48:秘密の園の霊感少女
俺が異世界に転生したい理由は色々ある。
その中でも上位にあるのは、学校に行かなくてもいい、ってことだ。
だって退屈だろ?
つまんないルール、つまんない授業、煩わしい人間関係。
部活とか趣味とか勉強とか、なんかやりがいを見つけられたヤツはいいさ。
でも俺は違った。
何一つ誇れることなんてなかったし、寝食を忘れて熱中できることもなかった。
ただ、なんとなくボーッと過ごしてた。
いつか面白いことがやってくるんじゃないか、なんて期待して。
(だから、もう一度学校に通うことになるなんて、これっぽっちも思ってなかった)
まあ、それを言えば、まさか自分に異世界転生のチャンスが巡ってくるなんて思ってなかったし。
更に言えば、順番待ちでお預け喰らって現実世界に引き戻された上、雷魔法を駆使して他人の転生を阻止する事になるなんて、全然予想してなかったんだけど。
ともあれ俺こと、海良寺清実は――違う。
しばらくは、『わたし』で通さないといけないんだった。
『わたし』は黒板に名前を書き終えると、教室に居並ぶ女子生徒達を振り返った。
「ごきげんよう、はじめまして。わたしは、夜見寺来香と言います。今日から、この木之花女子高等学院に通うことになりました。どうぞよろしくおねがいします」
できるだけ優雅にスカートの裾をつまみ上げ――教室の隅でゲラゲラ笑っている戦乙女のブリュンヒルデを無視しながら、一礼する。
隣に立っていた朝倉先生は満足げに頷くと、高そうなメガネを押し上げる。
「夜見寺さんは、以前いたアメリカのハイスクールでは、大変優秀な成績を修めていらした才媛でいらっしゃいます。皆さん、ぜひ新しいお友達としてお迎えして、これまで以上に切磋琢磨に励んでくださいね」
オイオイ、いきなりハードル上げてくるなあ。
流石、エリート女子校。ウソの経歴がバレないようにしないと。
「それでは、夜見寺さん。あちらの空いている席へお座りなさい」
朝倉先生が示したのは、窓際の後ろ側にある一等席(居眠りしやすそう、って意味で)。
わたし――ああもうめんどくさい、俺は頷いて、席に着く。
そして、隣の席に座っていた女の子に、笑いかける。
「お隣だね。よろしく」
彼女は、なんていうか――独特な雰囲気のある子だった。
長く真っ直ぐな髪は、夜をそのまま写し取ったような黒。
そして眼差しは、人の心まで見透かせそうなほどの静けさで。
「あなた……白馬に乗った女騎士の亡霊に取り憑かれてるわね」
などと、とんでもないことを言い出した。
「……はい?」
彼女こそ、今回の転生候補者オミネ・チカコ。
私立木之花女子高等学院、二年C組に所属する女子高生。
眉目秀麗、文武両道で名を馳せる優等生であり。
「今ならイイお札があるんだけど……どうかしら?」
またの名を、「千里眼のオミネ」である。