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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第3章 連続殺人犯の転生を阻止せよ!
46/70

45:カリスマ動画配信者、降臨

四方津グランドホテル最上階、ロイヤルスイートルーム。

そこは最早、ロイヤルのロの字も無いような、酷い有様だった。


「お、お、おおおおお、お前ッ! ど、どうや、どうやって、ここにッ!?」


そこら中に穿たれた弾痕、ばら撒かれた薬莢、飛び散った鮮血、こびりついた肉片、などなど……

豪華だったはずのインテリアは、とっくに殺人現場のそれに変わっていた。

ここがホテルを舞台にしたお化け屋敷だったら、星五つの最高評価をつけてやりたい。


「……見て分からないか? これは全部、お前の同僚達の血だ」


足を踏み入れると、びっちゃびっちゃと、耳を覆いたくなるような音を立てる大理石張りの向こう。


「さあ。代償を支払ってもらうぞ。槍度島武志」


ぶち破られたドアの奥に、二人の男がいた。


「お前はオレから、大事な人を奪った。奪ったものの分だけ、苦しめ」


一人は、血と硝煙にまみれた悪鬼羅刹。


「ひ、ひぃぃぃぃっ、い、いや、嫌だっ、いやだぁあああぁぁああぁあああぁぁっ」


もう一人は、涙と鼻水にまみれた犠牲者。


そして俺は、招かれざる第三の男だった。


「おっ! おおおっ! 盛り上がってますねえ!」

「――ッ!?」


穴を開けた紙袋をかぶり、自撮り棒にくくりつけた大量のスマホを振りかざす俺。

スマホのレンズには、最上階の全てが映り込んでいた。


「はいどーも皆さん、こんにちわ! 地獄の底からやってきた! HELLちゃんねるです! 僕の名前は紙袋マン、よろしくね!」


なぎ倒された警官達も、荒れ切ったインテリアも。

血みどろの復讐鬼も、全裸のまま椅子にくくりつけられた哀れな刑事も。

(部屋の隅で失神してるデリバリーサービスのお姉さん四人は映らないようにしておいた。無関係だし)


「オマエ――一体、何をしてる」

「何って正義の動画配信者ですよ! 世間を賑わす連続殺人犯の正体を追え! ってね。いやー、ついに犯行現場を捉えちゃいましたねえ。どうですか調子は? え? あとはこの全裸おじさんを拷問して殺すだけですか!?」


エザワが何か話すよりも、槍度島が喚くほうが早かった。


「お、おおい、アンタ! 配信者だかなんだか知らないがッ、た、た、助けてッ! こ、ころ、ころころ、殺され、殺されるぅ!」

「ああ、かわいそうに、怯えきっちゃってまあ。え、あなた、被害者さん。え? お名前は?」


にじりよるレンズに向かって、槍度島が唾を飛ばす。


「や、槍度島だっ、槍度島武志!」

「ご職業は?」

「刑事ッ、警察官だ、正義の味方だぞ!」

「えー、正確には、四方津市警の生活安全課にお勤めの槍度島武志警部補、と。一体どうしてこんなことに?」

「し、知るか、俺が何したっていうんだっ」

「え? 何もしてない? 心当たりは一切ないのに、こんなことになってしまったと?」

「ああああ、そうだっ、そうだよ! 俺は、ただの、しがない刑事だ!」


俺は一度、レンズを自分に向けて、


「なるほどぉ、被害者側の主張はこのようになっていますが、どうですか、エザワさん?」


今度はエザワ・シンゴにレンズを向けるが。


「オマエから殺すぞ」


危うく自撮り棒をへし折られそうになった。

バカ、やめろって。

くくりつけてあるのは、お前が撃った警官達からお借りしたスマホだからな。壊すなよ。


俺はくるりと転身して、槍度島へと近づく。


「と、このようにエザワさんはかなりキレてらっしゃいます。もう一度聞きますよ、槍度島警部補? エザワさんは『大事な人を奪った』と主張していますね。本当に心当たり、ありませんか?」

「な、な、ななな、ない」

「本当にぃ~?」


さて、これは褒めるべきか、怒るべきか。

ここに至っても真実を語らないのは、クズ警官仲間をかばっているのか、それとも本気で憶えていないのか?


