妹背エリその3
後日、六花からいろいろなことを聞いた。
夢玩具に夢遊戯、私の右腕に輝くブレスレット型の宝石のこと。
そうそう、実は私が胎児の頃から六花は私に摂り付いて悪意ある夢玩具から守っていてくれたそうです。私の夢の世界での力が強すぎるので、六花くらいのパーフェクトレディが憑いていなかったら生まれることすらできなかったそうです。私がこんな見た目になってしまっているのもその強すぎた力の影響だそうです。
まだ話は続きます。なんでも六花は私がかわいすぎて、姉妹たちを呼び六花を含め、4人で赤ん坊のころから私を構いまくっていたそうです。それが悲劇の始まりでした。
初めての誕生日を迎え少し経った頃、私はとても好奇心旺盛な幼女だったそうです。なんにでも手を伸ばし、何でも口にする。六花たち姉妹はてんやわんやしたそうです。私が怪我をしないか、変なものを口にしないか。目を皿にしてみていたそうです。そんな状態ですから、私が手を伸ばしたものは、先に手繰り寄せて握らせたり。コップを倒してこぼしたときは、服が濡れないように時間を巻き戻し、こぼしたことがなっかったことにしたりしていたそうです。そんな努力が夢玩具の見えない一般人の両親に見つかり、私の見た目のこともあり、例の施設に捨てられたそうです。六花たち姉妹は猛省して私の彼女たちに関する記憶を封印し、その封印の柱になった六花は私の中に入りずっと見守ってくれていたそうです。ほかの姉妹たちは散り散りになり、音信不通だそうです。
以降はここまで語った通りです。
私は私を生んで育ててくれた父母に感謝しています。あなたたちが出会わなければわたしは生まれてくることすらできなかったのですから。
六花たち姉妹にも感謝です。彼女たちがいなければ私は母のお腹から出ることなく死んでいたのですから。六花たちのおかげで私は今日も笑顔でいられます。
そろそろ、その後の話をしましょう。
私の瞳はあの日を境にオッドアイになっていました。
右の瞳はもとの碧眼のまま、左は六花と同じ翡翠色に変色してしまいました。
六花は私と逆です。右の瞳が翡翠色で、左の瞳が碧眼になりました。
なんでも現実世界での特大級の魔力行使の為に必要な措置だったらしいです。
私は人間と夢玩具のハーフになってしまったらしいです。
半分は人間なので一般人にも視認してもらえます。
これは正直助かりました。もしおかあさんを助けても、私の姿が目に映らないのならばわたしの夢想した光景は夢となってしまうのですから。
六花には12姉妹いて、彼女たちはそれぞれ時間にまつわる本人しか使えない固有魔法があるそうです。
六花の固有魔法は時間の「固定」です。ある一部分だけを切り取って時間を止める魔法だそうです。
例えば、水の入ったペットボトルを想像してください。
キャップを開け逆さまにします。すると当然中身がこぼれます。ここで「固定」すると、
空中で水が止まり、魔法を解くまで何でも切り裂く刃になるそうです。
この魔法がリスクなしで打てるレベル1の魔法だそうです。
おかあさんに使ったのはレベル2の魔法、時間の「過去固定」だそうです。
本来は夢の中で夢玩具と夢遊戯が…く、口付けを交わすと使える魔法らしいです。
効果は、対象物の過去の姿を固定し、現在と重ねる魔法とのことです。
分かり辛いかも知れませんが、これはすごい魔法です。
おかあさんの場合、ガンに侵されきった内臓をガンが発生する前に、
心臓の鼓動が、肺の脈動が止まる前に、酸素供給がとまり脳死する前の脳に、
本来、病気に罹らなければ、全うできたはずの天寿を迎えられる体に、
現在のおかあさんと重ねたのだそうです。
その結果、おかあさんは奇跡の復活を遂げました。
けたたましいサイレンを鳴らして駆けつけた隊員も施設のみんなも驚愕していました。
衰えた肉体では昔のように歩けませんが、元気に会話し、好物の甘味をパクつきお茶で流し込む姿に。
それはそうでしょう、隊員の方もみんなもおかあさんは緊急を要する事態だと思っていたのですから。
その後病院で検査して貰った結果。なんと、ガン細胞がなくなり、内臓年齢も若返っていたそうです。肉体以外の内臓面は健康そのものの診断を受けました。
これには担当医も首を傾げ、現代の奇跡だ!なんて騒いでもいました。
まあ、魔法で直したなんて信じてもらえませんけどね。
現実は小説より奇なりです。真実は私たち三人だけ知っていればいいのです。
それからは本当に沢山の出来事がありました。
毎日笑顔が絶えませんでした。
余談ですが、施設の借金の件です、ある日六花がふわふわと出かけて行き、帰宅後にどこから調達したのか私が一生働いても稼げない額のお金を持ち帰ったのです。
おかあさんの奇跡の復活の話ですが一部のネット上で盛り上がりを見せていました。その中の誰かが施設の現状を知り、足長おじさんをしてくれたことにし、このお金を使って借金も全額返済でき問題はすべて解決したのでした。
何度か季節が巡り、葉桜が舞う5月の終わり、
そこにはいつか私が夢想した景色が広がっていました。
施設の花壇の前で芍薬の花を前にお花見をする私たちの姿があります。
私がいて、施設のみんながいて、職員さんもいて、
おかあさんの家族の皆さんもそろっていて、
車いすに乗る元気なおかあさんがその中心にいる姿が、
梅雨入り前の5月の最後の休日、
前日はまさかの雨、芍薬が倒れないかなんて、施設内であわあわしちゃって
翌日には初めてみんなそろって、お孫さんにひ孫さん、勿論、息子さんに娘さんも駆けつけてくれて、
ビニールシートなんて敷いちゃって、
大人はお酒を、私たち子供はジュースを、おかあさんはこれが一番おいしいのなんて言っちゃって甘酒を飲んでる。そんな風景が。
私は一人目頭を濡らしちゃって、六花とおかあさんにからかわれて、
泣き笑いを浮かべてみんなで騒ぎました。
翌日おかあさんが亡くなりました。
老衰からくる心不全でした。
おかあさんは最後まで笑っていました。
昨夜最後におかあさんは私に言いました。
「最高の時間をありがとうエリ、また明日ね、おやすみ」
私も「おやすみ、また明日」と返しました。
これが今年の五月の終わり、梅雨に入る前の最後の晴れた日の出来事でした。
~
俺は妹背エリと六花、そして彼女たちのおかあさんの物語を覗いた。
ミズハの時のように映像として俺の心の中に流れ込んでいた。
そして、俺はというと、
「〝う〝う〝うっ〝う~、」
ソファーに深く座り込み本日何度目なのか分からない顔面をグチャグチャに汚し、恥も外聞もなくすすり泣いていた。
「これが妹背エリの、私の大切な親友の体験です」
「〝な〝ん〝てっ〝う~、」
俺は言葉を口に出せなかった。
男が情けないかも知れないけれど号泣してしまっている。
もしこれが小説や作り話なら彼女こそが主人公だろう!
