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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第4章 秘密の園に咲いた一輪の転生を阻止せよ!
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57:学園ゴーストバスターズ

俺とチカコは、三日間、『祟り』に遭遇したという生徒達に聞き込みを続けた。

大抵はチカコの顔を見るなり、逃げ出すか泣き出すか怒り出すかの三択だったけど、なんとか俺がたしなめて、慰めて、時にはだまくらかして話を聞き出した。


それは単なる事故だろって話から、あからさまな作り話まで、色々あったけれど。


ついでに言うと、チカコは「死者」の中に目撃者がいないか、調べようとしてた。

でも、


「……どうしてかしら。校内に全然いないの。まるで何かに怯えてるみたい」

(もしかして、ブリュンヒルデのせいか?)

「あー。多分みんな、『向こう』に連れて行かれる! とか思ってるんだろうね。あたし、こう見えて死者の導き手(・・・・・・)やってるんでー」


なんでちょっとドヤってんだよ。

知ってるよ。

……忘れてたけど。


とにかく。

生徒達の話には、確実にヤバいのがあった。

そういう話に決まって現れるのは、黒い影。


(それが、誰も正体を捉えられなかった『悪霊』、なんだろうな)


捉えられるはずない。

異世界から一瞬だけ湧いて消えるモンスターなんて、想像すらしないだろ。

俺もよく分かってないぐらいだ。


昼休み。

俺とチカコは、いつものように裏庭の木陰で、聞き込みのメモを並べていた。


俺はいちごチョコチップメロンパンをむしゃむしゃ――失礼、ちまちまとやりながら、


「……分からないね」


げんなりと呟いた。

チカコは、スマホに書いたメモと、ノートに並べたメモ入り付箋紙を見比べている。


「もしも、同じ『悪霊』が起こした事件だと言うなら……規則性とか、共通点があると思うのだけれど」

「だよね。呪われた土地に近づいたとか、悪霊が封印されている人形を壊したとか、そういうの。定番だし」


被害にあった場所、時間、被害者の学年やクラス、部活、住所……

共通するのは、「チカコと話した」「見た」「聞いた」「近くにいた」ことがある、ってだけ。


(もう何でもチカコに結びついちゃうんだろうな、被害者の子達は)


それでも、何か他に共通点があるはず。


俺の直感が間違っていなければ。


(『悪霊』の裏にいるのは、普通の人間だ。身バレしたら困る程度の)


異世界の神とか、知性のない怪物とか、突発的な災害とか、そんなんじゃない。

身を隠してコソコソと他人を傷つけた挙げ句、チカコに罪を着せるような、ただの人間。


(チカコに恨みのある人間……あるいは、被害に遭う前から、チカコを邪魔だと思ってるような人間)


聞き取りをした子達の中に犯人がいるんじゃないか?

被害者ヅラってのは、一番の隠れ蓑だし。

でも、見分ける方法がない。


そもそも犯人はどうやって異世界のモンスターを操ってる?

というか、モンスターの存在をどうやって証明する?

それができなきゃ、本当の意味でチカコの冤罪は晴れないんじゃ?


いや、そんなことはどうでもよくて……要するに。

真犯人を止めれば、チカコの『死の運命』は回避できるのか?


……むむむむ。


「――あ、いた! 夜見寺さん……と、オミネさん」


顔をあげると、女の子が二人、こちらに歩いてくるところだった。


「えと……後藤さん、と、豊橋さん」


おせっかい系美少女の後藤晶子さんと、毒舌ロリ美少女の豊橋萌絵さん。

二人とも、俺が転校してきたばかりのときに世話をしてくれた人。


(確か、二人ともチカコのことを避けてたんじゃなかったっけ)


アイツはマジでヤバイとか、近寄りたくないとか呪われるとか、言ってたような……


「ねーねー、ヨミちゃん。萌絵もまぜてよー。おもしろいことやってるんでしょ?」


と尋ねてきたのは、豊橋さん。

クイクイと袖を引っ張ってくるあたり、この人ホントあざといな。

俺がお姉様好きじゃなかったら、とっくにハートを射抜かれてるぜ。ふう。


「面白いこと、って……なに?」

「ちょっと夜見寺さん、とぼけないでよ。転校生が悪霊の正体を暴こうとしてるって、学校中で噂になってるんだから」


後藤さん、いつの間に俺の隣りに座ったの?

