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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第3章 連続殺人犯の転生を阻止せよ!
33/70

32:ヤクザが過激に追ってくる!

槇田センセーは教えてくれた。


「彼は――エザワ・シンゴは、病院の裏口に倒れてたの。とにかく応急処置をして、それから警察に通報するつもりだったんだけど……その。テレビやネットで言われているような、凶悪犯には思えなくて」

「まあ、殺されたのがヤクザだレイプ犯だ、なんてテレビでは言ってないですしね」

「……ついでに言うと、彼が殺したヤクザは、動物虐待の常習犯だったって、知ってたかな?」


おっと。それは初耳だぞ。


「時々、下っ端がウチにもつれてきたんだよ。ボロボロになった犬を、ニヤニヤしながらね。死なない程度に痛めつけて、治療して、また虐待する、なんて。人間のやることだと思う?」


……ああ、クソ。

まさか連中、そんな調子でエザワ・シンゴの恋人も手にかけたってのか。


世の中にそういう連中がいるってことは、俺も知ってた。

聞いたことがあった。


つまり、虫や動物や女性……自分以外はモノだと思ってるようなクソ野郎ども。


収まったはずの吐き気が戻ってきた。


「正直ね。ヤツが死んだって聞いたときは、スカッとしたんだよ。私は」


正直、俺も同感だ。

つくづく勇者エインヘリヤルに向いてるな、エザワ・シンゴ。


「殺された恋人のため、って話は聞きました?」

「……あと一人だけ、それで全部終わるって」


あと一人、悪党を殺す。

そう語る人間を治療する。


槇田センセーにも葛藤があったのか。


……俺だって、殺人犯を救うことに迷いがないわけじゃない。

でも、俺の場合は目的がはっきりしてる。

自分の夢、幸せのためだ。

そのためなら、手段なんて選んでいられるかよ。


「どこに隠れてるか、心当たりありますか。何か言い残したとか」

「……腹部の切り傷が繋がるまで、野宿は避けるようにって。それ以上のことは、何も」


うげ。ホント、そんな状態でよく逃げるよな。

ハラワタがこぼれたら、俺は絶対に病院のベッドを動かないぞ。もちろん人間用の。


「――ってことは、なに? ヒントは、人がいない建物、ってだけ?」

「いや。もっと大きなヒントがくれそうだぞ、槇田センセーが」


槇田動物病院を後にした俺達は、手元のスマホに目を注いでいた。


槇田センセーのクローンスマホ。

彼女の位置を示すピンが、移動をはじめている。


「あ、これ、もしかして?」

「ああ、多分。エザワのところに行くのかもな」


警告のためとはいえ、流石にエザワへ直接メッセージを送ったりはしないと思ってたが。

まさか、自分の位置情報が追跡されているとまでは考えなかったんだろう。


「追うぞ。変なところに逃げられても困る」


ピンはどんどん移動していく。車に乗ったか?

俺達もペガサスに乗るべきか。


と、その時。


「――――っ!?」


悲鳴はあげられなかった。

いきなり顔に袋を被せられ、数人がかりで車の中へ。手早く走り出す車。


(おいおい、マジか)


これが噂のハイエースか。昔なんかのドラマで見たぞ。


「――おいバカ! これ、こいつのスマホか? この野郎、捨てろっつっただろ!」

「いやいやアニキ、こういうとこに情報があるんスよ」


なにやら喚く声。おいバカやめろ、触るんじゃない。


「インテリこいてんじゃ……あ? なんだこれ、マップか? 移動してんのか? 俺らの車か?」

「違いますよ、コレ、別のスマホの位置追ってますよ。アニキ、コレじゃないっスか、例のヤツのねぐら!!」

「オイ、テツ、叔父貴んとこ連絡しろや!」


あ、クソ、お前、やめろっつってんだろ!


「……おい、ニイちゃん」


しゃがれたオッサンの声がした途端、若手のトークがピタリと止まった。


「ええか、今からワシが質問する。正直に答えたら、アンタはすぐに車から降りられる。嘘ついたらこのイヤぁな時間が長くなる。シンプルな話じゃ。分かるな?」


分かるか。

ていうか名乗れよ、お前ら。

いや、やっぱいい。名乗らなくても分かる。


(殺されたヤクザの仲間――鷹月会の連中か。この辺に網張ってたのか? 動物病院にも?)


エザワ・シンゴを見つける為、関係者を片っ端から調べるつもりだったとか?


でも俺なんて完全に赤の他人、住所不定無職の生きる幽霊だぞ。

そんな俺まで拉致するなんて、どれだけ焦ってるんだって話だよ。


「あー。コイツら、マフィアみたいな連中でしょ? シロートに仲間殺されたんじゃ、存在意義に関わるもん。必死なんだよ、きっと」


さすがブリュンヒルデ、武闘派の考えはすぐ分かるんだな。


「メキシコのカルテルがすごかったんだよー。あ、ドラマの話ね」


……あっそ。


(しかし正直に、って言われてもな)

