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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第3章 連続殺人犯の転生を阻止せよ!
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37:勇者(候補)の休息

「これは……の、脳震盪ですね、多分」

「多分て。ちょっと、オイ、大丈夫なのかよ」

「そんなこと言ったって、わたし、あの、普通の女子なんで!」


いかにも頼りない手付きで、彼女――芹澤由美は、ベッドに横たわる二人に両手をかざした。


「治ってください! 治癒ヒール!」


芹澤の手から生まれた柔らかな光が、エザワ・シンゴと槇田センセーの身体を包んでゆく。


「……これで、そのうち目を醒ますはずです。きっと」

「だから。しっかりしてくれよ、回復魔法使い(ヒーラー)さん」

「わかんないですよ、魔法が使えるからって、理屈まで理解できるわけじゃないんですから!」


涙目で訴える彼女、芹澤由美ちゃんはメゾン・ヴァルハラに住む転生阻止者フィルギアの一人。

歳は俺よりひとつ下の十六歳、高校一年生。

図書館と分厚い新書本が友達の、いわゆる文学少女。長い三つ編みもそれっぽい。


なんでも、「チートがあっても、わたしみたいなドンくさい人間がお役に立てると思えないんです!」という理由で、自分から転生を拒否したらしい。


転生者エインヘリヤルを管理する女神フレイアは、対応に困った挙げ句、まずは転生阻止者フィルギアのポストを用意して一旦保留にしたんだそうだ。


(真面目っていうか、融通が利かないっていうか……いい人なんだけど)


え、回復魔法とかあるの? だったら『死の運命』なんか簡単に回避できるじゃん!

って思うだろ?


ブリュンヒルデ曰く、「この世界ではほとんど役に立たない」んだって。

曰く、効果が出るのに時間がかかる、外傷にしか使えない、出血は補えない、神経が切れたら接着できない、術者の知識が足りないと”誤回復”する、とかなんとか……


あーめんどくさい。

さっさと異世界に転生したいな、俺も。


「とにかく、ありがとう。助かったよ」

「いえ、あの……清実さんのお役に立てて、良かったです」


顔を背けながら、ボソリと一言。

多分、俺、嫌われてるんだろうな。まあ仕方ない。


「さ、じゃあ清実ちゃん、とりあえずふん縛っておこっか、二人とも」


ブリュンヒルデは、満面の笑みで鎖(どこから持ってきた?)を差し出してくる。


「だからなんなの、その世紀末な発想は……」

「だって、もうここまで連れてきちゃったんだし、いっそ期日まで監禁した方が安全じゃない?」


おいおいおい、コイツ、澄んだ眼で何言ってんの?

ゾッとするわ。戦乙女ヴァルキリーマジ怖い。


「あのな。そんなことしたって、問題の先延ばしにしかならないだろ。このナチュラルボーンターミネーターは、『死の運命』を回避したところで、このままじゃ必ず例の警官――槍度島武志を殺しに行くぞ」

「それはもう、仕方ないよ。あたし達のクエストは『エザワ・シンゴを死の運命から救うこと』で、『自滅願望を矯正すること』じゃないんだからさ」


出た。ヴァルハラお得意の理屈だ。

要するにブリュンヒルデ達は「異世界転生者エインヘリヤルを減らしたい」だけで、「転生候補者を死から救いたい」訳じゃない。


(この二つは似てるけど、違う考えだ)


異世界転生は、ウルザブルンという予知システム――というか実際には『運命が湧き出る泉』らしいけど――が告げた「運命の死」によって起こる。


逆に言えば、ウルザブルンが示してない「普通の死」では、転生は起きない。

極端なことを言えば、俺達が助けた転生候補者が、その後いつか老衰で死んだとしても、ソイツはもう転生できないってわけだ。


ヴァルハラ的には、「運命の死」さえ回避できればいい。

「普通の死」は、ヘルヘイムとかいう別部門の担当なんだそうだ。


「……前にも言ったよな、ブリュンヒルデ。俺は気分良く(・・・・)転生したいんだ。こんな自爆特攻野郎だって、見捨てるのは良い気分じゃない」

「言いたいことは分かるよ。でも、お得意の説得(・・)じゃ、シンゴくんの意志は変えられないんじゃない?」


ああ、確かに。


「それはどうしようもないな。エザワの望みが復讐なら、そうするしかない」


本人に会って、はっきりと分かった。


エザワ・シンゴは死ぬほど本気だ。

槍度島を殺すために、文字通り命をかけてる。

その決意と覚悟は誰にも止められない。


「……すいません、割り込みますけど。清実さん、それって、あの、どういう意味です?」


律儀に挙手して、由美ちゃん。

どうもこうもない。言ったとおりの意味だ。


復讐がしたいなら、そうするしかない。どうしても転生したい俺と同じだ。


「二人が目を覚ましたら、優香さんに頼んでご飯作ってもらって。その後は多分、勝手にいなくなるだろ、二人とも。俺はちょっと出かけてくる」

「え、じゃあ、その間は二人を縛っとく?」

「やめろ。これ以上エザワを怒らせるなって」


ブリュンヒルデがしゅんとした顔をする。

頼むから、事態を複雑にするんじゃない。俺達が悪の組織だと思われたらどうするんだ。


「ん? ていうか、どこいくのさ? まさか、またなんかやらかすつもり?」

「邪魔しないって誓うなら教えてもいい」

「ちょっとちょっとちょっと! 清実ちゃん、え、今度は何? 街のど真ん中で事故車のキャンプファイヤーしただけじゃ、まだ足りない? 次は何燃やす? 家? ビル?」


やめろ、話を盛るな。

そんなことやってないし、やるつもりもない。


「き、清実さん……いくらなんでもそれは、流石に」


ほら見ろ、由美ちゃん本気にしちゃったじゃん。ブリュンヒルデのバカ。


俺は溜息を吐いて、


「頼むから余計なことしないで、大人しくしてろよ。ブリュンヒルデ」

「だから、あたしがおかしいみたいな言い方、やめてよね! 絶対清実ちゃんの方が邪悪だから!」


人を縛る鎖を振り回しながら、言う台詞かよ。


俺は部屋の外に出ると、さりげなく作っておいたシゲの兄貴――幹部を惨殺された鷹月会の構成員で、俺をハイエースで拉致ってくれたおっさんのクローンスマホを取り出した。


(……そろそろ話もできるかな?)


位置情報を確認する。四方津市立病院。

メゾン・ヴァルハラからだと歩いて十分ぐらいか。


てくてくと向かった俺は、とびっきりの笑顔で病室のドアを叩いた。


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