彼女はとても強く優しく真直ぐで、折れない強さを持っている。
そんな彼女に俺ごときが釣り合うわけがない。
呪いの件もある。
俺は”妹”と付くものになら性的興奮を覚える呪いに罹っている。
妹以外とは恋人になんて絶対なれない…そもそも妹に恋はしないが。
だってそうだろ?
好きでもないのに付き合うなんて最低だ!
友達としての付き合いをしていきたい。
俺は交際を前提の部分以外を断ろうと顔を上げた。
彼女と目が合った。
”妹”背エリと、
彼女を見つめているとなぜか胸が騒めく、
見つめ返されると恥ずかしい、
この気持ちは何というのだろう。
エロゲの妹たちに感じていたかすかな胸の高鳴りより激しく脈打っている。
この気持ちは何なのだろうか。
「それが恋よリュウジ」
これが恋!胸が痛いほど脈打つ
全身が火照る。のぼせたみたいだ。
思考がうまくまとまらない。
この気持ちが恋というのだろうか?
「お姉さま、それはリュウジさんがご自分で理解していただかないといけない感情です。外野の口出しはやめてください!」
「わかったわ、そのことに口を出さないわ。でもなんで妹背エリさんだったかしら。その子とリュウジをくっつけにさせようとしてるの六花?」
やたらと妹の文字を零は強調して尋ねた。
「あ、その説明がまだでした。リュウジさん、続きを見せますね。というかお姉さま!起きているならご
自宅から出てきてお顔を見せてください。久しぶりなんですからお顔を合わせて話しましょうよ」
「教育上の都合でしばらく自宅から干渉させてもらうわね」
「?まあいいですけど…」
しー、という零の声とゆるい表情のまま虚空を見つめるリュウジ、説明のし甲斐がないが二人に対しエリの体を操る六花が話していく。
「リュウジさんにはお見せしましたが、その続きです」
オーディエンスはペンダントの中のお姉さまだけ、相槌をいれてくれます。リュウジさんはもはや微動だにしません。この人は大丈夫なんでしょうか?いろいろと、不安になります。そんな様子のリュジウジさんに再び魔法を使いました。
~
おかあさんの葬儀もつつがなく終わりました。
その日はあのお花見をした日のように、快晴でした。
梅雨晴れ間でしょう。
前日までの天気が嘘の様です。
お日様もおかあさんの旅立ちを手伝ってくれているみたいです。
おかあさんの棺には芍薬の花を供えさせてもらいました。
一部ですが施設の花壇の芍薬を使いました。
施設のみんなとおかあさんの家族のみんなで一輪ずつ、棺に手渡していきました。
おかあさんは穏やかな表情で芍薬に囲まれていました。
葬儀場の煙突から煙が上がります。
おかあさんの旅立ちです。
上空でも風が吹いていないのか真直ぐに煙は昇っていきます。
おかあさん私は強くなります。
自分の殻に閉じこもったりはしません。
内気な性格も頑張って人に手を差し伸べられるような性格にしていきます。
だから安心して見守っていてください。
さようなら、おかあさん。
ひゅーっと風が吹き、芍薬の香りがした気がしました。
数か月がたちました。
梅雨は明け日差しが照り付ける夏です。
私は一つの決心をしました。
それは、
「エリちゃん、本当に行くの?高校卒業まではここにいていいのよ」
「はい、おかあさんみたいになりたいって、思った日から決めていたことなので、私施設のみんな大好きです。だから、環境に甘えてちゃいけないと思いだしたんです」
「そう、でも忘れないでね。ここはあなたの家なのよ。いつでも顔を出していいんだからね」
「ありがとうございます。じゃ、行ってきます」
私は職員さんに、見送りのみんなに手を振り歩き出しました。
「転校なんておもいきりましたねエリ。内気なあなたがちゃんとできるか心配です」
ブレスレットから六花が話しかけてきます。
「優しくて強いおかあさんみたいな人になる第一歩です」
私は自分に話しかけるよう返答しました。
夏休み明けからは新たな環境での生活の開始です。
不安ですが頑張ります!