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夢の世界の宝石  作者: ぼじょばに
11/23

妹背エリその1


「ただいまー、今帰ったぞー」


 玄関の扉を開け中に入る。

 靴はあるな。やはりありさはもう家にいるようだ。

 あれもう一足ある、誰か来てるのか?

 だからかけよって来ないのかな。

 靴を脱ぎ、そろえて置く。意外と俺はこういうとこ細かいのかもな。

 予想だとそろそろ突撃されると思っていたんだけど、お客様、様様だな。

 話し声は聞こえないし居間にはいないようだ。

 疲れたしソファーでくつろぐか。

 俺は玄関から居間に直行した。

 ドアを開ける、まず冷蔵庫を覗こう、昨日買っといたコンビニスイーツが入っていた筈だ。あと、茶―しばいてスッキリするべ。

 俺は自宅なので緩み切っていた。


「お邪魔しています小町さん、私がだれか分かりますか?」


 銀髪にオッドアイ、学校の自販機前でおろおろしていた彼女がいた。

 ソファーに深く座り足組して俺を見ている。

 しかも俺のスイーツを食ってやがる。おかしいだろ!


「妹背さんがなんで家に?どうやってきたの?」


 くすくすと最近よく見た微笑みを浮かべ、


「零お姉さまがこちらにお邪魔されているようなので挨拶に伺いました」


 あ、これはまだ気を抜けないパターンだ!俺は知っているぞ。

 どうやら俺のまったりタイムはまだ訪れてはくれないようだ。


「零、お客さんだぞ」


 …反応がない。ガチで寝てるのか?勘弁してくれよ。


「すまない、零は睡眠中みたいで相手できないみたいだ。零も姉妹のこと探していたみたいだし家に来たことは伝えておくよ」

「あらそうですか。残念です。ではお姉さまがお目覚めになるまであなたにお相手をお願いいたします」

「俺じゃあ役不足じゃないか」


 助けてくれー。反応してくれ零。妹来てるぞー。

 妹背さんは手招きして隣に座るように指示してくる。

 ビビりつつそれに従い隣に腰を下ろした。

 なんで自宅で他人のご機嫌伺いしないといけないんだよ。ほんとやだ。


「下のお名前はリュウジさんでよろしかったかしら。エリの中で見ていましたわ。手を差し伸べて助けてもらったんだって。あんなにはしゃいだエリを見たのは久しぶりでしたのよ」

「自販機の前で困ってたから手を貸しただけだよ。俺もその自販機に用があったし気にすることじゃないよ」

「リュウジさんはお優しいのですね」


 クスクス笑う仕草は零とそっくりだ。

 さすがは姉妹だ。


「改めまして自己紹介を、私は六花、六女です。お姉ちゃんも妹も抱える中間管理職をしております」

「ご丁寧にどうも」


 ぺこりとお辞儀をしあう。

 六花さんは申し上げにくいのですが、とうつむいたまま口にし、


「本日お邪魔させていただいたのは実はお願いがあってのことです。率直に聞きますリュウジさん。あなたはエリと交際を前提にお友達になっていただけないでしょうか?」

「はい?」

「悪い話ではないはずです。リュウジさんもこの子のビジュアルには文句はありませんよね。性格は人見知りですが一途な良い子です。私が保証いたします。」

「お互いまだよく知りもしないし、ちょっと会話しただけだよ俺たち。それに当人同士でする話でしょうしそれはさすがに…いや、友達には喜んでなって貰いたいけどさ」

「無理も承知のお願いなのは理解していますが聞いてもらえないでしょうか。理由を説明いたします」


 そして六花は魔法を用いて語りだした。

 妹背エリという少女の話を、

 頭の中に映像が流れ込んでくる。 




 妹背エリは生まれながらに不幸な少女であった。

 ごく普通に恋に落ち、ごく普通に結婚し、愛を確かめ合い、その結果、妹背エリはこの世に生を受けた。

 が、純日本人の父と母の元に銀髪碧眼の女の子が生まれたのだ。

 最初は病気かも知れないと検査を行い、異常はなく。

 隔世遺伝かも知れないと家系図を調べるが、どちらの家庭にも調べられる限りでは、外国人の血は混じってはいなかった。

 二人は当然不思議に思ったが、初めての二人の愛娘に愛情を注ぎ育てた。

 

 問題が発生しだしたのは初めての誕生日を迎えてから数か月経過したくらいからだ。

 玩具がほしいと手を伸ばすとそれが手元に向かったり、飲み物を零してしまった時はその液体がひとりでに容器に戻ったり、およそ常識では考えられないような現象を多発させ始めたのだ。

 この頃から両親はエリを不気味がり、遠ざけるようになった。

 最終的には、訳アリの子供を預ける施設の前に少しのお金と「妹背エリ」と名前の分かる名札と共に捨ててしまったのだ。

 唯一の幸運は、エリの不思議な力をお金に替えなかったことだけであろう。

 

