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祝杯を君へ

晩酌を酌み交わす事もなく

作者: 民間人。

 どうか別れの言葉は聞かないでおくれ、余計に惨めになりそうだ。

 癇癪ばかりの人生だが、どれもこれも私の性だ。理解し付き合えなどとは言わない。ただ、離れていく背中を見届けるだけで良い。私の心が軋むだけで、君達にこれ以上の迷惑はかけまい。


 思えば長らく付き合ったものだ。夕陽の空に歌を歌い、夜半の雨を背景に語り合った。幻のような時間が、そこにあった。

 それなのに、今となってはただ一人、三畳の中で窮屈に酒を飲むばかりよ。ガリをつまめばじきに腹も満ちる。それなのに満たされないものは、最早取り戻すこともできまい。

 いかにも、わたしには名残惜しくもあるが、君達はただ、そのままであるが良い。だがせめて、この卑しい私の胸に残るものは、どうか古傷だけに留めておくれ、君達に捧げられるものなぞ何も用意できぬから。


 唐突な別れを嘆くことなど君はしないだろう。私が唐突に癇癪を起こして別れたのであるから、それは致し方ないことだ。

 それでも、どうか忘れさせないでおくれ。思い出させておくれ。私が確かにかつて君達の友であったのだと、あの時語らった時間は無駄ではなかったのだと、空気を震わせた音は確かに音であったのだと、信じさせておくれ。


 晩酌を酌み交わすことも無く、ただ年月が古傷を埋める。最早私が消えても、誰も悲しむまい。

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