のぞき見
ゴシック調に彩られた室内に紅茶と甘いお菓子の匂いが立ち込めている。
家具一式も同様の様式であり、どこか現実離れした模様を示している
その場には熱心にのぞき見をする二人組がいた。
それは零の宝石、ペンダントの中からであった。
零とミズハだ。
「すごいの!お口にチャックしてたらいやいちゃ見れたの!とってもえっちなの!いけないの!」
興奮を隠せないのか、ミズハは鼻息荒く舌足らずなしゃべり方で零に感情を伝える。
「ふふ、私の言ったとおりだったでしょ?まだ黙っていましょうね。まだまだリュウジは痴態をさらしてくれるはずよ」
いじめっ子面の零は、ミズハに悪い教育をおこなっていく。
「リュウジは見ていて飽きないわね。本当に面白いわ」
「ミズハもおにいたんかんさつ、お手伝いするのおねえたん」
「う~ん、ミズハはいいこねぇ。お持ち帰りしたくなっちゃうわね。…まあ、ここが私の自室なのだけど」
零はミズハを自宅に招き、夢の世界から現在に至るまで、もてなしていた。
ザッハトルテに始まり、多種多様のお菓子をふるまわれ、ミズハは「もうおなかいっぱいなの~」と満足げにお腹をなでていた。
食欲を満たせば娯楽に目がいく。
今の二人にとってリュウジは最高の玩具なのかもしれない。
紅茶を口に含んでいた零に伏し目がちなミズハは意を決したように、
「おねえたん、ちゅーってきもちいの?」
おませな質問をしてきた。
好奇心ゆえの無垢な疑問なのだろうか。
「ミズハはどうだと思うのかしら?」
口内の紅茶で喉を潤し、零は訊ねかえした。
「おにいたんもありさおねえたんもお顔まかっかなの。でもふたりとも幸せそうなの」
「そうね、二人の姿が答えなのかもしれないわね」
でも…とミズハは話し続ける。
「でも、夢の中のありさおねえたんはちがったの。目を血走らせて、ていこうできないおにいたんをおそってたの。ミズハこわかったの。あんなのいちゃいちゃじゃないの」
「そうね、ミズハはお利口ね。いちゃいちゃは二人の心が互いに向いていないとできないのよ。キスは心を重ねるとっても気持ちがいいものなのよ。夢のあれは、……そうね、レイプとかオナニーっていうものなの。独りよがりの気持ちの押し付け、悪いことだからあなたはまねしちゃだめよ」
「?レイプとかオナニーってなんなの」
無垢な瞳を向けられ「なら私が教えてあげるわ」と手ほどきしたい欲望をどうにか抑え口元から垂れそうになった涎を拭い、
「後でリュウジに教えてもらいなさい。きっと丁寧に教えてくれるわよ」
「わかったの!おねーたん!ありがとなの!」
ミズハは納得したのかはしゃいだ。
「あのね…おねえたん…」
「なにかしら?」
ミズハは零に近寄り耳元でこしょこしょ呟いた。
「………とちゅーしたいの」
「……!いいわね!私!ミズハを応援するわ!今日学校に行くのだしチャンスはきっとあるわよ!」
「うん!ミズハがんばるの!」
無垢な笑顔を浮かべるミズハとだらしない笑顔を浮かべる零。
互いに思い浮かべるシーンは同じはずなのに、二人の心の光景には何かが違って映っているのだろうか。
「……それはさておき、取りあえずもう少しリュウジを覗きましょうか?ミズハの参考にもなるはずよ」
「うん、おねーたん。僕もおにーたんみたいにちゅーできるようにべんきょうするの!」
二人は再びのぞき見を再開した。