3:それはとても簡単なクエスト
「きゃあッ」
意外なほどかわいらしい悲鳴をあげて、ギャルはあっさりと転んだ。
赤信号の交差点へ飛び出す前に。
轟音をあげて走り去るダンプカー。
轢き潰されたのは、ギャルが手放したスマホだけだった。
「――ぐげあ」
そして勢い余った俺は、信号待ちの車に頭から突っ込んだ。
ドアがひしゃげ、ガラスが砕ける。全身を貫く強烈な衝撃。
「――痛ぇっ、クソっ!」
思わず罵声を飛ばした所で、車のドライバーと目が合う。
スーツを着た若い男。
スマホ片手に、キョトンとした顔でこちらを見ている。
果たして彼は何を思っただろう。
そして、周りの人々は何を思っただろう。
「あ……あはは」
いきなり男子高校生に突き飛ばされたギャル。
ギャルの鼻先を通り過ぎたダンプカー。
そして、突き飛ばした勢いで、車に突っ込んだ男子高校生。ていうか俺。
「はははは……」
グシャグシャになった車のドアと窓ガラス。
「……逃げるか」
俺は慌てて首を引き抜くと、周囲の視線を感じる前にその場から走り去った。
例のチート能力? を使うか迷ったが、とりあえずやめておいた。
あまり目立っても困る。追いかけられたりしたら面倒だし。
今考えると、割れたガラスで首の血管が切れなくてよかった。
いきなりまた死ぬところだった。
どれだけ走ったのか分からないけど、とりあえず人目がなさそうなビルの谷間に滑り込んで、一息つく。
「いやー、お見事! クエストクリアだね、清実ちゃん! さすが期待のルーキーだわー」
どこに隠れていたのか、そしてどこから現れたのか。
ブリュンヒルデは呑気に拍手などしている。
俺はとりあえず呼吸が落ち着くのを待って、彼女の手を掴んだ。
「おい、お前」
「ブリュンヒルデ。お姉様ってつけてくれてもいいよ?」
全体重をかけて、ブリュンヒルデをペガサスから引きずり落とす。
「ふぎゃああああああっ!?」
彼女は思ったよりも無様に、顔面からアスファルトに着地した。
「クエストってなんだ? 俺は何のチートを手に入れたんだ? 説明しろ、一から。でないと、いくら美人でも車道に投げ込むぞ」
「あ痛たたた……ちょ、ちょっと待って、説明って」
ブリュンヒルデはじたばたと起き上がりながら、
「何も聞いてないの? フレイアさんから」
「詳しい話は担当からって」
ブリュンヒルデの顔が強張った。頬をひくひくとさせながら、呻くように。
「あの無駄乳女神、またおっぱいだけでオトコ引っ掛けやがったな……!」
失礼な。俺は色香に惑わされてなどいない。断じて。
そういえばブリュンヒルデはおっぱい無いな。鎧で隠れてるのかな?
…とか思ってない。断じて。
「えーとね。どこから話せばいいかな」
「最初から。全部説明してくれ」
ブリュンヒルデは乱れた銀髪を整えながら、改まった表情を作る。
「つまりね? 異世界はもう満員なのよ」