あしたの朝を。
秋とは、こんなに早く過ぎるものだっただろうか。
鮮やかに街を彩っていた紅葉や銀杏が、地面で乾いた音を立てる。
空気に触れる肌がひりっとする。
「もうすぐ冬になるんだね。」
「うん、」
背を伸ばして、目一杯空気を吸い込む。
「冬の空気だ。」
足の裏に、木の葉のぱりぱりっとした感触が伝わる。これも秋の名残なのかと思うと、時間の流れの速さに驚く。「……今年も、もうすぐ終わるんだよねえ。」
何だか、1年なんてあっという間で、気付いたら年の瀬も間近。
「なに、急に老けたの?」
「……違いますう。」
茶化されてしまったけれど、本当に、あと10日程で今年も終わり。
たしか、去年もこうして同じことを話した気がする。
その前も、その前の年だって。
「なんか、何時になっても、今頃ってこういう話ばっかりしてない?」「そうだっけ?」
「うん。去年も『今年も1年早かったー』って言ってたよ、私。」
「へえ、誰と?」
…………。
「えっとね、……忘れた。」
「ええっ……。」
がっかりした顔になった君。冗談で言ったつもりだったんだけどな。
「ごめん、冗談。ちゃんと覚えてるから。」
君と歩いた道も、話したことも、記憶の限り。
「ならば良しっ。」
破顔一笑って、きっとこういうことじゃないかと思うような綻んだ君の顔。
去年もきっとそうだった。こんな風に、2人で。
「ね、来年も私達ってこうしているのかな。」
「んー?」
空を見ていた横顔がふっとこちらを見る。
あ、勿体ない。
今の表情、綺麗だったのに。
「どうしたの?」
そんなことを思っていたなんて知らない君は、怪訝な顔で見つめてくる。
「あ、ごめ……ん?」
何故か目の前まで詰め寄った君の手が、私の頬を両手で挟んだ。
「え……、なに?」
「俺の隣で、他のこと考えないでよ。」
びっくりしてしまった。
普段はシャイで、こんな言葉を口に出来るような人じゃないのに。
「あ、あー……えっとぉ、」
でも、
寒さの所為だけじゃない頬の赤らみ。
落ち着きなく動く瞳。
次の言葉を探す唇。
いっぱいいっぱいのその姿を見たら、
「可愛い。」
「えっ……!?」
もうこれ以上無いって位に真っ赤になっていて。
だからだよ。
そんな男性だから、可笑しくて、放っとけなくて、
いとおしい。
「だーいじょうぶ。」
「へ?えっあっ……わっ、」
私の頬に添えられたの手はそのままに、彼の首に腕を絡めて引き寄せ、深い焦げ茶の双眸を見つめる。
「見える?」
「う、うんっ……。……っ!」
「ちゃんと、見てよ。」
見て。
私の眼に映る人を。
春の芽吹きを、
夏の暑い夕暮れを、
秋の儚い哀愁を、
冬の乾きを、
早くとも、沢山の昨日を詰め込んだ時を。
そして、
また巡る季節を、
新たな朝を、
共に見つめる。
そう約束したふたりを、
朝へ繋ぐ、
今を。
新しい年が一歩ずつ近づいてきましたね。何かが終わろうとするのはいつだって寂しさが募ります。でもそれは、また何かが始まることを教えてくれる。そんな想いを綴ってみました。お読み頂きありがとうございます。