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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第3章 連続殺人犯の転生を阻止せよ!
45/70

44:ここでようやくふりだしに戻る

 という訳で、俺はエザワ・シンゴにホールドアップされたってわけ。


 え、 ホールにいた刑事達はどうなったかって?

 半分は散弾銃で腕をふっとばされた激痛で気絶して、残りの半分は電撃喰らって失神したよ。


 さて、もう話を進めていい? 27話は読み返し終わった? 

 ああ、大丈夫。終わるまで待ってるから。


 …………


 うん。という訳で、最上階のロイヤルスイートに向かうエザワを見送った俺は『霧子くん』と三回目のバトルを始めたんだ。


「クソ! ていうかお前、なんで俺を狙うんだよ! 召喚者サマナーは、転生候補者を殺すのが仕事だろ!」


 その辺に落ちていた拳銃を拾って、アンダースローで『霧子くん』に投げつける。

 獅子面の盾が、それをあっさりと弾いた。


「キミが邪魔しなきゃ! 彼はこのまま転生するんだッ」


 クソ、ウルザブルンが示したタイムリミットのことまで知ってるのか。

 マジで『ユミル様』もウルザブルンを覗いてるのか?


「おっかしいなー、ヴァルハラの外部からは干渉できないはずなんだけど」

(どうせ、どこかにセキュリティホールでもあるんだろ)


 お役所仕事なんてそんなもんだろ。偏見だけど。


 突っ込んできた『霧子くん』の刃をかわしながら、掌底で反撃。

 それも盾で受け止められる。

 固くて痛い! 俺の手が痛いってことは、本当に魔法の盾なんだな。


「とにかく、霧子くんの言う通りだよ。このままだと、エザワくんの転生は止められない」

「ああ分かってるよ、畜生」


 時間が迫っている。

 でも、クソ! 俺のチートは雷魔法と物理無効だけだ。


 同じ魔法で攻められたら、どうやって勝てばいい?


「清実ちゃん、大丈夫だよ。全然勝てるよ」

(マジか、ブリュンヒルデ! どうすればいい?)

「あたし、知ってるから。君の武器は、魔法だけじゃないでしょ」


 ……畜生。

 ホント、こういう時だけ女神っぽいこと言うの、やめろよな。


(もう、やるしかないか)


 実のところ、策はある。

 さっきの実験・・で思いついたんだ。


 ただ、上手く行くか、分からない。


 これまでの小細工と違うのは、ミスったら今度こそアウトってことだ。

 万が一、魔法のナイフで喉を切り裂かれれば、仮の肉体(ウイルド)は滅び、中に込められた俺の魂は二度と甦れない。


 完全な死。

 異世界転生なんて、夢のまた夢。


「大丈夫。出来るよ」


 ああ、そうだろうな。

 何しろ、俺には戦女神の加護があるんだ!


 とはいえ、『霧子くん』の刃から逃げ回りつつ、魔法に集中するのは結構な曲芸だった。

 イメージ的に言うと、高速道路を横断しながら音ゲーの最高難易度ノーミスを目指す感じ。


 そんなの出来る訳ないって?

 ホントだよな。我ながら驚きだよ。


「――これで最後だッ」


『霧子くん』の必殺コンボは、本当に格ゲーみたいなムーブだった。

 牽制のシールドバッシュから、胸を狙った一突き、回し蹴り、からの飛び後ろ回し蹴り、ダメ押しに頸動脈への一閃。


 全ての技があまりにも正確で、容赦なく俺の急所を狙っていた。

 人間とは思えないほどの速さと正確さ。


(でも)


 その全てが俺には見えていた。

 中級魔法、疾風迅雷ライトニングスピードは脳も視神経も加速させる。


 そして見えているなら、防ぎようもあるし、覆しようだってある。

 俺自身が折れない限りは。


 俺は、首筋を掠めた刃を無造作に掴み取った。


「清実ちゃんッ!?」

「――いいよ、訂正してやるさ、『霧子くん』。お前は卑怯者じゃない」


 俺はニヤリと笑いながら、紡ぎあげた魔法を解き放つ。


「ただの間抜けだ」


 ふっ――と。


 音もなく、『霧子くん』の背後に光の球が浮かび上がった。

 バチバチと不穏な音を立てて放電する浮遊体――上級魔法、浮遊球電ボールライトニング

 遠隔操作で超高圧電流をぶつける、必殺の攻撃魔法!


