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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第3章 連続殺人犯の転生を阻止せよ!
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27:連続殺人犯vs転生阻止者

さて。

まあそんなこんなで、ちびっこを助けてトラックに轢かれ、せっかく異世界転生できると思ったのに、


『ごめん、枠空いてなかったわ』


という身も蓋もない理由で現実世界に蘇らされた俺。

海良寺清実かいらじ きよみ、十七歳。


転生者を管理する女神フレイアから、


『異世界転生したけりゃ、他の候補者を蹴落としてきな!』


という非情なクエストを与えられた俺は、「チート能力でゆるふわハーレム田舎暮らし」という全人類の悲願を達成するため、心を鬼にして今日も転生候補者を「死の運命」から救い出すのであった!


「ちょっとちょっと。脚色やめてよ、わたし達の好感度さがるー」


おいやめろブリュンヒルデ、気軽にモノローグにコメントするな。

そういうのは世界観が壊れるからやめてほしい。


それと第四の壁を意識するのもやめろ。慎重な取り扱いが必要な案件だ。

迂闊に黒歴史を射殺してはいけない。


あー。

話を本筋に戻そう。


つまりまあ、神様の気まぐれでチート能力と過酷なクエストを授かって、現実世界に転生?した俺は。


散弾銃でホールドアップされていた。


「またオマエか……ヒーローごっこなら、よそでやれ」


そう吐き捨てたのは、銃を構えた男。

まだ二十歳のはずだけど、その顔は酷く荒んでいる。


ボサボサの頭、無精髭、醜く傷つけられた頬。

その全てが鮮血に染まっていた。


そして何より、あらゆるものを憎んでいるような、険しい目。


「……いいか、もう一度言うぞ。俺はあんたを助けに来たんだ。エザワ・シンゴ」


俺は正直に言ったが。

男――エザワ・シンゴは無言だった。怒りも笑いもしない。

ただ銃口を二センチ近づけて。


「もう一度だけ訊くぞ。何者だ、オマエは」


そりゃそうだ。信じられる訳がない。


エザワの状況は最悪だ。

これまでの犯行は計画通り。

十一人殺して、残すはあと一人というところでへまをやらかした。


そして、今はこうして高級ホテルのホールで俺とバトル。

外にはパトカーと警官がうじゃうじゃ。防音の効いたホールにも、サイレンの音が届くぐらい。


「分かった。いいよ、撃ってくれ」

「……なんだと?」

「やってみれば分かる。でも、がっかりさせたらごめん」


意外なことに、エザワはためらいを見せた。十一人も殺した連続殺人犯とは思えない。

無抵抗の人間を射殺することぐらい、朝飯前じゃないのか?


「……狂人め」


結局、エザワは銃爪を弾いた。

銃声は予想よりも大きく、屋内では反響もすごかった。


「……そんな、馬鹿な」


エザワは呻く。

自分の見たものが信じられない。


そりゃそうだ。

初めての時は、俺だって驚いた。


「――ありえない! 今のは、絶対に当たってた!」

「がっかりしただろ?」


俺は平然と立っていた。

至近距離で狩猟用の散弾が命中したのに。


俺が女神から授かったチート能力の一つ――魔法以外では決して傷つかない身体、ウイルド。

『魔法で出来た人形のようなもの』だというこの肉体は、炸裂した散弾をすべて受け止めても、傷一つつかなかない。


厳密には、存在している位相トポロジーがズレているから現世の事象から干渉を受けないのだとか何とか……以下略。


まあ、残念ながら服は普通のものなので、防刃ベストと青いシャツはズタズタだ。

つまりおっぱい丸出し。ちょっと恥ずかしい。


「一体どんな仕掛けだ!? オマエは……本当に人間か?」

「今言えるのは、あんたを助ければ俺は報酬をもらえるってこと。そういう仕事なんだ」


エザワのような転生候補者の運命を変えることで生まれる『変革力』。

それは、俺が異世界に転生する為のチケット。


(『変革力』を集めれば異世界転生できる。女神はそう言った)


だから俺は助けるのだ。

例え、相手が十一人もの人間を拷問の末に殺した極悪非道の犯罪者であっても。


「さて。じゃあ、理解したってことで、話を進めていいか? 袋のネズミになりにきたあんたの逃亡を助けて、できれば警察の手が届かないところまで連れて行きたいんだけど」

「……余計なお世話だ。何度言えば分かる」


あーあーめんどくさい。ここまで追い詰められてもまだ諦めないとか、正気か?

やっぱり魔法で気絶させて縛り上げた方が早かったか?


「――見つけた」


と、そこに女の声。


「もう絶対許さないからな――電気ビリビリマン!」


この緊張感のない台詞の主を、俺は知っている。

今、一番会いたくなかった相手。


「しつこいな、『霧子くん』。無駄に派手な登場しやがって」


窓ガラスを割って飛び込んできた女は、まるで忍者のように全身黒ずくめだった。

その姿は、以前戦った時と変わらない。


違うのは、妙にファンタジックなデザインの盾とナイフ。

このセットがヤバい。

無敵のウイルドが持つ、唯一の弱点をついてくるのだから。


つまり、魔法がかけられた武器。

不滅の身体を切り裂き、雷の魔法をガードできるのだ。


「これ以上、ボク達召喚者(サマナー)の邪魔はさせない……行くぞッ!」

「クソ――おい、いいか! ヤツは最上階のロイヤルスイートだ、エザワ! あと、死ぬなよ、マジで! 絶対に!」


エザワ・シンゴはうんともすんとも言わず、黙って走り出す。


まったく嫌になる。


(なんでこんな死にたがりを助けなきゃいけないんだ、畜生!)


「やあああぁぁぁぁぁッ」


雄叫びとともに突き出される魔法のナイフをかわしながら、俺は心の中で毒づいた。


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