 施設に入れられてからは不思議なことにエリはその力を使うことはなかった。

 施設の職員はいつものことと深くは考えなかった。名前も偽名か本名か分からないがそのまま使うことにした。

 捨てられてしまったとはいえ、両親からの贈り物には違いなかったからだ。

 

 時はたちエリは小学校に通いだした。

 施設内で賄えるので保育園や幼稚園は必要のなかった彼女にとって初めての学園生活だ。

 施設に同い年のいない彼女は、持ち前の明るさで元気に入学式に参加しホームルームに参加し、施設に帰っていった。

 彼女は浮かれるばっかりで周りの視線に気が付いていなかった。奇異の目で見られていたことを。

 この年頃の子供体は思ったことを口に出す。

 相手のことなど考えずに。

 それが子供、無邪気な、故に悪意のない言葉を。


「ねぇなんであの子、髪の色がちがうの?」


「ねぇなんであの子、目の色がちがうの?」


「ねぇなんであの子、肌の色がちがうの?」


「パパとママはいないの?」


「ねえ、なんで?」


 無邪気な騒音。うるさいうるさいうるさいうるさい。

 わたしだって知りたい。


「なんであの子は私たちと違うの?」


 なんでわたしとみんなはちがうの?

 みんなと違うといけないの?

 ねぇ、教えてよ!

 教えてよ!



 さらに時間は流れエリは中学生になった。

 幼少期は明るかった彼女も、小学校に通いだしてから次第に内気になり、心を閉ざし自分の世界に閉じこもりがちになっていった。

 施設で育つ子には2パターンあるようだ。

 逆境を乗り越え強くたくましく育つ子。

 周囲に気を配り自発的な行動をなるべく控える子。


 エリは後者だった。

 とりわけエリへの逆風は強かったのだ。

 学校でも、安らげるはずの施設までもがだ。

 幼いながらにエリは悟ったのだ。

 自分はいらない人間なのだ。人間以下のゴミ。リサイクルできるだけゴミの方が幾分かましなスクラップなのだと。

 以降、彼女は口を閉ざした。

 人間様に迷惑をかけないよう。

 空気になるように全力で取り組むようになっていった。

 

 そんな彼女を不憫に思う職員が一人いた。

 施設長だ。

 彼女は高齢ながら未だに現役で子供たちからも懐かれ、彼女の周りは笑顔が咲き乱れている。

 彼女はエリを拾った本人だ。

 彼女は知っていた。エリが不思議な力を使えることを。

 エリが捨てられていた日は、ひどい夕立が施設をうちつけていた。

 彼女はその日、子供の泣き声を聞いた。激しい豪雨でよく聞き取れないが確かに聞こえる。外からだ。

 施設の子供が外に出たまま泣いているのではと思い急ぎ彼女は外に飛び出した。そして門の外に泣きじゃくる幼子を見つけ駆け寄った。

 施設の子ではないようだ。雨にぬれ幼子が握っていたため、よれてしまっている茶封筒を受け取り中身を確認する。中には気持ちばかりのお金とこの子をお願いします。と滲んだインクで一言書かれた紙きれ、そして妹背エリと書かれたネームプレートが入っていた。

 施設ではままあることだ。子供のゴミ捨て場と勘違いしている大人が多いようだ。

 彼女は幼子の手を引き施設へと歩き始めた。

 このとき彼女は気が付いた。

 幼子が濡れていないことに。

 長時間雨に打たれたのであろう茶封筒はグチョグチョなのに、

 幼子だけが濡れていない?

 こんなことあるのだろうか。

 現に先程外に出た彼女もぐっちょり濡れている。

 しかし幼子は濡れていない。

 不思議に思い幼子を見ていると理由が分かった。

 雨は幼子に当たる前に、幼子の周囲の何もない空間に当たり、しぶきを立てていることに。

 彼女は以降、幼子を、エリを観察し続けていた。

 最初はその神秘性ゆえにだったが次第に変わっていった。

 ほかの子供と同じ自分の子供のように思いだした。

 彼女の活発な姿に、子供たちと遊ぶ姿に、あの笑顔に、

 ほかの子たちと何が違うというのだ。

 彼女も私の守るべき子供なのだ。

 そして今日までエリはその力を使うことはなかった。


 故に彼女は自分に残された時間を彼女のために使おうと決意した。

 彼女は末期ガンだった。複数個所に転移し、治療は不可能。

 現代医学では直せないとさじを投げられたのだ

 彼女は思う、幼い頃のエリの優しさあふれる行動を、笑顔を、それを曇らせてしまったのはほかでもない自分たちの未熟さ故ではないかと。


 施設の代表者として、エリの母親として彼女は残された時間を駆け出した。


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