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辿り着いた先には

 ついさっきまで、魔物と戦闘をしていたのだろうか。

 白銀の刃を鞘に納める白い鎧を纏った黒髪の女性と、僕の妹――ヒゴロモが立っている。


 二人は、やがて僕たちの存在に気づき。

 瞬間、ヒゴロモが嬉しそうに顔を綻ばせた。


「あっ、にぃ! にぃも来たんだねっ」


 ヒゴロモは僕のほうへ駆け寄り、笑顔を見せる。

 ミントスペアで別れて以来だから、大分だいぶ久しぶりに会ったわけで。

 無事で何よりだ。


「ヒゴロモ……何でここに?」


「ここのどこかに武器があるみたいだから、来てみたんだよ」


「な、なんだと……!?」


 ヒゴロモの答えに、僕ではなく何故かガーベラが反応した。

 何やら戦慄し、声を震わせる。


「き、貴様……もしや千里眼ホークアイの持ち主か……!? だが、そうはいかん。隠されし矛を手にするのは、海王神たるこの我だ……ッ!」


「……え?」


 ヒゴロモはそこで初めてガーベラを視界に映し、首を傾げる。

 さっきの芝居がかった台詞が、何一つ理解できていないようなキョトンとした表情だ。無理もないが。


 そして首を傾げたまま、更にネリネへ視線を移動させ。

 途端、驚愕の叫び声をあげた。


「ま、また女の子が増えてる! しかも二人も!? にぃの行動力が恐ろしいよ!」


「いや、だからそれは偶然なんだって」


「でもね、あたしにも新しい仲間がいるんだよ」


 するとヒゴロモは、もう一人の女性を指差す。

 白い鎧に身を包み、腰に白銀の剣を提げた黒髪の女性に。


 さっきから気になっていたが、やはりこの女性がヒゴロモの新たな仲間なのか。

 自分のパーティを結成すると言って僕たちと別れたわけだが、あれから一人だけ仲間に加えることができたらしい。


「この人が、あたしの新しい仲間――カルミアさんだよ!」


「……どうも。カルミアです」


 若干無愛想そうにも感じてしまったが、それでもペコリと頭を下げて名を名乗ってくる。

 僕たちの中では一番背が高く、胸も……多分ヴェロニカと同じくらいあると思う。

 そしてクールそうな面持ちから、少し大人っぽい印象を抱いた。


「クールビューティーというやつデスね、可愛いデス」


「あんたは誰にでも可愛いって言ってるでしょうが」


「ヴェロニカには言ってマセンよ?」


「……喧嘩売ってる!?」


 正直ヴェロニカもかなり可愛いほうだと思うんだけど、確かにイベリスがヴェロニカに可愛いって言っているのを見たことがない気がする。他の人には、初対面であっても言いまくっているのに。

 何でなのかさっぱり分からないが、まあ、いいや。


「行こ、ヒゴロモ」


「えっ? あ、ちょっと待って。ご、ごめんね。カルミアさんは、ちょっと人見知りで恥ずかしがり屋なだけだから。それじゃ、またね!」


 カルミアが早急に立ち去ってしまったため、ヒゴロモは慌てて後を追う。

 せっかく久しぶりに再会できたと思ったら、別れも相当早い。

 僕たちもヒゴロモたちも色々と用事があるのだから、仕方ないと言えば仕方ないけど。


「カルミアって、何だかネリネみたいな人デシタね」


「……何が」


「人見知りで、恥ずかしがり屋で、無口なところとかそっくりデス」


「……別に。人見知りでも恥ずかしがり屋でもない」


「そうなんデスか? 無口だから、そうなんだと思いマシタ」


「……イベリスは喋りすぎ。少しは黙ったほうがいい」


 ネリネの言葉にイベリスはショックを受けたのか、こうべを垂れた。

 同感ではあるものの、まさか直球で言ってしまうとは。相変わらずネリネは容赦ない。


「……時に、シオンよ。先ほどの千里眼ホークアイに選ばれし者が、貴様のことをにぃと呼んでいたが……どういう関係なのだ」


「いや、千里眼なんてないから。ただの妹だよ」


「ほう。つまり貴様も、呪われし血族だったか……!」


「もうガーベラの設定がよく分かんない」


「設定言うな!」


 何はともあれ。

 いつまでもこうしていても意味がないので、僕たちは先を進む。


 更にどんどん上へ登っていき、数分が経過した頃。

 僕たちの目の前に、光が見えた。

 それは、この先が出口――つまり外に繋がっていることを意味する。


 多少なりとも疲労はあったが、然程さほど時間はかからずに済んでよかった。

 逸る気持ちを抑え、僕たちは外に出た。


 真っ先に、視界に映ったものは。

 晴れ渡る青空と――茶色を基調とした、目の細いタヌキだった。


 見下ろしてみても、下が全く見えない。いつの間にか、かなり高いところにまで登ってきていたようだ。これより上がないということは、ここが頂上なのだろう。

 周りにヒゴロモたちがいないのは、どこかで行き違いになったのか、ヒゴロモたちがどこかで迷ってしまっているのか……。


「た、タヌキ……?」


 奥のタヌキを見て、ヴェロニカが怪訝そうに呟く。

 まあ、無理もない。

 山の頂上にタヌキがいるだなんて、思うはずがないのだから。

 てっきり、ガーベラが言ってた武器とやらが置いてあるのかと思っていたのだが。


 タヌキは動かない。

 訝りつつも、僕たちはタヌキへ向かって歩を進め――。


『――止まれ』


 不意に、声が聞こえた。

 耳から聞こえているものではなく、まるで脳内に直接語りかけてきているような。


『精霊使い、ヴェロニカよ。一人で前に来い』


「えっ? あ、あたし?」


 急に指名されたヴェロニカは困惑し、僕たちに視線を移す。

 よく分からないが、僕たちに用はないということだろう。

 それなら、ヴェロニカが一人でやるしかない。一体何をさせられるのかすらも分からないけど。


「……」


 ヴェロニカは唾を飲み込み、意を決したように一歩ずつ前に出る。

 ゆっくり、ゆっくりと、小さな歩幅で。

 やがて、タヌキとの距離が数センチ程度にまで近づいたとき。


『精霊使い、ヴェロニカよ。貴様に、試練を与える』


 そんな声を最後に。

 タヌキが、突如として動き出した。

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