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2 ストーカーとはこれ何ぞ

 

 桃花から(高井君の後を)つけてみればと言われ、なんやかんやあって今日の放課後実行することになり、またかくかくしかじかあって、私たち今は公園にいる。

  結局のところ、私と桃花はストーキング行為をしてしまったのだ。


「なに言ってるのー。これは追跡調査だよ? ちょ、う、さっ。ストーキング行為ではないですぅ。私は高井君のこと好きじゃないからねっ」


 なにを言っているんだゆるふわ女子め。十分ストークしただろ。好きとか関係なく跡をつけているだろう。

 追跡なんてしたことない私とは裏腹にやけにこいつは手慣れた感じだった。


 私が高井君に後をつけていることをバレたくなくて店の中に入ったり、商品を見ている様を装おったりすれば、桃花は「なんだこいつ」という目で見てきて挙げ句の果てには「そんな状態を見られた方が怪しまれるでしょう? こうゆうのは見失わない程度に離れてればいいよ」なんてアドバイスしてくる。


  ただ1つ言えるのは、私が被害者ヅラする立場ではないということだ。やってしまった以上、こいつも私も共犯なのだ。あぁ! 神よ。私を許してください。私はただの敬虔な高井君ラバーです。ついでにこいつのスマホの画面は割っちゃってください。


「なに落胆してんの? ほら、高井君でも見て元気だしなよ。やっぱり人を待ってるのかなぁ」

「……そんなん言わないでよ」


 バレンタインデーに人を待つとしたら、お付き合いしている人だろう。

 私は今、高井君への罪悪感と彼女がいるかもしれないことの悲しみで落胆しているのに、高井君(正しくは高井君の筋肉)を見て元気を出すなんて皮肉だ。ようし、観よう、観るしかねぇな。


 私は生憎のこと裸眼の視力は2.0で、100 m離れていても存分に推しを見ることができる。高井君はこの広い公園にある噴水側のベンチに腰掛けていた。


 私たちは公園の道路を隔てた向かいにあるカフェのテラス席から様子を伺う。幸運なことに、ここら辺の地域は放課後に遊びに来る高校生が多い場所だったのでバレても可笑しくない。


「O駅付近だし、この時期はイルミやってるし、彼女なのかねぇ」

「うわぁっ、だからそんなん言わないでってば。推しなんだよ?」


 口では桃花にこう言うが、それでもやっぱり彼女だろうなとは思っている。場所が場所だし、放課後になって急いでいたし。そういうところも我が推しは素敵だけど。


 誰だって、推しに彼女がいるとか知りたくないと思う。もしも推しがアイドルとかだったら、夢売ってる以上そりゃ隠して欲しいし、なんなら恋愛での交際はしないでほしいって思うだろうな。高井君はアイドルとかでもないから仕方ないけど……推し変するしかないかなぁ。でも推しが幸せなら実際なんでもいいのかもな。彼女さんに悪いから推し変はしたいけど……


「あれ……ねぇ高井君いなくなってるんだけど? 誠花ずっと見てたでしょ。どこいった」


 桃花はいじっていたスマホから顔を上げてそう言った。たしかに、あそこに高井君はいない。


「ごめん、流石にずっとは見てなかった」

 視線に気付かれたらやだし。

 しかしどこへ行ったのだろう。こんなちょっと目を離したすきに彼女が来てどっか行ったのか……彼女見たさについてきたが、ここで私の心は折れた。


「もうやめよーよ。彼女がいるなら邪魔しない方がいいかも。せっかくのバレンタインデーだしお菓子とか食べて2人で遊ぼう?」


 桃花は周りをキョロキョロ見渡している。こんな短時間でどっか遠くに行ったはずはないからまだ探しているのだ。

「だめだよ、誠花ちゃん? まだ彼女かもわからないのに推し変なんて最悪でしょ」

「うー。そうだけどさ」

 桃花は見渡すのをやめて、公園をまた見つめる。


「それにね、ただトイレに行ってただけみたい。」


 その言葉につられて私も顔を向けると、高井君が見えた。うん。見つけたけどもね。


「なにあの格好? 変質者と間違えられちゃう。かっこいいけどなに? 悪の組織みたいな感じじゃん。なんだあれ」


 高井君は、スパイダーマンのような黒の全身タイツらしい服の上に迷彩柄の軍服の様なものを着ていた。戦隊ものに出てくる量産型雑魚っぽいけどかっこいい。桃花は顔も見えないのによくあれが高井君だって気付いたな。こいつ、素質あり。


