始まるのは孤独な試練
『精霊使い、ヴェロニカよ。貴様に、試練を与える』
突然脳内に発せられた、そんな無機質な声とほぼ同時に。
目の前のタヌキは、いきなり動き出す。
決して速くはない。
むしろ、かなり遅く、ゆっくりとした動作。
小さな歩幅で、トテトテとヴェロニカに近づいていく。
『棘山に、大きな大砲が隠されている。それを貴様一人で見つけ出し、ここに持ってくるがいい。それが、貴様に与える土の試練だ』
「土の、試練……?」
『そうだ。その試練を無事完了した暁には――土の精霊を貴様に与えよう』
土の精霊。
ということは、これは精霊使いだけに課せられる試練ということか。
ヴェロニカは最初から火の精霊だけ呼び出すことが可能だったが、もしかしたら他の精霊は、こうやって試練をこなす度に増えていくのかもしれない。
「あ、あたしが、一人で……?」
『無論だ。誰からの協力も得ず、貴様一人で棘山内に隠されし大砲を見つけ、ここに持ってくるのだ。制限時間はない……が、魔物も出現する上、棘山は広い。決して容易だとは思わないことだ』
その大砲とやらは、ガーベラが探している武器のことか。
もしそうなら、これは一石二鳥だと言える。
ヴェロニカに新たな精霊が加わり、更にガーベラが欲していたものを入手できたことによってガーベラが仲間になるのだから。
もちろんヴェロニカが試練をクリアすれば、の話ではあるものの。
きっと、大丈夫だ。ヴェロニカなら、絶対に攻略できるだろう。
『さて、ヴェロニカよ。この土の試練――受けるか?』
「……」
ヴェロニカは俯き、暫し考え込む。
この世界に来て間もない頃、犬の魔物に追われて逃げ、それ以来ずっと僕と一緒に行動してきた。
そう。今まで、一人で行動するということがなかったように思う。
だから、不安に感じているのかもしれない。
襲い来る魔物を無事に撃破し、ちゃんと棘山を探索することができるのか。
そして、大きさも形もどこにあるのかも分からない大砲を、一人で見つけることができるのか、と。
でも、そんな葛藤の時間は思いの外短かった。
やがてヴェロニカは再び前を向き、意を決したように言い放つ。
「分かった――受けるわ。あたしもシオンたちに負けないくらい、強くなる必要があるんだもの。こんなところで、逃げるわけにもいかないでしょうが」
新たな精霊を手にすれば、確かに今まで以上の戦力を得られるだろう。
ここでヴェロニカが試練を達成し、土の精霊を仲間に加えることができれば。
僕たちの旅が、また少し楽になるのかもしれないが。
「……大丈夫、なの?」
「大丈夫よ。心配しなくても、すぐに見つけて戻ってくるわ」
僕の問いに、ヴェロニカは肩越しにこちらを振り向いて笑ってみせた。
心配するだけ、無駄だったか。
僕は知ってる。
ヴェロニカは、ちゃんと自分で決めたことを投げ出したりなんてしないって。
だから、僕は信じるだけ。
宣言通り、すぐに戻ってきてくれることを。
『――よかろう。ならば、早速向かうがいい。他の皆は、ここで待っていてもらおう』
その言葉を最後に、タヌキは再び動かなくなり、声も聞こえなくなった。
これで、試練が開始したということだろうか。
ヴェロニカは盾を構え、踵を返す。
僕たちの横を通り過ぎ、また棘山の洞窟へと入っていった。
「本当に大丈夫なんデショウか……」
「……待てばいい。これは、他でもないヴェロニカだけの戦いだから」
「そう、デスね」
イベリスもどこか不安そうだが、ネリネに言われ、垂れ下がっていた口角を上げ直した。
そうだ、これはヴェロニカの戦い。
僕たちは、ただ信じて待つことしかできないけど。
それだけで充分なんだ。今は。
「くははははははっ! 見せてもらおう、金色の精霊使いよ……! 貴様の実力を、しかと見極めてやる!」
ガーベラも……まあ、信じてるってことだろう。知らないけど。
ただ、どれほどの時間がかかるのかも分からないわけで。
立ちっぱなしではさすがに疲れてしまうため、僕は地面に座り込む。
「ねえ、ガーベラ。ここに隠されているらしい大砲って……」
「……うむ。おそらく、我が求めている絶対的な矛、その正体だろう。だが、決して譲ったわけではない……! くははは、いずれ知るだろう……真に持つべき者が誰なのかということをな……っ!」
つまり、ヴェロニカが大砲を見つけて持ってきたとき、譲ってもらいたいということかな。
まあ、ガーベラは最初からここにある武器が必要だと言っていたし、ヴェロニカもそれは分かっているだろう。
当然、その大砲を持って行くことを許されるのであれば、だが。
「でもガーベラ、ヴェロニカがちゃんと大砲を持ってきて試練をクリアすれば、ちゃんと仲間になってくれるんデスよね?」
「……わ、分かっている。我の力、貴様らに貸してやろうではないかっ! ありがたく思うがいい!」
「ありがとうございマスーっ!」
「んあぁぁぁぁ!? 分かったから、いちいち抱きつくなぁっ!」
この様子だと、ガーベラがイベリスに慣れるのは、まだまだ先になりそうだ。
まあ、無理もないか。僕だって、まだ慣れてはいないし。
それにしても、僕たちの仲間になることに関して。
何だか、少し嬉しそうに見えるんだけど……気のせいかな。
もしかして、ガーベラ自身も僕たちの仲間になりたいって思ってくれてたりして。
……はは、まさかね。




