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火で崩せ

 ……心細い。


 ようやく頂上に辿り着いたと思ったら、突然脳内に声が響いて。

 この棘山に隠されている大砲を見つけ出し、再び頂上まで持って行くという試練を与えられてしまった。


 土の精霊を貰えるのは戦力強化にもなるだろうし、大砲を何とか入手することができればガーベラも仲間になってくれるはず。

 シオンは、ガーベラを仲間にしたがっている。

 確かに、あの船があれば旅にもかなり役立つ。

 それは同感だし、反論する気は全くない。


 だから、あたし――ヴェロニカは試練を受けた。


 シオンたちを頂上に残し、あたしは一人で棘山の洞窟内に戻ってきたわけだけど。

 今まではずっとシオンや誰かと行動してきたからか、ここの薄暗さも相まって何だか無性に不安で心細くなってくる。


「……だめだめ、こんなんじゃ。あんまり、みんなを待たせないようにしないと」


 頬を両手で叩き、自分自身を叱咤する。

 この試練は、今までみたいにシオンたちの力を借りることはできない。

 誰の協力も得られないのだから、あたしが一人でやるしかない。

 まだ始まってから間もないというのに、もう弱気になっていたらだめ。しっかりしよう。


 でも、確か一人でクリアしろとは言っていたけど、自分の精霊を使うなとは言われていない。

 だったら、クリムなら呼び出しても問題はないだろう。


「燦然たる火の化身よ、我の名のもとに顕現せよ――Canis in flamma」


 いつも通りの詠唱を呟き、両手を前に翳す。

 すると数秒後には淡い光を伴って、真っ赤な犬、クリムが現れた。


 炎で少し辺りを照らしてくれる上に、一緒にいるだけで心強い。

 今、初めて精霊使いでよかったと思えたかもしれない。


「行こ、クリム」


 クリムを見下ろしながら言うと、それに呼応するかのように可愛らしく鳴き声をあげた。

 最初は怖くて怯えたりもしたけど、今では愛しい存在となっている。ペットを飼うのって、こんな感じなのかしら。

 まあ、元の世界に戻っても犬を飼おうとは思わないけど。やっぱり怖いし。


 いつ魔物が襲ってきてもいいように盾を構え直し、慎重に進む。

 その際、ちゃんと見逃したりなどしないよう、辺りを見回して細心の注意を払う。

 が、どこまでも岩壁が続いているだけで、特にそれらしきものは何もなかった。


「……もっと奥なのかしら」


 誰にともなく呟き、頂上に行くまでの間に通っていない道を通る。

 よく周りを確認していたわけではないものの、あたしたちは大砲らしきものを見ていない。

 ということは、まだ通っていない道のどこかにある可能性が高い。


 そんなことを考えながら歩いていると、やがて前から見たことのある二人が歩いてきた。

 ついさっきも会った、ヒゴロモとカルミアっていう女の人だ。


 あたしの姿を視認するなり、カルミアはすぐに目を逸らす。

 先ほどヒゴロモがカルミアは人見知りだと言っていたし、無理もないのかもしれない。

 それに対し、ヒゴロモは明るく話しかけてくる。


「あ、また会ったねー……って、にぃたちは?」


「ちょっと、頂上で待ってもらってるわ」


「……そうなの? じゃあ、ヴェロニカさんは何してるの?」


「えーと……」


 問われ、少し思案する。

 この試練は、一人でクリアしなくてはいけない。

 だが、試練の内容は話してしまっても大丈夫なのか。


 まあ、協力を得てはいけないという話なだけで、内容を話す程度のことは問題ないだろう。

 そう結論づけ、あたしは話すことにした。


 聞き終えると、ヒゴロモは得心がいったように頷く。

 カルミアも、目は逸らしつつもしっかりとあたしの話を聞いているみたいだった。


「そっかー、一人でって大変だねー。でも、それだったらあたしたちは帰ったほうがいいかな」


「え? どうして?」


「だって、ヴェロニカさんはその大砲を見つけないといけないんでしょ? あたしたちも棘山にあるらしい武器を探しに来たわけだし、あたしたちが先に見つけちゃったらヴェロニカさんは試練をクリアできなくなっちゃうよね」


「それもそうね……でも、いいの?」


「大丈夫大丈夫! どんな武器なのか気になって来ただけだから。大砲なら、さすがにあたしたちじゃ使えないよー」


 確かに、それはそうかも。

 ガーベラの船なら大砲を有効活用できるとは思うけど、ヒゴロモやカルミアが持ち運ぶわけにもいかないだろう。

 どの程度大きいものなのかは知らないとはいえ、あまり小さくはないだろうから。


「じゃ、帰ろっか。カルミアさん」


「うん、分かった」


 ヒゴロモとカルミアは踵を返し、去っていく。

 結局、最後までカルミアはあたしの顔を見ることがなかった。仕方ないことだとは思うけど。


にぃによろしくねー。絶対負けないからって言っておいてー」


「あはは、分かったわ」


 立ち去りながらも後ろを振り向いて手を振ってきたので、あたしは苦笑しつつ手を振り返す。

 こんなに可愛らしく慕ってくれる妹がいて、本当に羨ましい限り。

 あたしも……これだけ仲がよければ。


 なんて、そんなことを考えていても意味がない。

 あたしは首を横に振り、再び歩き出した。


 やがて。

 どれだけ歩いても何も見つからず、さすがに疲労が襲いかかってきた頃。

 不意にクリムが吠え、突然どこかへ走ってしまう。


「ちょっ、どこ行くのよ!?」


 突然のことに愕然としつつ、クリムの姿を追いかける。

 ひたすら追い続けていくと、視線の先に、とある一つの壁が立ちはだかった。


 そのことは、別にいい。ただ行き止まりに来ただけで、何もおかしくはない。

 だけど、明らかに変なものが一つだけ。


 壁の中央に、模様が刻まれている。

 赤い、火のような絵が。


「何、これ……?」


 訝しみ、壁に手のひらを押し当てる。

 瞬間、氷のような冷たさが手のひらに伝わり、思わず手を離した。


「つめたっ!? な、何でここだけ、こんなに冷たくなってるのよ……?」


 他の岩壁に触れてみても、ひんやりとはしているものの、ここまで冷たくはない。

 やはり、この模様が描かれている一面だけ他とは違うようだ。


 怪しい。これだけおかしな点があるのに、何もないわけがないだろう。

 念のため。そう、あくまで念のため。

 もしかしたら何か変化が生じるかもしれないと、そんなことをふと考えて。

 あたしは、クリムに指示を出してみる。


「……お願い。この壁に、火を吐いてみて」


 すると、クリムは一回だけ鳴き。

 高く跳躍し、火の模様へ目がけて火を吐いた。


 刹那――。


 何かの仕掛けが作動したかのような奇妙な機械音が鳴り、それから間もなく。

 壁が、ボロボロと崩れ去った。


「ほ、本当に……?」


 未だに信じられず、声を震わせる。

 まさか、本当にこれで壁が崩れてしまうとは。


 瓦礫の向こうにも、空間が見える。

 この先にも、まだ道が続いていたらしい。

 瓦礫の上を通り、先の空間へ足を踏み入れる――と。


「……え?」


 つい、そんな素っ頓狂な声が漏れた。

 確かに、ここには何かがあるのだろうと思った。

 だけど、探していたものが、そのまま置いてあるだなんて。


 そう。あたしの視界に映ったもの。

 それは、紛れもない。


 大きな大きな大砲が、鎮座していたのである。

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