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血戦の結末と再会

 始まりは、唐突だった。


 アロエと、いきなり現れたアリウムさんの対峙。

 駆け出したのはほぼ同時で、かなりの速度で肉薄したアロエは鎌で薙ぎ払う。

 が、アリウムさんは凄まじい跳躍力を以て跳んで回避し、アロエのすぐ背後に着地する。

 そこから間髪入れず、回し蹴りを食らわせた。


「くっ……!」


 アリウムさんの蹴りにより、アロエは後方に吹っ飛ぶ。

 そして背中から壁に激突し、血を流しながら顔を顰める。


 すごい……。あのアロエが、かなり押されている。

 さすがは、この大陸を統治している美徳の一人といったところか。

 しかし、当然アロエもその程度で終わるわけもなく。


「あはははっ! ああ、いい。いいね、いいね。何だか、楽しくなってきたなぁっ!」


 アロエは笑いながら、再び駆け出す。

 鎌を薙ぎ払い、振り下ろし、時折柄で殴ったり、蹴りを入れる。

 その全てを、アリウムさんは華麗に避け続けた。


「チッ、狂ってやがんなァ……」


 アロエはアリウムさんの顔面に目がけて、鎌の柄で突く――が、アリウムさんは咄嗟に素手で柄を掴む。

 そして瞬時に、足で蹴り上げた。


 吐血しつつ、高く宙を舞うアロエ。

 だが、気づけば鎌は消えており、アロエの両手にはいつの間にか鉤爪が装着されていた。


 宙でくるりと一回転し、着地するや否や走り出し。

 鉤爪で、アリウムさんの胴体を引っ掻いた。


「くッ……めんどくせぇ真似してんじゃねぇぞ、ガキがッ」


 服を引き裂かれ、破れた服から露出する肌には、鉤爪により傷がたくさんできていく。

 痛みに顔を顰めながらも、左腕でアロエの頬を殴り飛ばす。


「あは、あはは、あはははは」


 なのに。それでも尚、アロエは楽しそうに笑い続ける。

 本当に、壊れていた。狂っていた。

 命のやり取りが楽しくてたまらないみたいに、哄笑しながらもアリウムさんへの攻撃は止まない。


 下から、横から、上から。

 様々な方向から鉤爪で引っ掻こうとし、アリウムさんは間一髪のところで避ける。


 そして、攻撃と攻撃の間。

 その一瞬の狭間に、蹴りや殴りを交える。

 だけど、アロエもまんまと食らうだけではない。

 顔を動かしたりジャンプをしたりして、見事に全てを避けていた。


 ハイレベルな戦いだ。

 動きが速すぎて、攻撃が激しすぎて、戦況がめくるめく変わって。

 僕は、目で追うだけで必死だった。


「チッ、てめぇ何をそんなに笑ってやがる。何が楽しいっつーんだァ?」


「えー? だってだって、楽しいでしょ? 強い人を相手にしているときの、高揚感。どう攻略すればいいのか、戦いながら考えて、考えて……ようやく勝てたときの快感。あは、あははははっ、やっぱり人間ってのはね――命を失ったときが一番輝くと思うんだぁ」


「……気色悪ィ野郎だなァッ」


 お互いの攻撃を避けながら、嗤うアロエと不快そうに舌打ちするアリウムさん。

 しかし、突然のアロエの回し蹴りがアリウムさんの顔面に直撃し、遥か後方に吹っ飛ぶ。


「ああ、ああ、楽しいよ……! でもねでもね、そろそろ打ち止めの頃合いだと思うんだ。だからさぁ……早く、速く、はやはやはやく――殺させてよ」


 思わず身の毛立つほどの、不気味で邪悪な笑みを浮かべて。

 鉤爪を消し、再び鎌を出し。

 アリウムさんへと、高速で駆け出した。


 アリウムさんは、ひび割れた壁にもたれかかったまま動かない。

 頭や腹部、手足からは、赤黒い血が滲んでいた。


「……やっぱりてめぇ、イカれてんじゃねぇのかァ?」


「んー? いいよいいよ、理解してくれなくてもいいよ。だってだって、だってだってだって、ここで死んじゃえば考えてることも発言したことも、無になっちゃうもんね」


「死ぬのは……てめぇだ、ガキが」


 ――不意に。

 アリウムさんが不敵な笑みを漏らしたかと思うと。

 突如として、地面が大きく揺れ始めた。


 地震だろうか。

 ここは井戸の底。つまり、このまま地震が続けば生き埋めになってしまう恐れがある。


 でも、そんな危惧は、すぐさま杞憂に終わった。

 地震はあっという間に治まり――刹那、アロエの足元から水が凄まじい勢いで噴き出した。

 まるで、噴水の如し。


「……ッ!?」


 アロエは咄嗟に、後方に跳ぶことで避ける。

 水は地面から天井まで、勢いよく噴き出し続けていた。

 かと思っていたら、水は徐々に勢いを失い、やがて完全に消えてなくなる。


「何もせずに、ただここに来たわけじゃねえんだよ。ま、正確にはもう一人の俺だがなァ……。ここに来る前、もう一人の俺はある奴に助けを求めた。癪だが、仕方ねえ」


 アリウムさんの言葉の途中で、アロエの視線は別の方向へ向けられた。

 無理もない。

 とある女の子が、ここへ姿を現したのだから。


「……な、何で……?」


 その女の子の顔を見て、僕は思わず呟く。

 すると女の子は僕を見て、慌てて駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか、シオンさん。じっとしていてくださいね、すぐに治しますから」


 そう言って、女の子――デイジーは僕の傷口に手を翳す。

 みるみるうちに傷口は塞がり、血も止まっていく。

 すごい。これが、回復魔法か。


「デイジー……何で、ここに?」


「アリウムさんから、シオンさんたちを助けてほしいって言われまして。その、そんなことを言われてしまったら、助けないわけにはいかないじゃないですか。せっかくできた大事なお友達を、シオンさんたちを、絶対に失いたくはありません」


「デイジー……ありがとう」


「……いえ、礼なんかいいですよ」


 デイジーはヴェロニカたちのもとに向かい、先ほどと同じように傷を回復していく。

 まさか、こんなに再会が早くなるとは。

 だけど、この場では救世主と言っても過言ではない。

 デイジーに、そしてアリウムさんには感謝だ。


「なに? なに? なに、してるの? あなたも、遊んでくれるの? ねぇねぇ、そうだよね? じゃあさじゃあさ、早速始めちゃってもいいの?」


「……すいません。それはできません。できることなら、あなたのことも助けてあげたいところですが……今は、シオンさんたちのほうが先です」


 こんなに狂った敵なのにも拘わらず助けたいだなんて、デイジーの優しさを実感していると。

 デイジーは杖を頭上に掲げ、小さな声で呟く。


「Et nos Michibike Solitudini Naru champion est protendentem gyro」


 そして一拍あけ、叫ぶ。


「us adscendens!!」


 ――瞬間。

 僕たちの視界が淡い光に包まれて。


 気づいたときには、目の前の光景が何もかも変わっていた。

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