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頂を目指して

 ――棘山とげやま


 僕も詳しくは知らないが、地図を見る限り。

 忍耐大陸オークモスの東部に位置する、大きく広がっている山のようだ。

 闘技場の辺りから南部を横切っている川の付近にまで及んでいることから、地図を見ただけでも、かなりの大きさを誇っていそうなことが想像つく。


 今から慈悲大陸ディルウィードに向かうつもりだったし、特に目的もないため棘山には行くことなどないと思っていたのだが。

 まさか、ガーベラから棘山へ一緒に行くことを条件として提示してくるとは。


「えっと……理由、聞いてもいいかな」


「我の黒き破滅の方舟だが、絶対的な矛がないのだ。忌まわしき魔獣が顕現した際、この海王神ともあろう者が逃げ続けるわけにもいかぬだろう……っ!」


 矛がないということは、何かしらの武器が欲しいということか。

 確かに、海の中にも魔物は棲んでいるだろうし、襲われたりした場合は逃げるしかなくなる。

 海の上でも戦えるよう、最低でも一つは武器があったほうがいいかもしれないが。


「なるほど……。でも、それで何で棘山に行く必要が?」


「愚かな人間が、我がいるとも知らず無用心に話していたのだ……棘山には、強力な武器が隠されている、とな……っ!」


 ガーベラが近くにいることを知っていても、話すことをやめたりはしないと思うが……そんな突っ込みは野暮だろうから言わないでおく。

 にしても、棘山に武器が隠されている、か。

 それが本当だとすれば、確かに行ってみたいと思うのも無理はないかもしれないけど。


「……一人で行けば?」


「だ、黙れ。断るのであれば、我は貴様らを船に乗せたりはしないぞ……っ!」


 そこで、ようやく条件として提示してきた理由が分かってきた気がする。

 見たところ、ガーベラは一人だ。言動からしても、誰ともパーティを組んでいないことは確かだろう。


 棘山にどんな危険があるかも分からない以上、一人だけで行くのは不安なんだと思う。

 まあ、気持ちは分かる。


 ガーベラは棘山にあるらしい武器が必要で、僕たちはガーベラが持っている船が欲しい。

 ガーベラが仲間になってくれるのなら、一緒に行ってみてもいいかもしれない。

 等価交換というやつだ。


「その棘山に一緒に行けば、ちゃんと仲間になってくれるんでしょうね?」


「くはははは! 我を誰だと思っている! 大海を統べる海王神ぞ? 嘘など、愚かな人間だけがする行為だ……我も等しく同じようにするとは思わないほうがいい……っ!」


「そんな遠回しな言い方じゃなくて、もっと分かりやすく言いなさいよ」


「……嘘じゃないです」


 ヴェロニカがジト目で突っ込むと、ガーベラは若干涙目で言い直した。

 うーん、普段は尊大な物言いをしてはいるものの、案外根は気が弱いのかも。


「シオン、一緒に行ってあげマショウよー。ガーベラとイチャイチャできマスし、船も手に入る! 一石二鳥デスよー」


「い、イチャイチャ……!?」


 イベリスの発言に、ガーベラは顔面蒼白となっていた。

 でも、確かに僕には断る理由など特にない。

 ガーベラを含めれば五人もいるわけだし、棘山が危険な場所であっても多少は大丈夫だろう。


「分かった。いいよ、ガーベラ。一緒に棘山に行こう」


「ふっ、よかろう。我と行動をともにすることを許そうではないかっ! 感謝するがいい!」


「何で上から目線なのよ……」


 交渉が成立し、僕たちは五人で棘山に向かうこととなった。

 完全に予想外だったが、むしろ仲間が増える上に船という移動手段を入手できるのだからいいことだろう。


 そうして、僕たちは急遽方向を変更し、東へ歩を進める。

 慈悲大陸ディルウィードに到着するのがかなり遅れそうだが、仕方ない。



     §



 どれくらい経っただろうか。

 空が少しオレンジに染まりかけた頃、ようやくそこに到着した。


 僕たちの目の前に、高く大きな山が鎮座している。

 棘山という名前に相応しく、所々に尖った岩が見える。

 結構な険しい道のりとなりそうだ。


「くははは! 我に先頭を行かせるとは、無能な人間のくせに無礼だぞ! 先に行くがいい!」


「……お、おう」


 どうやら、先には行きたくないらしい。

 ここに目的があるのはガーベラだろうに、本当に仕方ないやつだ。


 よく見てみれば、山麓に洞窟のような入口があった。

 中から上に登っていくようになっているのか。

 僕は僅かな緊張を覚えながら、ゆっくりと中へ入っていく。


 さすがに闇の竪穴ほどではないにしろ、やはり薄暗い。

 とはいえ、全く見えないわけではないし灯りがなくても問題はないが。


 ふと、後ろから服を引かれたことに気づく。

 怪訝に思い振り向くと、ガーベラが僕の服を引っ張っていた。


「……ど、どうしたの?」


「な、何がだ」


「いや、だって僕の服を引っ張ってるから……」


「……ほう。どうやら貴様のまなこには幻影が映っているようだ。力を持たない貴様では仕方のないことだがな……っ!」


 よく分からないが、あまり突っ込まないでおこう。

 というか、僕のほうが背は低いのだから、ヴェロニカやネリネのほうに行ったほうがいい気はするのだが。

 イベリスは……まあ、いいや。


 山の内部を歩き、坂道を登り徐々に上へ上がっていく。

 でも当然外が見えないため、今どの位置にいるのか、そして頂上まであとどれくらいなのかが全く分からない。

 ちゃんと進めているのか不安に感じながらも、足を前に動かし続けた。



 やがて、どこからともなく物音が聞こえてきた。

 剣戟のような音と、まるで獣のような咆哮が。


 どこからか聞こえているのか、と思わず辺りを見回す。

 すると、右方の壁に大きな穴が開いており、その先に道が続いていることに気づいた。

 僕たちは顔を見合わせ、慎重に穴の先へ進む。


 そして、視界に映った光景を見て。

 僕は、思わず驚愕に目を見開く。


 白い鎧に身を包み、白銀の剣を鞘に納めようとしている黒髪の女性。

 その前には、狼のような魔物が血を流して倒れていた。


 更に、傍らには見知ったツインテールの女の子。

 見紛うはずもない。

 その女の子は――他でもない、ヒゴロモだったのである。

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