すると、俺の股間を凝視する義妹と目があった。
「おはよう、お兄ちゃん今日は一段と元気だね」
「おはようありさ、いつも言ってるけどその起こし方やめてくれないかな。ありさだって女の子なんだからなんて言うかな、恥じらいを持った方がいいと思うな」
「お兄ちゃんはおかしいよ。こんなに近くにお兄ちゃんの事が大好きな可愛い女の子がいるんだよ。その大きななゾウさんつかわない手はないよ」
ああ、こいつは何を仰っているのだろう。この倫理観というものをどっかに落としているとしか思えないやつは小町ありさ。一つ年下の俺の義妹だ。
幼いころ事故で家族を亡くした俺を引き取って育ててくれた大恩ある小町家の一人娘で、重度のブラコンを患っている。最近はおじさん、おばさん共に仕事で家を空けることが多く、監視の目が無いとばかりに俺にちょっかいをかけてくる。
お願いします、おじさん、おばさん、早く帰ってきてください。
「何たそがれてるのお兄ちゃん?一緒に朝の運動しようよ!」
「ふざけてないで起きるぞ。どいたどいた」
「そういう態度とるんだ。いいもん、今度は寝てる時にするから。既成事実つくってやるから」
……ホームセンターでドア用の鍵買ってこよう。
「お兄ちゃん、それなに?」
「ん?」
ありさが指差したあたり、さっきまで俺が寝ていたところに何か落ちている。拾ってみると青いクリスタルがついたペンダントだった。イミテーションだろうがこ洒落た感じだ。
「お兄ちゃんそんなの持ってたの?ありさ知らなかったな」
「いや、俺も知らないぞこれ。どっから湧いたんだ」
「ね、見せてお兄ちゃん」
「ほらよ」
「わーきれいだね。このペンダントどうしたの?」
「いや、わからん」
「むー、またそうやってとぼける。寝てる時も身につけるくらいのお気に入りなんでしょ。お揃いの欲しいからどこで買ったか教えてよ」
「兄妹でお揃いのペンダントとか勘弁してくれ。彼氏でも作ってやればいいだろ!」
「わかってないなぁー、お兄ちゃん。ありさは大好きなお兄ちゃんと同じものを身につけたいの。兄妹じゃ駄目ならありさの彼氏さんになってよ」
「いい加減にしないとお兄ちゃん怒るよ」
「ごめんごめん、謝るから怒らないでお兄ちゃん。でも怒った顔もかっこいいよ」
……ブラコンもここまで来ると危険な領域だ。身の危険を感じるよほんとに。
ありさの俺を見る目って、猛禽類が獲物を狩るときの目をしてる時があるもん。
「もういいから、それ返せ」
「ああん、もっと優しくしてよお兄ちゃん」
ありさに渡していたペンダントを引っ手繰ると変な声を出しやがった。優しくしてほしいならお兄ちゃんを普通の兄として扱ってほしいものだ。
「着替えるから部屋から出てくれありさ。そろそろ用意しないと遅刻しちまう」
「うんわかった。ごはんもう出来てるから着替えたら来てね」
パタン、ドアが閉まる。トトト、階段を下りる音も聞こえる。時間もないことだし今日は覗かれずにすんだようだ。
「とっとと着替えるか」
パジャマをベッドの上に脱ぎ捨てワイシャツに袖を通す。着替え完了っと。
「よし、行くか」
「忘れものよ」
「ん?」
ドアノブに手をかけると誰もいないはずの俺の部屋から女の子の声が聞こえた。
声がした方を向くとあのペンダントが目に入ったので、不気味に思いながらも拾い上げてみた。
「呪いのアイテムだったりしてな。ははは。」
おもわず独り言を呟いてしまったが、改めて見て見ると吸い込まれそうな程深い青色をしている。それに、不気味なはずなのになぜかこのペンダントを持っていなくてはいけない気がしてくる。
「お兄―ちゃーん、まだ着替えてるの。お兄ちゃん待ってたらほんとに遅刻しちゃうから先に食べちゃうよ」
やばい、あまりゆっくりしている余裕はないんだったな。
「すぐ行く」
言葉短く答えると、持っていたペンダントをポケットに突っ込み部屋を出る。
新学期早々遅刻はまずい。長い夏休みは昨日で終わり今日からまた学校。はぁー、憂鬱だ。