「そうだねぇ。それにさっきより公園に人増えてない?」


 異様な光景に私は目を凝らした。言われてみればそんな感じがするとかいうレベルではなく人口密度高めな感じ。


 しかし、この光景の異様さはそんなことではない。人は全員高井君と同じ黒タイツを着ているのだ。それこと悪の組織の雑魚みたいなやつ。軍服は着ていない。


 ねぇ高井君。今日バレンタインデーだよ。なにやってんの彼。彼女にサプライズでもすんのかよ、フラッシュモブ? そーゆーの好きなタイプの子と付き合ってんの?


「はっはっはっわかったぞ誠花ちゃん。これは悪の組織の雑魚達の集まりだよ。親交を深めているのだよ」


「確かに見た目は悪の組織だけど、高井君高校生だよ? そういうことするかなぁ?」


「とやかく言ってないで行くぞ! 敵は本能寺にあり! いざ尋常に風林火山を掲げ参るぞっ。いやぁ、乱世乱世っ、防犯防犯!」


 私たちは明智光秀じゃないし、武田信玄でもない。中国の戦術書も関係ない。いやはや何かが桃花さんのスイッチを入れてしまったようだ。とてもテンション上がってる。


 腕を掴んで止めようにも桃花はずんずんと進んめで行くのでついて行くしかない。力づくで止めることも嫌だった。


 信号が赤色で待ってと頼んでも待たない友人の所為で私たちはもう公園の中だ。どうしようもなくて私はちょっと腕を引いて桃花を止めた。


「ねぇ待ってよ呉島」

「なんだね、宮田」


  桃花は抵抗を止めた。私が腕力バグJKだから、力では敵わないとわかっているのだろう。


「行ってどうすんの? まだ悪の組織って決まったわけでもない」

「いや……あの格好はどう考えても悪の組織でしょ」


  確かにこの時代だしそうかもしれないけど、こんな時代だからこそ悪の組織のファンもいてコスプレとかする人がいるのだ。どっちとも言えない。


「うん、じゃあ行ってどうすんの? どっちにしろ警察を呼ぶべきだよ」

「さっきお巡りさんいたよ。でもあの人たちに話しかけただけで何もしなかったから、きっとレイヤーと勘違いしてるんだよ。こんな明るい時間に、目立つ場所でいるはずないって」

「じゃあ仮に悪の組織だったとしても、私たちで何をどうすんの?」


 桃花は当たり前のように、戦うんだよと言った。

 レイヤーの集団かもわからない人と戦うのか? 仮に悪の組織だったとして、戦うなんて馬鹿すぎる。


 23世紀の超科学技術の社会でもスマホは武器にならないし、スマホから魔法が出てくることもない。人間は魔法みたいなものを使えるようになったが、それも結局法律で超科学技術の行使は制限がかかっているので私たちはなんもできない。


 私たちは戦えない。桃花は力が弱いし、実は空手日本一でしたー、とかも無い。私も兄弟げんかすらしない年だし、中学でやった柔道は受身以外きちんと身についていない。


「あぁもう帰ろう。ちょっと冷静になれなさそうだから帰ろう。ね?」


 私は全力で桃花を諭しながら公園の出口に向かう。どうどうどう。

 さっきまであの、カフェテリアにいたはずなのに、こいつは活発だなぁと思いながら腕を引いて歩いていく。


 桃花は反抗してるけど、私に腕を掴まれているので引っ張られるだけだ。桃花のローファーがザーっと砂をひく音がする。全体重かけやがって……


 やっと公園の出口だ、と喜んだ時だった。


「やぁ君たちこんにちは。何をしているんだい?」


 目の前には戦隊もので放送2回にわたって倒されるくらい凝った作りの、ちょっと偉そうなやつがいた。

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