「なるほど、そういうことでしたら、やっていただきましょう! エザワさん、まずは死なない程度に一発、お願いします!」


俺のキュー振りを待っていた、とは思わないけど。

エザワは、警官から奪った拳銃の銃爪を弾いた。


「――――」


槍度島の足の指が、一つ吹っ飛ぶ。耳をつんざく悲鳴。


「さ、どうですか槍度島警部補! 思い出されましたか?」

「お、お、おおお、お前ら! イカれてんのか!? な、なんで! ごんな、ああ畜生、いでえ、いでえよぉぉぉぉ」


人の泣き声というのは大体どれも不快なものだけど、おっさんのそれは格別だった。

振りまかれる涙と鼻水がかからないように、俺は一歩退く。


「ホラ、槍度島警部補! 思い出したでしょ!?」

「いでえ、いでえ、いでええよおお」

「……仕方ないな。じゃあこれ、ヒントです」


俺は懐から、何枚もの写真を取り出した。

シゲの兄貴から提供してもらった、「いざという時のため」の奥の手。


(槍度島が繰り広げた、乱痴気騒ぎの一部始終)


もちろん十八禁! しかも綺麗に槍度島だけを特定できるようなアングル。

ヤクザ怖いなー、マジで。こんなん出されたら、泣き寝入りしか無いじゃん。

てか、今更だけどコラだったりしないよな?


まあとにかく、それをヒラヒラさせながら。


「ほら、思い出しました? あなたが今までやってきたこと」

「いだ、あ、こ、これ、こんな、なんで、オイ、知らねえよ、こんなのウソだ、捏造だ、俺はこんなことやってない」


痛みに震える槍度島の目の焦点が、わずかに戻る。


今度はエザワのブーツが、槍度島のみぞおちにめり込んだ。

肋骨が折れる鈍い音。


「ご、あ、う、嘘です、ごべんなざい、嘘づきまじだ……ぜんぶ、わたしが、やりまじだぁ」

「おっと、あっさり認めましたねえ」


顔をグジュグジュにしながら、槍度島は罪を告白し始める。

初めはほんの軽い気持ちだった、気付いたら引き返せなかった、今は反省している……


だが。


「いや、ホラ、教えてくださいよ。なんでエザワ・シンゴが怒ってるんです? あなたは誰を殺したんですか? 憶えてるでしょ? あなたが全部やったんだから」


俺は続けた。


それでも、槍度島は答えなかった。

いや、答えられなかったんだろう。

ただ、そうすれば助かるんじゃないかと信じて、余罪を吐き出し続けるだけ。


(そうか。憶えてないんだ。コイツ)


もしかしたら、あのヤクザも。社長も。チンピラも。大学生達も。

どいつも、こいつも。

エザワ・シンゴの彼女のことなんて。


今、この瞬間。

俺は多分、エザワの怒りを理解できたのかもしれない。


「そろそろ警察が来るよ、清実ちゃん」


――ブリュンヒルデの声が、俺を現実に引き戻した。


「さっき清実ちゃんが壊したエレベーターは諦めて、非常階段使ってる。あとヘリも出動したって。一番早い奴らが、あと五分ぐらいで到着予定」


俺は手元のスマホで、HELLちゃんねるの視聴者数を確認した。

六桁に到達してから、まだ数字は増えている。


さすが現役の指名手配犯。ちょっとSNSで呟いたらこれだ。

素晴らしいキラーコンテンツだぜ。


(槍度島は罪を告白した。もう、死んだも同然だ)


そろそろ頃合いだろう。


「おおっと、盛り上がってきたところですが、どうやらお時間のようです! 連続殺人犯の正体を追え! お楽しみいただけましたか? 証拠写真がよく見えなかった方、リンク貼ってあるんで、ぜひ拡散してくださいねー」


言いながら、俺はエザワが構えた銃口を手で塞いだ。

槍度島の眉間を狙う銃口を。


「……この辺で、終わりにしよう。エザワ・シンゴ」


ヤツはまたしても、銃爪を弾いた。


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