「ねー。むしろこっちが話聞きたいよ」


そうだな。流石ブリュンヒルデ。

考えようによっては、これはむしろチャンスだ。


「……なあオッサン。答えてもいいけど、一つ条件がある」


がん、と頬に衝撃。どうやら殴られたらしい。

残念ながら俺は、普通の攻撃はダメージにならないんだけど。


「聞かれたことに答えろ。言うたじゃろ、余計な口きくな」

「俺を殴っても手が疲れるだけだぞ」


きっかり三発。

衝撃を感じても、痛みはない。

ただ、ちょっとイラッとする。


「いいか。俺が持ってる情報を教えたら、こっちの質問にも答えてくれ」


更にもう一発が来る――


「あがっ、がァッあああああぁぁぁぁあぁっ」


オッサンではない、若いチンピラの悲鳴。俺を殴ったヤツ。

会話しながら、俺はこっそりと体表に電気のバリア――雷電障壁サンダーシールドを展開していたのだ。触れたら軽く失神する程度の出力で。


ざまあみろ、お返しだ。

……車内が小便臭くなったのが、唯一の失敗だったけど。


「オイッ、テツ、テツッ! ダメだ、白目剥いてる! コイツ、なんか仕込んでますよシゲの兄貴!」

「さっきボディチェックしたじゃろが! おどれ動くな、手ェあげい!」


なんだかんだと喚く自由業の皆さん。

狭いハイエースの中では耳が痛い。俺は溜息をついた。


「もう一回俺に触れたら、心臓止まるかもよ」


沈黙。

相手は対応を決めあぐねている。

やっぱり武力があると話が早い。誰でも痛い目に遭わされれば素直になる。


「少しは話をする気になった?」

「……おどれ、何モンじゃ」

「まずは、俺のお願いに答えろよ。情報交換するのか、しないのか。でないと死ぬまで握手・・するぞ」


す、っと手を差し出してみせる。

相手――多分リーダー格だろうシゲの兄貴がびくりとしたのが、気配で分かった。


「……ええじゃろう」

「話が早くて助かる。俺が聞いた話じゃ、エザワ・シンゴは土手っ腹に穴が開いてるが、まだ生きてる。もう一人誰か殺す気らしい。相手は誰だか分からない。でも、どこかに隠れてチャンスを伺ってる。次のターゲットが誰か分かれば、警察より先に捕まえられそうだぞ」


概ね嘘はついてない。全部話してもいないけど。

シゲの兄貴達が何か小声で話しているのが聞こえるが。


「さて、次はこっちからの質問だ。お前ら、エザワ・シンゴが次に誰を狙うか、見当がついてるんじゃないか?」

「……何のことじゃ」

「とぼけるんじゃねぇよ。殺された幹部と付き合いのあった警官がいただろ。名前を言え」


警察内では名前が伏せられ、シノブさんすら知らなかった男。

エザワ・シンゴが狙う最後のターゲット。


「早く教えろ。お前ら全員小便漏らしたいのか?」

「……口の聞き方に気ぃつけえ、ガキが」


今度は後頭部に衝撃。どうやらバットで殴られたらしい。

金属製じゃなきゃ、電流は流れにくいか。


「思ったとおりですよ、兄貴。コイツ、素手じゃなきゃ怖くないっスよ」


ははーん。道具を使うってことを学んだらしいな。

この猿どもめ。


「……えっ、ちょっと清実ちゃん、ステイステイ。ムカつくのは分かるけど、やりすぎはダメだからね? 正体がバレたりするのマズいからね? あたし前に教えたよね?」

(当たり前だ。俺は紳士だぞ)

「嘘だ! 笑い方が邪悪すぎるよ!」


俺は袋の下でにっこり笑いながら、意識を集中させた。

脳裏に浮かぶティールのルーン。


(俺には俺の、目的がある。邪魔するなら――手段は選ばないッ)


久々に使う――出力強めの雷撃サンダーボルト

迸った雷電が、自動車の制御系統を一瞬にして焼き尽くす。


「――ぎゃあああああああぁぁぁあぁぁッ」


悲鳴とともに、世界が三周半。

コントロールを失ったハイエースは、減速よりも速く中央分離帯に飛び込んで、宙を舞った。

まあ俺は顔塞がれてたんで、車内からブリュンヒルデに引きずり出してもらった後に知ったんだけど。


「あああ、だから言ったのに……どうすんのコレ。ちょっとした戦争じゃん」

「さっさと逃げるに決まってるだろ」


呆れ顔のブリュンヒルデに、言い捨てた後。

念の為、体の状態をチェックする。本当に傷一つ無い。スカジャンはズタズタなのに。

……だんだん怖くなってきた。


ともかく、潰れた車の窓から乗っていた四人を引きずり出す。

サングラスの運転手、アロハの男、ジャージの男、スーツの男。


「あ、コイツコイツ、このスーツがシゲの兄貴」

「確かに、シゲって顔してるな」


顎髭のあたりに「シゲ」を感じる。

俺は、額にガラスが刺さったままの彼の横面をはたいた。

六発目で、ようやく起きる。


「あ、う、おま――うぐ、お、痛っ」

「脚折れてるぞ。あと、大分血が出てる」


周囲には既に野次馬。遠くには救急車のサイレンも。

手早く済ませよう。


「幹部とつながってた警官の名前を言え。それ以外にも情報があれば全部吐け。残らず」

「……おどれ、この――バケモンがッ」


額のガラス片をグリグリと押し込む。シゲさん悶絶。


「そうそう、そうだよ、化け物でも外道でも好きに呼んでくれ。いいから早く言えって、こっちは急いでるんだ」


と凄んだところで、背後のハイエースがドカン。

熱波と爆音が耳を劈いた。


「……ほら、早く言わないから」


あーあ。ガソリンが漏れてたのか。

ぐしゃぐしゃの車体が激しく燃え上がる。白昼の空が赤く照らされるほどに。


「ちょ、あー、あああ……もー、清実ちゃん! もう祭りじゃん!! 大炎上じゃん!!!」

「……次からは気をつけるってば、うるさいなあ」

「え、なんであたし小姑みたいになってんの? 言っとくけど、おかしいの清実ちゃんの方だからね!?」


うるさいなあ。俺だってこれ以上、目立ちたくないよ。

いや、今現在この上なく目立ってるのは、分かってるんだけど。


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