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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第3章 連続殺人犯の転生を阻止せよ!
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36:エスケープ・フロム・ヤクザ

ずどんっ!


夕暮れの団地に、銃声が響いた。

(あれ、これ前回と同じ入りじゃね?)


「くうっ――」


驚くべきことに、霧子くんは空中でトンボを切り、見事に着地してみせた。

彼女の身体を守った魔法の盾からは、白煙が立ち上っている。


(なんだコイツ、反射神経オバケかよ)


まさか、あの一瞬で盾を使って、散弾を弾いた、だと?

そんな真似、俺なら疾風迅雷ライトニングスピードを使っても、出来るかどうか。


「急ぐんだ、君! 逃げるんだろう!?」


部屋から飛び出してきたのは槇田センセー。

彼女をかばいながら前に出てきたエザワの手には、硝煙をまとったショットガンがある。


保護対象者にカバーされるなんて、不覚を取ったな。

俺はナイフの刃がかすった喉に手を当てた。ぬるりとした感触。


「死ね、消えろ」


相変わらず容赦のないエザワは、霧子くんに向けて何度も銃爪を弾いた。

一発、二発、三発――


「クソ! 飛び道具なんて! 卑怯だぞ!」


対する霧子くんも、大概バケモノじみていた。

飛散する散弾を全て盾で受け止めながら、バックステップで後退していく。


(いや、おかしいだろ! 前回はここまでキレッキレじゃなかったぞ!?)


てか何なの、お前ら。

戦闘能力高すぎだろ。俺のチートが存在意義を見失うだろうが。

もう二人で延々殺し合ってろよ! バーカバーカ!


「てかお前こそ刃物だの盾だの持ち出してんじゃねーよ、きたねーな!」


叫びながら、俺はダメ押しで鉄パイプを投げつけた。

またしても盾で受け止める霧子くん。


「な! これはキミの魔法に対抗する為のアイテムだぞ! これでようやく公平だろ!」


だが、それだけで十分だった。

霧子くんが後退したおかげで、階段までの通路は開かれた!


「オトコなら素手で勝負しろ! バーカ!」

「なっえっ、オイ! ボクはオトコじゃないし! ていうかキミこそ鉄パイプ使ってるじゃ――待て逃げるなっ! ずるいぞ!」


エザワが放つ弾幕に身を隠して、俺とセンセーは階段へ。

もう階下からは増援の足音が響きはじめている。


「早くしろ、上だエザワ! お前、ヤクザ百万人撃ち殺すつもりか!?」

「……チッ」


渋々ついてきたエザワを、屋上の扉に引っ張り込んで、すぐに鍵をかける。

ついでに、放ったらかしてあったプランターやらテーブルやらでバリケードを作り。


「で、ここからどうするの、君!?」


槇田センセーの問いに答える暇もなく、俺は周囲を見渡した。

上空から見下ろしたときの印象は間違ってなかった。これならいけるはず。


と、バサバサと羽ばたきながら降下してくるペガサスとブリュンヒルデが見えた。


「清実ちゃーん! 首尾はどうー!? バッチリ!?」

(まだエザワが死んでない、ってだけでも褒めてくれ!)


「おぉ~」とパチパチ拍手するブリュンヒルデ。

あいつが来ると、なんか緊張感が無くなる……


とにかく俺は屋上の端まで駆け寄って、一番近くにぶら下がっていた送電線を確かめた。

ティールのルーンの効果なのか、少し意識を集中させれば、絶縁体の内部で迸っている高圧電流が目に見えてくる。


その中に手を突っ込むようなイメージで、俺は感覚を研ぎ澄ませた。


(頼むぞ……)


屋上の手すりを乗り越えて、電線に飛び移る。


「ちょっと、君っ!!」


センセーが悲鳴を上げる。

まあそりゃそうだ。感電か投身か、どっちにしろ自殺にしか見えないだろう。


だが俺の両足は、電線の上にピタリと吸い付いて安定した。


「……うん、よし!」


びよんびよんと揺れる電線の上で、俺は拳を握る。


「えっ、なに、それ……どうなってるんだい?」


ぽかんとした顔で、センセー。


一言で言えば、これも魔法なんだけど。

名付けて電磁吸着エレクトロマグネット、ってそのまんまか……まあいいや。

学校で習っただろ? 鉄とコイルと電気で作る電磁石。アレの応用だ。

俺の足裏に作り出した磁場と、電線が纏う微弱な磁場を組み合わせて、足元を安定させる。


「二人共、こっちだ、早く! 俺が受け止める!」


センセーもエザワも、流石に躊躇している。


「急げ、下から撃たれたいのか!?」


先に飛んだのは、エザワだった。ショットガンを腰のベルトに挿して。

クソ、結構重いぞコイツ。


「こっちへ。先生」

「――ちゃんと受け止めてくれよっ」


決意とともに跳んだセンセーを、更にエザワが抱きとめる。

はいはい、お熱いことで。てか二人分はかなり重いんだけど。


「おい、アレじゃねーのか!」

「あそこだ、電線の上! オラ、ぶっ放せ! 撃ち落としたヤロウはボーナスだッ」


バカバカバカ! バカヤクザ!

お前ら、四方津市をアメリカや博多と勘違いしてるだろ!


「で、どうするんだ!」

「うるさいちょっと待て! 静かにしてろ!」


俺は慌てて、魔法を更に練った。

足裏で電磁石を形成している魔力と、電線を走る電流を結びつけて――その速度を借りる。


瞬間。


「――ど、わ、ああああああぁぁぁっぁぁぁぁぁあぁぁぁあああッ」


爆風、というのでは全然足りない。

これが音の壁ってヤツか……と、薄れかかる意識を必死につなぎとめる。


(息が、できない、んだけど――ッ)


例えるなら、ジェットコースターとスノボを足して七倍にしたような速度で。


俺達は、電線の上を滑っている。

全身を根こそぎ吹き飛ばしそうなほどの気流と足元で炸裂する雷電のせいで、喋るどころか呼吸もままならない。


電流の速度はできるだけ少なめに借りたつもりだったけど、それでもやりすぎだったみたいだ。


(クソ、ヤバい)


俺はいい。呼吸しなくてもなんとかなる。

でも、エザワとセンセーは危険だ。

発進の衝撃で、二人とも白目剥いてるし。


(とにかく、安全な場所へ――)


差し掛かった電柱を蹴って飛び、他の電線へ。

マンションの屋上を疾走して次の電線へ。

飛び降りる。次。滑る。次。跳ねる。次。

次、次、次――


俺は四方津市に張り巡らされた電線を、縦横無尽に滑走していった。


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