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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
完結編 全世界の転生を阻止せよ!
67/70

65:転生阻止者の帰還

夏休み特別編! 本日より火・木に更新を開始して、4話で完結する予定です。

本編未登場の設定と伏線をモリモリ回収しつつ、夏らしくさっぱりとした後味になるかと思います。

未読の方も、もしご興味があれば、1話からご覧いただければ幸いです。

 俺は走っていた。


 見慣れた校内を全速力で駆け抜けて、渡り廊下を文字通り飛び抜けて、体育館の扉を―― ガッチリ施錠されていた扉を力任せにこじあけると。


「久しぶり。待った?」


 出迎えてくれたのは、床でうずくまる全校生徒達と。

 数え切れないほどの銃口をこちらに向けたテロリスト達だった。


 ……やあどうも、ご無沙汰。

 前に話をしてから随分と間が空いたような気がするけど、実際どうだったかな。


 あの日、俺が――海良寺 清実(かいらじ きよみ)が学校帰りに偶然トラックに跳ねられた時から、だいぶ時間が経った。

 死の運命を阻止する転生阻止者(フィルギア)とかいう面倒な仕事を、転生管理局(ヴァルハラ)から押し付けられた俺はたくさんの転生を阻止してきた。


 トラックに引かれかけたギャルに始まって、ブラック企業に務めてたOL、ストーカーに狙われたJC、連続殺人犯に霊感少女、地獄の女刑事、クソニート、マッド引きこもり、死んだはずの女、自称宇宙人、ドジっ子スパイ、ムカつくエリート、ゾンビパニックの生存者、異世界からの来訪者、現職の総理大臣に異国の姫君……まあ数え始めたらキリがない。


 そして今もまた、「学校を占拠したテロリストに立ち向かう勇敢な少年」の転生を阻止し終えたところだ。


「――いっちょあがり、っと」


 勇敢に立ち向かってきた最後のテロリストが、俺が放った電撃を食らって失神する。


 自分で言うのも何だけど、だいぶスマートに仕事がこなせるようになったっと思う。


 便利な雷魔法――“電光石火ライトニング・スピード”と“極小雷撃(プチ・サンダーボルト)”、そして転生に失敗したときに受け取った物理無効の仮の身体(ウイルド)があれば、銃持ったテロリストの十人や二十人なんてそのへんのクラブで踊ってる兄ちゃん達と大して変わらない。


「あー、よかった。ロクハラ・シンジの無事を確認、っと」

「君……ホントに、あの清実なのか!? トラックに惹かれて死んだって――僕、君の葬式にも出たんだぞ!」

「知ってるよ、ありがとな。それより、お前、カッコよかったよ。理沙ちゃんのこと、守れてよかったな」


 ロクハラ・シンジ――普通に生きていた俺の、数少ない友達。

 一年以上片思いしていた遠藤理沙ちゃんを守るため、テロリストが構えたサブマシンガンの前に立ちふさがったカッコつけたがりの大馬鹿野郎。


「ていうかシンジ、お前、命はホント大切にしろよ。理沙ちゃんにはもう彼氏がいるけど、肝心の彼氏は校舎のトイレでブルってオシッコ漏らしてるから、多分お前にチャンスが回ってくると思うし」


 そもそもシンジの奴が、法務大臣の愛娘である遠藤理沙ちゃんに惚れたりするから、俺がこうして身バレ覚悟で母校に出張ってくる羽目に陥ったんだ。

 ホント、これが最後のクエストじゃなかったら、見殺しにしてたところだぞ。


「……なあ、清実。一体、何があったんだよ? 君、その髪、真っ白じゃないか――それに左目も、おかしな色になってる」

「ビジュアル系に目覚めちゃってさ。てか、俺のことはいいんだって。それよりホラ、理沙ちゃんを抱きしめてあげろよ、怯えちゃってるぞ」


 事態を理解できないながら、振り返って理沙ちゃんの無事を確認するシンジ。

 彼がもう一度こっちを見た時、俺はその場にいなかった。


 厳密には、まだそこにいたんだけど――そっちの世界(・・・・・・)にはいなかった。


 俺の存在は、パートナーであるヴァルキリーの手を取ったことで、この世の人間には決して触れられない中間領域にズレていた。


「グッジョブ、清実ちゃん! いい仕事だったねぇ」

「有終の美ってヤツだよ。今更テロリストぐらいじゃ遅れは取らないっつの」


 ヴァルキリーに引き上げられた俺が腰掛けたのは、純白の翼を誇るペガサスの背中。

 手綱を握るのは、銀に輝く鎧甲冑を纏った戦乙女(ヴァルキリー)


 彼女の名はブリュンヒルデ――死者の魂を導く女神であり、転生阻止者(フィルギア)である俺のパートナー。というか、お目付け役?