かわいいお弁当箱まで広げてさ。


「えっと……ちょっと待って。二人は、その、『悪霊』の事件はチカコが原因だって、思ってるんじゃないの?」

「えー? うーん、まあ、思ってるけど……でもー、そうじゃない方が面白くなーい?」


だから、おい、豊橋さん。

もう少しオブラートに包んでくれよ。


「ちょっと萌絵ちゃん、そうじゃなくって……えっとね。うちら、正直ガチだって思ってたけど……でも、もしホントにオミネさんが自分でやってるなら、こんな警察みたいな? 捜査とか、めんどくさいこと、しないんじゃないかな、って。そしたら、じゃあ、何が本当のことなのか、気になってきたっていうか」


なるほど。後藤さん達の言いたいことは分かった。

どうやら、『悪霊』に襲われるかもしれない危険を冒した価値はあったみたいだ。

少しずつ、学校の空気が変わり始めている気がする。


「……そっか。ねえ、チカコ。二人にも、調査を手伝ってもらおうよ」

「待って、来香。言ったじゃない。私の近くにいると危険なのは、事実なのよ。これ以上誰かを巻き込む訳にはいかないの」


チカコは首を縦に振らない。


流石は転生候補者。

この責任感、まさにヒーロー気質だぜ。


正直、俺だって同じことを考えないわけじゃないけど……でも、チカコの命には代えられない。あと俺のバラ色ハッピー異世界転生ライフ。


「だいじょうぶだよー、危なくなったら、ちゃんと逃げるし!」

「それに、あれでしょ? 夜見寺さんがハリウッド仕込みのスタントで助けてくれるって」


うん。……うん?


「なんか設定盛られてるけど、清実ちゃん」

(……まあ、その、なんだ。正体バレるよりはマシじゃん?)


適当な言い訳するよりは、噂に乗っかっていった方が楽だし。

むしろ助かる。うん。

どーも、帰国子女兼ハリウッドスターです。

トムって呼んでね。クルーズでもいいよ。


「あのね、チカコ。今の状況、正直わたし達二人だけじゃ手詰まりなんじゃないかな。後藤さん達の意見も聞いてみたくない?」

「それはそう、だけど……」


チカコは、それでもまだ、悩んでいるように見えた。


「近道があるなら進もうよ、チカコ。早く事件を終わらせるのが一番の安全策だよ」


俺の言葉に、チカコが顔をあげる。


「本当にいいの? 後藤さん、豊橋さん」

「もー、まじめだなー、チカちゃん。萌絵、ダメって言われてもからむつもりだしー」

「一応ね、罪滅ぼしみたいなところもあるからさ。リスクは引き受けるつもりだよ、オミネさん」


二人の言葉に。

チカコの覚悟は、決まったようだった。


「……ありがとう。それじゃ、今の状況を説明するわよ」


メモを見ながら、コンパクトな解説。

後藤さんと豊橋さんはふむふむと耳を傾けて。


「なんか……アレだね。『全部オミネさんのせい』ってフィルターを外すと、全然違って見えるね」

「えーわかんなーい、みんな怪しく見えるー」


ちょっとー! せっかく俺も啖呵切ったのにー!


「あ、香奈ちゃんだー。この子も被害者だったんだねー」

「え、豊橋さん、『Kana』さんのこと知ってるの?」

「萌絵ね、前に香奈ちゃんに誘われたの、『潰す会』入らない? って」


おい! 待て待て!

イジメの標的本人を前にして、何言っちゃってんの!?

普通に傷つくだろ、それは!


「……『潰す会』?」

「あっ、ごめんね、チカちゃん、ええとね、『潰す会』っていうのは」

「豊橋さん! 解説は、その、しなくていいから」


気まずい沈黙。

ああもう、マジ勘弁してくれ。


「……大体、察したわ。こういうの、最低な気分ね」


だよな。

と頷く訳にもいかず、俺は黙ったまま。


「……一応聞いておくけど。彼女――香奈さんは、ポルターガイストに遭って成績が下がったのを私のせいにして、『潰そう』としてたのね?」

「うん、なんか、そんなようなことを言ってた、かな?」


逆恨みも甚だしいな。マジで。


「あ、この子と、その子と、あと、あっちの子も、香奈ちゃんに誘われてたよー」

「ちょ……萌絵ちゃん、オミネさんの前でそういうのは」

「いえ。大丈夫よ後藤さん。今更気にしないわ」


オイオイオイ、そんなに色んな人に声かけてたのか……

なんだ、『Kana』は『千里眼を潰す会』の宣伝部長なのか?

それとも『Kana』自身がそんなにチカコを恨んでるのか?


(……ん? あれ、ちょっと待てよ。被害者達の名前、どこかで……)


俺は懐に忍ばせていたクローンスマホ達の中から、『Kana』のものを取り出した。

この前のインタビューのときに複製しておいたものだ。

みんなには見えないようにこっそりと、連絡先リストをチェックする。


(やっぱりだ。『Kana』の周辺の生徒がだいぶ巻き込まれてる)


付箋紙に書かれた名前――捜査対象になった生徒達の名前を一つずつリストと照会していく。


……八割ぐらい、『Kana』の連絡先に入ってる。

これ、どういうことだ?

そんなに顔が広そうには見えなかったぞ。

というか、正直あまり印象にも残ってない……


(被害者を片っ端から『Kana』が勧誘していった? それとも……『Kana』の周りの子ばかり巻き込まれた?)


俺は手早く、これまでに送られたメッセージの内容をチェックしていく。


(……初めは、『Kana』の友人ばかり被害にあってた。『潰す会』が結成されてからは、新しい人達への勧誘メッセージが増えてる……)


つまりこれはアレだ。


もしかして……悪名高きマッチポンプって奴じゃないか?


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