「どっちが間抜けだ――ボクに魔法は通用しないッ」


『霧子くん』が左手に構えた盾が、素早く背後をカバーする。

 高速で飛来する高エネルギー体さえ、獅子の牙を前に敢えなく消え去る――

 だが。


「ホントかよ?」


 俺が放った浮遊球電ボールライトニングは一つではなく、そして一方向からでもない!


「なんの、これしき――ッ」


 俺の集中力と魔力の全てを注ぎ込んだ、必殺の多重発動マルチプル・キャストは、さながら雷電で出来た津波のようだった。


 しかし。

 わずかにタイミングを、そして角度をズラした絶え間ない連続攻撃ですら、獅子面の盾は全てを喰らい尽くしていく。


(盾は、な)


 予想通りの結果だった。


 確かにあの盾には、俺の奥の手すら完璧に防ぐ力がある。

 何故なら、「魔法を打ち消す力」と「自動的に防御する力」があるから。


(だから、俺の連鎖電撃チェインスパークだけじゃなくて、至近距離からの散弾銃も、頭上から降ってくるガラスの破片も防げたんだ)


 でも、それを構えている『霧子くん』は違う。

 背後からの波状攻撃を押さえるために、左半身の自由を奪われてる。


(そして、右手の「自動的に急所を狙うナイフ」に右手を引っ張られてるせいで、身動きが取れない)


 俺は掴んだナイフを引き寄せながら、『霧子くん』に向かって踏み込む!


「このっ、小細工ばかり――ッ」

「なんとでも言ってくれ」


 残された僅かな魔力を、指先に集中させて。

 放ったのは、デコピン。


「あだだだだだだだだだだッ」


 ただし、雷電障壁サンダーシールドを纏わせた、一撃必倒の中指だ。

 頭蓋を通して脳を直撃した電流が、『霧子くん』にもスリラーを踊らせる。


 放り出されたナイフと盾が、ガランガランと音を立てる。

 そいつらを蹴り飛ばしたら、試合終了。


「……気は済んだか、『霧子くん』」

「ぐぐぐぐ……くうう、く、くやひい」


 感電の余波か、『霧子くん』の呂律が怪しい。

 言いたいことは、十分伝わるけど。


「もう邪魔するなよ。じゃあな」

「ま、まふぇ!」


 無視して、上層階に続くエレベーターを呼び出す。


「ヒミは、どうしへ、エジャワ・ヒンゴを助けようとするんにゃ!? ひゃれは、この世界れは、生きていへない、規格外のひとだ!」


 俺は、切り替わっていくエレベーターの階層表示を眺めながら。


「それが俺の仕事だから。報酬を貰うためだよ」

「報酬のためにゃら、人殺しの猛獣を、この世界にときはなっへもいいのか!?」


 ああもう、ホントにめんどくさいな。


「うるせえ。正義がどうとか語りたいなら、まず勝ってからにしろっつの」

「にゃん、だと……っ」


 バッサリと切り捨て、やってきたエレベーターに乗り込む。

 そこでようやく、俺は尻餅をついた。


「マ、多重発動マルチプル・キャスト、マジでしんどい、な……」


 魔力を使い果たしたせいなのか、全身を包む恐ろしいほどの倦怠感に辟易する。

 果たして、こんな状態でエザワ・シンゴを『死の運命』から救えるのか?


「よく頑張ったね、清実ちゃん。あと少しだよ」


 ブリュンヒルデの言う通り。

 悩むほどの時間はなく、エレベーターはついに四方津グランドホテルの最上階に到着した。


 ロイヤルスイートルーム。

 悪徳外道のクソ警官、槍度島警部補が待つ場所。


「今回のクエストは、これから、ここで、終わるから」

「……ああ。そうだな」


 そして、エザワ・シンゴの運命がたどり着く、最後の場所。


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