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転生者が多すぎて異世界に転生できなかった俺は、他人の転生を阻止することにした  作者: 最上碧宏
第2章 美少女JCコスプレイヤーの転生を阻止せよ!
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15:勇者候補は優等生

ウノハラ・エリカ。十四歳。

市立四方津中学校に通う中学二年生。もちろん独身。


「そうですねー、この子はー、いわゆる優等生、って感じーですー。若い頃のー、ブリュンヒルデみたーい」

「ちょっと待った、いきなり気になる情報ぶちこんでくるのやめて。若い頃? ブリュンヒルデの? 何年前の話?」

「あー、ごめんなさーい、えーとー、この子、部活はやってなくってー」

「本筋に戻るのかよ!」


俺は、やっぱり要領を得ないスクルドの説明を思い出しながら、双眼鏡を取り出した。

教室の隅で、ぼんやりとスマホをいじるウノハラさんの姿を捉える。


ウノハラさんは、成績も素行も高評価。

物静かな性格と、あまり身だしなみに気を使うタイプではないのもあって、陰キャラ認定を受けがち。

だが、学年トップの成績のおかげでそこまでカーストが低いわけでもない。


まあ友達は少ないみたいだけど。


(別に、イジメられてるって訳でもないんだよな)


それでも親しい友達も何人かいて、悪くない学校生活を送っているように見える。

じゃあなんで、他殺なんて目に遭うののか?


(イジメじゃなきゃ……誰かの恨みでも買ったか? 恋愛沙汰とか。まあ、中学生でもありえなくはないよな)


正直、双眼鏡で見てても、美少女かどうかはよく分からない。

眼鏡と長い髪で、顔はほとんど隠れてるし。


「……一体、誰があの子を殺そうなんて思うんだ?」

「むにゃむにゃ……もう食べられないよぉ~」


俺の隣で、相変わらず寝言をほざいているブリュンヒルデ。

ペガサスを飛ばしている時も、この状態だった。


俺達が立っているのは、ウノハラさんの教室が覗ける位置にあるビル。

ブリュンヒルデを二十メートル下の地面まで蹴落としたろか、と一瞬思う。


というかもう、俺の中の、女神という存在に対するリスペクトは粉々である。


「……一週間以内に転生が起こる、か」


それがスクルド達(ノルニル)がウルザブルンのレポートから導き出した結論だった。


今回はなんでタイミングが特定できないかって?

曰く、ウノハラさんのプシュケーと異世界が四次元的な螺旋軌道スパイラル・オービット並列位相状態パラレル・フェイズに入ったからだとか……この話まだ続けるか?


『今回はー、他殺が原因みたいでー。犯人もー、特定できたらー、すぐ連絡しまーす』


予知がどれだけ詳細に行えるかは、転生候補者が持つ『変革力』の大きさによるらしい。

『力』が大きければ大きいほど、予知は曖昧で不安定になっていく。

つまりは、当人が運命を変えてしまう、ということらしいが。


(俺の場合はどうだったんだろうな)


ふと、疑問に思う。

だが今は関係のない話だ。


遠く聞こえる学校のチャイム。

いつの間にか学校の授業は終わり、ウノハラさんも下校の準備を始めていた。

ウノハラさんに近づく生徒はいるが、別にもめたりはしていない。

挙動不審な奴がいるわけでもない。


一人学校を後にした彼女は、待ってましたとばかりにカバンから文庫本を取り出す。

俺達も移動しなければ。


(てか、俺は何をやってるんだ……ますます犯罪だぞ、これ)


我ながら、やっていることがストーカーである。

誰かにバレたら、なんて言い訳する?


「俺はストーカーじゃありません! これは全部、彼女を死の運命から救うためなんです!」


うんダメだ。速攻でブタ箱行きだ。

いや、逆に責任能力を問われない可能性すらある。

というか俺なんか住所不定無職どころか戸籍もないんだぞ。死んでるし。警察もお手上げだろ。


「そろそろ動くぞ、ブリュンヒルデ。ウノハラさんを追う」

「ふにゅふにゅ……いちごさん食べたいぃ」


なんなんだコイツは。


ペガサスですら、どこか呆れた調子で鼻息を漏らす。

お前も苦労してるんだな……


「悪いな、ペガサス。あの子を尾行するから、頼む」


未だにパジャマを着たままのブリュンヒルデを、馬上に担ぎ上げる。

ペガサスの方も、妙に慣れた調子で彼女を背に乗せる。


勇壮ないななき一声。

いざ、美しき翼を持つ白馬に乗って、青空へ。

現世とは異なる次元に存在するブリュンヒルデやペガサスはもちろん、彼女達に触れている俺も、地上の人々から見咎められることはない。


(ストーカーにはぴったりの異能だな……)


いや、でも別に、やましいことはしていない。

ただ、一人の少女の命を救うついでに、自分の夢ーー異世界への転生を実現しようとしているだけだ。


彼女を死の運命から救い出せば、『変革力』が手に入り、俺のスーパーハッピー異世界ライフがまた一歩近づくのだ。

これはもうウィン・ウィンの関係と言っても過言ではない。

どうでもいいけどウィンウィンってなんかエロいよね。そんなことない?


俺は自分に言い訳をしつつ、ペガサスに高度を下げさせる。

ほとんど地面すれすれの高さで、距離を保ちながら、ウノハラさんの背中を見守る。


ウノハラさんは指定カバンとリュックを背負い、文庫本に顔を埋めながら歩いていた。

全然前を見ている様子がないので、若干ヒヤヒヤする。死因が他殺じゃなきゃ、すぐに辞めてもらうところだ。


「くふ。くふふふふ……ふふ」


よほど面白いのか、忍び笑いを漏らしている。

言っちゃあれだが、ちょっと怖い。


「……どこに向かってるんだ?」

「放課後でしょ? 家じゃないの?」

「いや……スクルドが教えてくれたウノハラさんの住所は、こっちじゃない――」


と。


不意に、ウノハラさんがこちらを振り返った。


(は? なんで?)


と思う間もなく。

ばっちり、彼女と目が合った。


「……嘘だろ」

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