我らがフォルトゥーナ
ヴェロニカが土の精霊ラウンと契約を果たし、戦力が強化され。
特に何も言われなかったため、僕たちは大砲を持ち出すことに決めた。
もちろん、クリムの背中に乗せて運んでもらうという形で。
来た道を戻り、途中で少し迷いながらも。
何とか、僕たちは棘山から脱出することができた。
「くはははははっ! 今から我の黒き破滅の方舟へ赴いてもらおうか。その絶望を呼ぶ銃砲を配置するためになっ!」
心なしか、ガーベラも嬉しそうである。
武器が隠されているという情報しかなく、船で使えるものなのかどうかすらも分からなかったため、武器の正体が船上で向いている大砲で安堵しているのだろう。
もしこれが船の上では使いにくい剣とかだったなら、ガーベラにとっては来た意味がなくなるだろうから。
見たところ、腰から背中まで鎖で繋がっている碇のような武器があるみたいだから、接近戦の武器はもう必要なさそうだし。
「それはいいけど……約束は覚えてるんでしょうね」
「……む、無論だ」
約束――僕たちが一緒に棘山へ行き武器を入手することができれば、代わりに僕たちのパーティに加入して船に乗せてくれる、という約束。
あくまで口約束だったため、もしかしたら守ってくれない可能性もあるのではないかと少しだけ心配ではあったものの、どうやら杞憂だったらしい。
「頼んでおいて言うのも何だけど、ほんとにいいの? 僕たちのパーティに入っても」
「……別にいい。仲間、欲しかったし」
「え?」
「く、くはははははっ! どうした、呪われし血を持つ悪鬼よ。キメラがダークマターを浴びたような顔をしておるぞ! 忌まわしき幻聴でも耳に入ったか……?」
よく分からないが、あまり言及はしないほうがいいようだ。
ただ、やっぱりガーベラは一人だったみたいだし、仲間という存在が欲しかったのだろう。全く素直ではないけど。
ともかく、僕はヴェロニカたちと全く同じ手順でガーベラに申請を送り。
ガーベラはすぐに許可し、これにて僕たちのパーティへの仲間入りを果たした。
ステータスを確認してみると、ガーベラは僕よりは少しレベルが低い。とはいえ、ほんの少しだけ低い程度なので、大した差はないと思う。
「やりマシタ! これで、ようやくワタシのハーレムに入ってくれマシタ!」
「ギャーッ! 何でいちいち抱きつくんだよぉっ!」
イベリスは本当に嬉しそうだけど……このパーティはイベリスのハーレムなんかじゃない。断じて。
イベリスに抱きつかれる度に涙目になっているガーベラが、少し可哀想に思えてきた。
「ガーベラ、船の上でのプレイもいいものだと思いマセンか?」
「ぷ、ぷれ、プレぃ……!?」
「そうデス! 早速、今晩――」
「いい加減にしなさい」
どんどん鼻息が荒くなっていくイベリスに、ヴェロニカが呆れて背後から頭を叩いた。
さすがに冗談だとは思うけど、変態発言がどんどんエスカレートしていって、ただただ怖い。
というか、イベリスの場合は冗談だと確信できないのが一番怖いんだけども。
それにしても、これで五人か。
最初は僕とヴェロニカとイベリスの三人だけだったのが、気づけば二人も増えてくれた。
パーティを組めるのは最大で十人までだから、半数が埋まったことになる。
ここまで個性的なパーティは、他でもなかなかないだろうなぁ……。
「……時に、呪われし血を持つ悪鬼よ」
「それ、毎回言うの? 長いし、名前で呼んだほうがいいんじゃ……」
「い、いいから答えろ! この集団には、名前は存在するのか?」
「名前って……」
つまりは、チーム名ということか。
確かに、今まで僕たちのパーティだとか、このパーティといった呼び方で、名前だなんて考えたことすらなかった。
「……必要なの?」
「な、何を言う! あったほうがカッコイイ……じゃなくて、じゃなくて、その」
「はいはい。とにかく、あたしたちのパーティにも名前が欲しいってことね。どうする、シオン?」
ネリネがジト目で呟くと、ガーベラは慌てて言うが、興奮して全く厨二病的な演技ができていなかった。
まあ、名前があったほうが呼びやすいのも事実だ。
考えておきたい気もするけど、僕を名指ししたヴェロニカに突っ込む。
「何で僕……?」
「だって、あんたリーダーでしょうが」
「そうだった……」
このパーティにリーダーなどというものが必要なのかどうかは後にして、一応僕がリーダーになっているんだった。すっかり忘れていたけど。
僕が名付けるのは……何というか、恥ずかしい。
そういうセンスがあればいいものの、僕は全く自信なんてないし。
「くはははははっ! 案ずるな。我が代わりに、偉大で尊大で腰を抜かすほど勇ましい名を考えてやってもよいが……?」
「お願い、シオン。ガーベラに任せたら……ほら、分かるでしょう?」
「どういう意味だごらぁっ!」
確かにガーベラだったら、いかにも厨二病なネーミングになってしまう気はするが。
しょうがない、か。
僕は、自分以外の四人を順番に見やる。
ヴェロニカ、イベリス、ネリネ、ガーベラ……そして僕。
全員が突然ゲームの世界に連れ込まれた、不運の極みとも言える個性的なメンバーたち。
元の世界に戻る方法を探すため、世界中を旅しつつ〈キーワ〉の人たちも探す。その過程で、きっと〈キーワ〉や〈十花〉、それ以外の人や魔物とも戦う運命にあるのかもしれない。
そこで、とあるひとつの考えが頭に浮かんできた。
逃れられない運命なら、立ち向かうしかない。
確かに僕たちは不運だが、その不運を振り払えるほどの幸運があれば――。
「――フォルトゥーナ、っていうのは……どうかな?」
僕は、若干の緊張を覚えながらも。
みんなに、そんな案を出した。
すると、ガーベラが興奮を隠そうともせず語りだす。
「ほう。幸運の女神、そして運命の女神の名か……! くはははっ! 褒めてやろう、呪われし血を持つ悪鬼よ! 貴様のセンス、我には到底及ばないとはいえ、なかなか悪くない……!」
どうやら、ガーベラには喜んでもらえたらしい。
でも、他の三人からは何故か冷たい半眼が向けられていた。
「あんたも、意外と厨二病みたいなところがあんのね」
「やははー、そういうのはガーベラが言うものかと思ってマシタ。でも、そういうシオンも可愛いデス」
「……恥ずかしい」
「う、うるさいなっ! 嫌なら、他の誰かが考えてよっ!」
妙に恥ずかしい想いをしただけじゃないか。今の僕は、きっと顔が赤くなっているに違いない。
しかし、三人は途端に微笑んだ。
「嫌だなんて言ってマセンよ?」
「いいじゃない、フォルトゥーナ。正直、あたしには思いつかなかったわ」
「……ん。任せる」
嫌じゃないなら、僕をディスらないでほしいんだけども……。
でも、誰からも反論はないみたいだし。
これで、決まり……なのかな。
僕たちは、パーティ名をフォルトゥーナと改め。
ガーベラの船へと、歩を進めた。




