4 私と夕陽と彷徨う心
「夕暮れに赤く染まる東中央公園では、呉島桃花、改めプリチアピルムピーチvs結社bAdPEACHの五覇、インペランゴの戦いが始まろうとしています!
それぞれの心を奮い立たせ、両者相手を睨みつけます。
夕陽に輝くピンクゴールドの髪を2月の冷たい風に靡かせるピルムピーチのその姿は、モニター内でかつて見たプリチア以上の神々しさをも醸し出していますっ! その可憐さに秘められている愛と狂気を、右手に携える大きな槍に宿して戦ってくれるのでしょうか⁉︎ 金の瞳が睥睨しているのは、平和を脅かす怪人インペランゴなのか、それとも悪が蔓延るこの世界自体なのかっ⁉︎
対するインペランゴは、そのペンギンをペンギンたらしめる愛らしい身体の曲線美とは裏腹に、その鋭利なくちばしと大地を踏み締める大きな足は彼の皇帝の名を持つものとしての威厳を象徴しているようだっ! 彼は一結社の五覇で燻っていていい存在だろうかっ、いやそんなわけがないっ! 今日彼はエンペラーの名の下にこの戦いを制することになるのか否か⁉︎ 全悪の組織が固唾を飲んで見守りますっ。
実況は私、宮田誠花がお送りいたします。
さあ、歴史に名を残すであろう初のプリチアの戦いが今始まろうとしていますが、解説の佐藤さん。今回の戦闘はどのようになると思いますか?」
「そうですね、プリチアの戦いが初めて実現するのがこの戦いとなります。今まではプリチアを再現するための技術はなかったんですね。つまりピルムピーチさんは初代プリチアという扱いになります。そして全世界の誰もがプリチアの戦いぶりを知りませんから、彼女の戦術を如何にはやく怪人インペランゴさんが理解し作戦を練るかがキーポイントになると思います。
そして、あまり注目はされていないですが、今回の戦いはインペランゴさんにとってもデビュー戦になるんです。双方にとってデビュー戦ということですので、インペランゴさん自身の戦い方も判明していません。また、彼が所属しているbAdPEACHという結社なのですが、こちらも滅多に表立って活動することはありませんからプリチアほどではなくても対策は立てにくいんですよね」
「なるほど。今おっしゃったバッドピーチ、という結社について他にわかることはあるのでしょうか?」
「えぇ、実はこのバッドピーチは科学に強いという噂があります。非常にサイエンティフィックな武器を使用する傾向がありので、今回もそれが当てはまるならピルムピーチさんはごり押しでは勝てないかもしれません。ただ一方、科学的な手法というのは超常現象とは違うので、カラクリが分かってしまえば対策を立てるのは容易になりますね。今日の戦いは、プリチアの戦い方や戦力、そしてバッドピーチの戦法を見極めるのに大変貢献するものになると思います。」
「ありがとうございます……さあ、戦いは間も無く始まります。勝利の女神が微笑むのは一体どちらなのかっ⁉︎」
一旦CM入りまーすっ!
♪はぁ、今日も悪夢みちゃった。
最近夢見が悪いなぁとおもったら!桃ノ木病院で検索!
♪も〜ものーきっ!びょーういん
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私はふと我に返って、スマホを取り出してあるところに電話した。連絡が終わり、手元のスマホから目の前に視線を移し、ため息をつくのだった。
こんなに現実逃避ばかりする人間というのもそうそういないだろう。わかってる、わかっているんだ、この状況で現実逃避なんて何の意味もなさないことくらい。
解説の佐藤さんなんて存在しないし、桃花とペンギンがデビュー戦かどうかなんて知らないし、バッドピーチが科学に強いとか根っからのでまかせだ。
唯一リアルなものがあったとしたら、私の脳内で再生されたコマーシャルくらいだ。あれは実際に存在するものを私が思い出しただけである。
頭がおかしいと思われるだろうか。でも仕方ないでしょっ⁉︎ バレンタインデーに気が乗らないのに推しをストークしたけど、推しは公園でよくわかんないコスプレするし、その上ショッカーみたいな雑魚キャラコスの人と集まっているし、不審者には会うし、友達は変身するし、不審者は悪の組織だって自白したし……もうなんなんだよっ。
そういえば驚かされることが多すぎて今の今まで忘れてたけど、高井君! 君なにそこで準備運動みたいのみんなと一緒にやってるのさっ。貴方の同級生が変身するとこ絶対に見てたよね? なになになに? 同級生であろうと戦う気満々なわけ? それともまさかとは思うけど、あれが呉島だって気付いてないのかっ。髪の長さと髪色と目の色が変わっても顔の造形と体型は変わってないんだから気付けよっ。
高井君が雑魚敵の点呼とってる姿もかっこいいし、あんな姿レアだから目に焼き付けたいけど、でもそんな場合じゃなくない? 何これヒーローと組織が戦ってるのは皆様にとっては日常茶飯事だよね、くらいの出来事なのかな。
「かかってきなさい、正義の名の下に全員まとめてぶっ倒してやるわよっ」
桃花は手をくいっと動かして、悪役なのかヒーローなのか、もはやわからない発言をかます。自分から手を出したらダメなのかな、そうなのかな。だから挑発してるかなぁ。もう分かんないよパトラッシュ。
「はっ、まずはお手並み拝見といこうじゃないか。やれっショーカーズっ!」
その声と共に、あの雑魚そうな人たち(ショーカーと言うらしい。オマージュだろうか。)が一斉に桃花に襲い掛かった!………とはならなかった。
え? なんでお前らお行儀よく整列してるの? はよ行けよ。きっとみんなもこう思っているだろう。そこに鶴の一声が発せられた。
「お前たち、いけっ!」
高井君の声だった。その声が聞こえるとショーカーさんたちはやっと桃花に向かって駆けていった。なんとも間抜けな光景だ。
……あれ? 高井君、雑魚のみんなとは格好がちょっと違うなって思ってたけどそういう立場なの、上司なの? 高井君、さっき準備体操する意味あった?
いや待てそれ以上に、こいつら組織として根本的な問題があるでしょ。高井君がショーカーのまとめ役なのか知らないけど、今この場のトップって怪人じゃないの? ショーカーズは上司の上司だから言うこと聞きませんって感じ? だからって二重で同じ指示するとか間抜け過ぎでしょ。タイムロスにも繋がるし、ピルムピーチさんはその間に槍構えちゃってたよね。
そして結果は言うまでもなく、ショーカーズさんたちは大破を喫した。ショーカーさん全員が倒された訳ではないけど、後方にいた人たちは、前方で仲間がめっためったに倒されるのをみて戦意喪失。
ボスである高井君の方はというと、やる気がそんなにあるわけでもなく(というか同級生相手にめちゃくちゃやる気だすような性格だったらそもそも推してない)、「危なそうだったら下がっていいよ。」とか言ってる。優しい上司だからきっと部下には好かれているのだろう。
「こんなもんなのね。ペンギンの負けってことにして撤退してくれるなら許すけど、どうするの? 私はそろそろお腹減ったし、友達も待たせてるし、もういいかなって感じなんだけど……」
例のプリチアさんは最初のノリとは一転、完全に飽きたようだった。
それにしても彼女、私の存在なんててっきり意識の外に行ったもんだと思っていたから、待たせていることに気付いてるとは意外である。
「ふっ、誰が撤退などするな。今のは前哨戦。本当の戦いはこれからだっ!」
ペンギンはどこからともなく剣のようなものを取り出した。
私は噴水の水が滔々と流れるのを無我で眺めた。
あぁ、まだまだ戦いは終わらなそうだ。




