義妹の心情
「……、……、」
寝起き特有の気だるさがする。
体中が痛いし重い、それに何か異臭がする。
寝汗だろうか、服が体に張り付いて不快だ。
「……」
ウィー、ウィーン、機械音が聞こえる。誰かの目線も感じる。
俺は昨日確か…記憶をたどる。
まずは夢での出来事が思い浮かぶ。
零からもらったどら焼きのうまさ、ミズハとの契約、俺の呪い、妹背エリの自宅訪問と少なくともこれらはすぐに浮かんだ。
しかしそれは夢、現実ではない。
現実では確か…零と出会い、ありさと阿部先生ともろもろあり、帰宅後にありさ…
俺、ありさの部屋で寝ていたような…
すでに湿っていた服にさらに水分を吸わせ俺はゆっくりと目を開いた。
「……………」
ウィー、ウィーン、至近距離からハンディカメラ越しに俺を撮影するありさがいた。プロカメラマンも顔負けの雰囲気を醸し出し満足げにうなずいている。
俺は腰を起こしありさに話しかけた。
「……おはようありさ、なにしてんの?」
「お帰りなさい兄ちゃん。夢の世界では大暴れしてたみたいだね」
ありさは「はい!見て!」と俺にカメラの映像を見せてきた。
そこには、ありさのベットが濡れるほどの汁気を全身から出し、赤くはらした顔には涙や鼻水、涎をたらした跡が白くなり残っており、にやけ面で股間にテントを張る俺の姿が映されていた。
「………………」
認めたくないがこの映像は現在の俺の姿だろう。
「ちょっと待てね」
慣れて手付きで操作し巻き戻し、無言の俺に映像を見せつけてくる。
「みてみて!すごくないこれ!」
映像の俺はCGでも用いたのかと問いたいほど突然全身発汗を起こし、「ブリブリ」とおならを、……いや、認めよう。う○こを漏らしていた。
顔面から涙、鼻水、涎、俺にこんなに水分が含まれているのか?と不安になるほどの体液を一瞬で俺は噴出していた。
「俺良く生きて帰れたな。……ありさベット汚してごめんな」
「気にしないでお兄ちゃん。いい香水かけてくれてありがとうね!これは捗るよ!」
「ちゃんと洗えよ!てか俺が洗うよ!さすがに脱糞はシャレになんないし」
「違うよ!あれはチ○コボールだよ。あれはありさにとってご褒美なんだよ。おいしく食べられるんだよ!」
ありさは異常なテンションで言い返してきた。
「んなわけあるか!…………あー、まあ心配すんなありさ」
「ふえ」
俺は正面にいるありさを見つめ頭をなでた。
ありさは驚いたのかポカーンと口を開けている。
思えばありさはいつもこうだ。
心配や不安、負の感情を自分の中でためて俺には伝えてこない。
明るくふるまって、いつも以上に無茶なテンションになってるありさの姿を見て、彼女の中で不安がとても大きくなっているんだと俺は確信した。
……やっぱり兄妹で似ているのかもしれない。
感情をため込んだ時のごまかし方がそっくりだ。
夢の中で零に慰めてもっらった時の俺のようにありさは自分で感情を飲み込んで吐き出しはしないのだろう。
こんなんでもかわいい義妹だ。奇行も働くし、俺を性的に狙ってもいるが、それは関係ない。ありさは俺の大切な家族なんだから。
「俺は大丈夫だから。ありさの前からいなくなったりしないよ」
ありさの小さな背をやさしくさすりながら語り掛ける。
ありさは俺から目線を外し俯き、
「…死んじゃうんじゃないかと思った……突然苦しみだして、でもありさ、夢の世界には手出しできなくて、お兄ちゃんはありさが守るって……約束したのに」
涙を流し始めた。
俺はありさの弱音を初めて聞いた。
ありさは感情を吐き出していく。
「ありさ頑張ったんだよ?お兄ちゃんの為に…、でも夢にさらわれちゃったんだって、私が魔法で守ってあげられなかったんだって……」
俺にしがみつき顔を押し付けてくる。
そんなありさに俺は語り掛ける。
「今まで守ってくれてありがとうありさ。ありさが頑張ってくれたから俺は夢玩具に関わらずに今まで来られたんだろ?感謝してるよ」
零がしてくれたようにありさの頭をポンポン優しくなだめる。
「もう俺は夢と現実を行き来するもの、夢遊戯だ。そのことは変えられない」
「うん…」
心配そうなありさの声が上がる。
「でもな、俺は一人じゃないんだ。ありさも知ってる夢玩具、零がいる。彼女は俺たちの味方だ。危害なんて絶対に加えてこない。仲間なんだ」
「うん」
「それに夢の中で新しい夢玩具と契約したり、夢遊戯の仲間にも出会えたんだ。聞いて驚け!彼女なんと同じ学校の同級生だったんだぜ。世間て案外狭いよな」
「うん?……お兄ちゃん、そいつってお兄ちゃんにとって魅力的な女性?」
「!っな、なにいってんだよ急に!」
「…お兄ちゃん夢で興奮してたよね?誰で興奮してたのかなって思って?ねえ誰?」
「……」
ありさの声色が変わり俺を問い詰めてくる。……正直怖い、さっきまで泣いてたのにスイッチか切り替わったように、邪悪なオーラを漂わせ俺にしがみつくありさ。その女性でって答えたらどうなるのだろうか…、怖すぎて考えたくない。
「…ありさはとても怒ってはいます、でも……したら許してあげます。」
「え、何をしたらいいんだ?」
よく聞き取れなかったので、俺の胸元にいるありさに顔を近づけると、
「うっん」
ありさが急に顔を上げ俺の唇を奪った。
突然のことに俺は反応できず目を大きく見開き硬直してしまった。
瞳を閉じているありさの長いまつげ、息遣い、柔らかな唇、……俺は、ありさに唇を奪われ、戸惑いを感じながらも、体は正直なことに反応してしまっていた。
甘い痺れが思考を鈍らせる。
「……」
なされるがままの俺の唇をペロッとひと舐め、
「ふふ、ご馳走様お兄ちゃん、これで許してあげます」
俺の股間をフェザータッチし、ありさはベットから立ち上がった。
「お兄ちゃんは、私を女として見てくれてるんだよね!もっとアピールしていくから覚悟しててね!いつかお兄ちゃんから私に手を出してくるようにしてあげんだから!」
強い意志を瞳に映し、いたずらな笑みをありさは俺に向けた。