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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第4章 秘密の園に咲いた一輪の転生を阻止せよ!
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51:その女、危険につき

オミネ・チカコは確かに美人で、頭が良くて、運動もできる。

ついでに言えば、少しひねくれててユーモアだってある。


(普通だったら、クラスのアイドルか学校のマドンナ、って感じだよな)


見えないはずのものが見える。良いものも、悪いものも。

たったそれだけで、除け者になるなんて。


「ねえ、夜見寺さん。オミネさんと友達になったって、ホント?」


だから、チカコがいなくなった隙を狙って、こんな風に話しかけてくる子がいても、俺はあまり驚かなかった。


「うん、面白い人だよね」

「いやいやいや、違うよ夜見寺さん、あの人はガチだから」


いかにも親身に語る彼女は、後藤晶子さん。

ショートボブが似合う俺のクラスメート。ちなみに家庭科部所属らしい。


チカコが美人系なら、後藤さんはかわいい系。

小動物みたいに親しみやすい笑顔とつぶらな瞳がキュート。


うーん、流石ハナジョ。みんなかわいいなあ。


「確かにみんな、初めはネタだと思ってたんだけど、マジでオミネさんと揉めて、呪われた子とかいるんだって!」

「呪い? おフダを買わないと不幸になるとか?」


セールストークも行き過ぎると困ったもんだ。

まさかマッチポンプなんてしてないよな、チカコ。


「ううん、なんか、寮の掃除当番サボったとかで、オミネさんと揉めた子がいたんだけど……『黒い影が憑いてる』とか『何かおかしなことしなかった?』とか脅されて。言われた子、ホントに怪我して、学校来れなくなっちゃったんだって!」


チカコが呪ったっていうか、それ、チカコの警告を無視したからじゃないの?

単に自業自得なのでは……

とは言っても、まあ、そういうことがあったんなら、避けられちゃうか。


いや、でも待てよ。なんかおかしいぞ?


(そもそも、彼女が見ている『もの』って、一体何なんだ? マジで怨霊が人に祟ってんの?)

「え、清実ちゃん、亡霊とか信じてるの? えーうそーしんじらんなーい」


お前こそ超自然的スピリチュアルの動かぬ証拠だろ。

てか、どうでもいいけど、一度死んだ人間と女神がする話題じゃないな……


「死んだ人間の魂は、死者の国であるヘルヘイムか、戦死者達の楽園であるヴァルハラ、どっちかに転移するので、この世界には存在しませーん」

(……わかったような、わからないような)

「この世界ってね、魂だけじゃカタチを維持できないのよ。肉体以外の媒体が少なすぎて」


……まあ理屈は良いや。

幽霊はこの世界にはいない、それが事実だとして。


じゃあオミネ・チカコが見ているものは一体何だ?


「こっち側の世界。ええと、死後の世界、または異世界だね。君達が言うところの」

(……異世界は現実世界と重なり合って存在するけど、世界同士は干渉できない。何故なら位相がズレているから)

「お、正解! よく憶えてたね」


転生阻止者フィルギアになってすぐ、ブリュンヒルデから聞いた知識だ。


どうも理解しづらいロジックだけど。

ざっくり言えば、二枚の紙にそれぞれ書かれた絵は、お互いに繋がったり触れたりできない、ってことだ。


向こうの世界にいるブリュンヒルデは、こちらの世界に干渉できない。

そんな彼女の手足となって働くのが、俺のような転生阻止者フィルギア

現実世界と異世界の「狭間」に立って、両方に手が届く存在。


まさか、この知識が役に立つとは思ってなかった。


(じゃあ、オミネ・チカコが見ているものと、その『怪我』は関係ないってことか。霊体が階段から突き落としたとか、話しかけてきてビックリしたとか、そういうのではなく)

「普通はね」


なんだよブリュンヒルデ。含みのある言い方すんなよ。


「何よ清実ちゃん。自分だってよくやってるでしょ」


……他の転生阻止者フィルギアが、姿を隠してその子を狙ってた?


(おい待て。他の転生阻止者フィルギアがチカコを守ろうとしたってのか? クエストのバッティングなんてあるのか!?)

「……起きてないね。今確認したけど」


すごい。便利だな、ヴァルキリーパワー。

一瞬でデータベースも検索完了かよ。


とはいえ、転生阻止者フィルギア犯人説もハズレか。

じゃあ一体、何が彼女の周りで事件を起こしてるんだ……?


「……夜見寺さん? どうしたの?」

「え、あ、ごめん、ちょっとボーッとしてて。その、怪我した子って、もう全然学校来てないの?」

「なんかね、保健室登校してるみたいだよ。本人はオミネさんの顔を見るのも嫌で、なんなら学校辞めたがってるらしいけど……先生も親も反対らしくて」


エリート校の闇ってやつか?

成績の良い生徒は辞めさせたくない。

生徒同士のいざこざが醜聞になるのも避けたい。

……とかね。怖い怖い。


(逆恨みで誰かに刺される……って可能性もあるか)

「チカコちゃんを恨んでる子の方が、普通にいそう。転生阻止者フィルギアとか召喚者サマナーなんて、そんなポンポンいないからね」


分かるけど、女神自身が異世界とか魔法を否定するなよ……なんか切ない。


と、後藤さんは不意に表情を切り替えて、


「ね、ところでさ。夜見寺さんって、アメリカで彼氏とかいたの?」


吹いた。

ブリュンヒルデが、盛大に。


「えっ……と、いや、特には」

「えーそうなの? 夜見寺さんメッチャ可愛いし、おっぱい大きいし、彼氏とか普通にいそうなのにー」


俺も危うく吹き出すところだったけど、ギリギリで堪えた。

女子高生になるのも楽じゃないな……こういう話題、どうやって切り抜けるのが正解なんだろ。


「あ、それとも女の子が好きなの?」


また吹いた。

ブリュンヒルデが。


「あ、え、ええ?」

「あ、ごめんね、ビックリした? うち、小学校からハナジョだからさー。そういう子も普通にいたんだよね」


あーなるほど。そういうものですか。


まあ俺は女の子が好きなんですけど、今それ言うと違う意味に取られそうな……

いや、別にそれはそれでいいのか? ん?


「えっと。後藤さんは? 彼氏とか、彼女とか、いるの?」

「えー、うちー? 今は特にいないんだけどねー」


とかなんとか、話をそらしながら。


(保健室登校の女、か。会えば何か分かるかな?)


俺はこっそりと、そんな事を考えていた。


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