21:立つ鳥跡を濁さず
いや、まさかとは思う。
(もし仮に、まさかの事態だったとしても、俺には関係のないことだ)
転生阻止者に課せられたクエストは、勇者候補の転生を防ぐこと。
それを達成した今、勇者候補の関係者がトラブルを起こそうが、ましてや死の原因を積極的に取り除こうが、全然関係ない。
(むしろ喜んでもいいぐらいだろ)
自分の手を汚さずに、異世界へのチケットをまた一枚勝ち取れるのだから。
そう、自分に言い聞かせてみた。
だが、それでも胸騒ぎは収まらなかった。
『例の予告犯の情報、手に入れました。いつやりますか? シノブ先輩』
シノブさんのスマホに届いた短いメッセージは、すぐに削除された。
多分、他の端末でのやり取りに切り替えたんだろう。
足がつかない、シノブさんの名義じゃないSIMカード。
つまりシノブさんは、かなり本気だ。
妹を脅かしたヤツを、マジで痛い目に合わせるつもりなのだ。
誰がやったのかバレたら困るような方法で。
(マジかよ……現役の警察官だろ?)
俺がなんとか穏便に済ませたのに……
いや。ユウスケくんの存在が警察に漏れたのは、ヤツが警察に駆け込んだからで。
ということは、結局の所、俺が原因なのか?
「……ああ、もう、クソ」
俺はベッドから起き上がると、クローゼットの中から一番イメージに近い服を探り当てた。
竜虎の刺繍が入ったスカジャンと穴開きジーンズ。
まあ十七歳になったばかりの俺が着るなら、スーツよりこっちのほうがそれっぽいだろう。
「手伝ってくれ、ブリュンヒルデ」
「えー? 明日でいい? あたし、これから映画見るし。ていうか、もう部屋で待ってるだけでいいんでしょ?」
「単に、クエストをクリアするだけなら、それで済むんだけどな」
あとは多少の小道具があればいいんだけど……おお、あった。
マジでラインナップ良すぎじゃない?
意外と重量感のあるそれを、ジーンズの後腰に挟み込む。
まあ隅っこに、いかにもセクシーな箱があったけど、あれは見なかったことにしよう。
多分、十八歳未満は開けちゃいけないヤツだ。
でもちょっとだけなら……えっ、まさかこれも優香さんの私物? 嘘でしょ? えっ? これは流石に……ヤバすぎだろ……
おっと失礼。みんなには刺激が強すぎるから内緒にしておく。
今は、やるべきことをやろう。
「俺は、気分良く異世界に転生したいんだ」
「……何の話?」
「いいから。ペガサス出してくれよ」
そして俺達は、またしても羽ばたく白馬で夜空に飛び出す羽目になった。