「清実ちゃん、ホントに大きくなったねぇ。お姉さん、嬉しいよぉ」

「うるさい、嘘泣きやめろ。いいから行くぞ、ブリュンヒルデ」


 俺の意を汲んだペガサスが、自ら大きな翼を広げてくれる。

 そうだ、お前も一緒に戦ってきてくれたんだよな。ありがとう。


 体育館の扉を抜けて四方津市の上空に飛び上がるまで、一分もかからない。

 見慣れた空からの景色を眺めながら、俺はふと、名残惜しさを感じている自分に気づいた。


「いやー、今回のクエストクリアで、いよいよ清実ちゃんも転生かぁ。気分はどう? あれだけ転生したがってたもんねぇ。念願の田舎でスローライフしてハーレム作って――あと、なんだっけ? あの妄想垂れ流しトーク、忘れちゃったよ」

「お前がそんなこと聞いてくるなんて、珍しいな。俺の夢なんて興味なかっただろ?」

「あら、つれない。わたしだって、欲望丸出しの思春期ボーイをここまで見守ってきたのよ? 多少は感慨深かったりするよ」


 相変わらず軽口を叩くブリュンヒルデだったが。

 その瞳は、裏腹に寂しげな色をしていた。


 ……そんなこと、俺だって分かってるさ。


 結局の所、長く続いた人助けクエストの中で、ずっと俺のそばにいてくれたのはブリュンヒルデだ。

 俺がやる気を無くしたときも、自分の魔法に飲み込まれて自我を無くしたときも、敵の女神に心臓ブチ抜かれて消滅しかかったときも。


 ブリュンヒルデがそばにいてくれたから。


 ……ああ、畜生、恥ずかしい。

 俺はこんな時、いつも何て言えばいいか分からなくて。

 仕方ないだろ、未だに童貞なんだから。


 でも、一つだけ分かってることがある。

 これが本当に最後だ――俺はもうすぐ異世界に転生して、ヴァルハラとは関わりのない人生を送ることになる。


 もう二度と転生なんてごめんだ。

 次の人生ですべてを手に入れて、最高の死を迎えてやる。


 だから――もう、二度と。


『――聞こえますか!? 清実さん、ブリュンヒルデ!』


 突然の念話(テレパシー)

 この知的かつ舌っ足らずな声は、スクルドだな。

 運命を司る三姉妹(ノルニル)の一人。俺の所にいつも厄介なクエストを告げに来るドS美幼女。


「どうしたの、スクルド? 送別会までまだ時間あるでしょ?」

『違いますよっ! 見てください、空! あそこ!』


 いつになく慌てた調子のスクルドに言われ、俺達は空を見上げた。


 ――地面があった。


(あれ?)


 いや違う、俺達が墜落してるとかじゃない。

 逆だ。

 空から地面が生えてきているのだ。


「オイ、待て、これ見たことあるぞ、前にウルザブルンが見せてきた映像の――」


 あれはこの星の地面じゃない。

 城が崩れ、ドラゴンが飛び、ゴーレムが暴れ、騎士がわめき、エルフが悲鳴を上げている。


 どこか別の世界――異世界の大地だ!


「まさか、嘘でしょ――あれ、ラグナロク……全世界同時融合!?」


 オイオイ、マジかよ。


「オーディンの爺さんが言ってたやつか? でも、この前阻止しただろ! 犯人(あのバカ)は海の藻屑にしたし、グーングニルとかいう槍もへし折ったじゃねーか!」

「……多分、足りなかったんだよ――あの執念深き者(ウルズ)の心を折るには」


 名は体を表しすぎだろ。

 どんだけ執念深いんだ、あいつ。

 人間は海底に沈んだら大人しく死ぬもんだろうが!


 ……あー、ごめん、アレだな。

 ちょっと話が飛躍しすぎた? 悪い悪い。


 お察しの通り、俺の周りではこれまで色んなトラブルがあったんだけど……全世界同時融合(ラグナロク)の件は、ぶっちぎりで一番の危険だった。


 ラグナロクってのは、まあ世界の終わりとか神々の黄昏とかアポカリプスとか言われてるアレのことで――要するに、「色んな世界がくっついちゃって、誰も住めない世界ができあがっちゃう」っていう災害だ。


 聞いてみたら、アホらしい話なんだけどさ。

 同じ宇宙でも地球と火星じゃ、大気の組成とか公転周期とか重力とか、全然環境が違う。地球の生き物は火星じゃ生きられない。じゃがいも育てれば頑張れるけど。これは常識だよな?


 じゃあ違う世界ならどうなんだっていうと。

 俺達みたいな地球出身者は、転生っていうフィルターを通さなければ異世界では暮らせないんだって。霊素(エーテル)密度が全然違うとか、なんか色々ややこしい要素があるらしい。


 そんな数多ある異世界達を無理やりくっつけたりしたら、何が起こるか――あらゆる宇宙、あらゆる世界、あらゆる時間と可能性と並行次元が収束したら。


 全ての生命が死に絶える。

 文字通り、本当に、あらゆる可能性が。


 ……そんなヤベーやつを起こそうとした馬鹿を、この前ようやく倒したと思ったのに。


『清実さん! ウルザブルンが、あなた宛に新しいクエストを発行しました!』

「何言ってんだスクルド、そんなことやってる場合じゃないだろ!」

『死亡までのタイムリミットは、五分! 転生候補者は二名! ワクイ・キリコと、ナナシ――通称ラスト・ウィザードです!』


 ちょ、えっ、なに? なんだって?

 事態が飲み込めず、聞き返そうとしたその時。


 ――爆発が起きた。

 あれは、四方津市街の中心部――街で一番高い電波塔、通称ヨモツタワーだ!


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