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人を殺す鬼

 何で、こんなことになってるんだろう。

 どうして、カナンガにいるのか。

 どうして、死んでいるのか。


 何で――タイムさんが。


 心の中で無数にも等しい「何で」「どうして」を繰り返しても、一向に答えなど出てこない。

 特に接点が多いわけでもなければ、大して仲が良いわけでもない人だ。むしろ、僕はまだ一回しか会ってはいない。

 それでも、知っている人が死んでいるのを見るのは、やっぱり辛かった。


 ゆっくりと、タイムさんの遺体に近づく。

 心臓は動いでいない。苦しそうで、尚且つ悲しそうな顔で、その命を散らしていた。

 決して安らかとは言えない死に様……もしかしなくても、誰かに殺されてしまったのだろう。


 この町の住人か、もしくはよそから来た人か。

 我慢することに疲れ、思わずタイムさんを殺害してしまったという可能性もあるが……。

 探偵でも警察でもない僕には、遺体を見ただけじゃ何も分からなかった。


 血は、まだ乾いていない。殺されたのは、そんなに前じゃないのかもしれない。

 ちくしょう。一体、ここで何があったんだよ。



「……シオン? こんなとこで、何やって…………ッ!?」



 ふと、声をかけられて。

 背後を振り向くと、ヴェロニカが僕の奥にある遺体を見て、口元を手で覆っていた。


「ど、どういうことよ……な、何で、この人が……」


「……分からない。僕も、ついさっき気づいたばかりだから」


 僕がタイムさんと会ったとき、その場にはヴェロニカもいた。

 つまり、ヴェロニカもタイムさんとは面識がある。

 だからこそ、余計にショックを感じているのかもしれない。


「こ、これ、アリウムさんに言ったほうがいいわよね……?」


「そうだね。誰かに殺されたことは、間違いないみたいだし」


 僕は頷き、タイムさんの死体に背を向ける。

 そしてアリウムさんの家へと向かう道すがら、ふと気になって口を開く。


「ヴェロニカは、何か用でもあった?」


「え? いや、もう夜遅いし、何してるのかと思って呼びに来たのよ。まさか、あんなところにいるとは思わなかったけど……」


 あまり遅くならないよう気をつけてはいたが、少し心配させてしまったか。

 それ以上、あまり話を弾ませることができず。

 何だか気まずい空気のまま、アリウムさんの家に到着した。


 中に入り、廊下を進む。

 広間には、イベリスとネリネとアリウムさんが座っていた。


「あ、おかえりなさいデス! どうしたんデスか、なんか暗いデスけど……」


「それが……」


 イベリスの問いに、ヴェロニカは躊躇いがちに説明を始める。

 タイムさんの死体が、路地裏に転がっていたこと。誰かに殺されたと見て、まず間違いないであろうこと。周りに凶器らしきもの、犯人の手がかりと思しきものは何もなかったこと。

 その、全てを。


 イベリスが驚愕に目を見開き、ネリネが眉を顰める中。

 ただアリウムさんだけが、何かを知っているかのように俯いているだけ。


「……また、出たのか」


 そして、そう短く呟いた。

 また……ってことは、今までにも何回か同じようなことがあったということだろうか。

 訝しむ僕たちに、アリウムさんは語り始めた。


「……前にも、何度かあった。この町の中で、いや町の外でも、男女問わず死体が転がっていることが。何度かあるのに、誰も目撃をしていないんだ。手がかりとなりそうなものを何一つ残さず、その場には被害者の死体しかない状況。だから、誰がやったのかを未だに突き止められていない。男なのか、女なのか、子供なのか、大人なのか……それすらも、全く分かっていないんだ」


 そんな殺人鬼みたいな人が、近くにいるのか。

 しかも正体が何も分かっていないなら、警戒のしようもない。周りの人全員を疑うわけにもいかないし。


「でも、自分は他の大陸にいる美徳たちと連絡を取り合うことができるんだけど、そんな殺人鬼は誰も知らないって言ってるんだ。つまり、この大陸にしか出没していないということだと思う」


 確かにミントスペアはかなり平和だったし、デイジーもそのような話は一切してこなかった。

 他の大陸でもそうなら、アリウムさんの言う通り忍耐大陸――オークモスにしかいないのかもしれない。


「……それで、この大陸で隠れられそうな場所と言ったら、かなり絞られてくる。大陸の南にある井戸と、東部の山。もしくは、この町に紛れているか、闘技場の中。その四ヶ所のどこかだ」


 拾った地図に書かれているものが、その四つだった。

 どこにもおらず、荒野を彷徨っている可能性だってあるかもしれないが、その可能性は

低そうだ。


 人間であることに間違いはないだろうし、となると食住は必要になる。

 荒野の中だけでは、暮らすことなど不可能だろう。


「とは言っても、人間の数なんか多すぎるし、探すことなんて難しい。だから、自分も困っているんだ」


 いっそのこと、僕たちが殺人鬼の標的になれば探す手間も省けるが。

 どれだけの実力者なのか定かじゃない以上、それも危険すぎる。


 もしかしたら〈キーワ〉か〈十花ヴェイス〉の誰かかとも思ったけど、ノンプレイヤーキャラのタイムさんが狙われた時点で、その可能性は極めて低い。

 あいつらは、僕たち辛い過去を持ったプレイヤーしか狙わないはずだから。


「そうだ、君たちに頼みがあるんだけどいいか?」


「頼み?」


「ああ。オークモスの遥か南部に井戸があるんだけど。そこの様子を確認してきてくれないか」


「確認って……何の?」


「殺人鬼がいるかどうかの確認だ。もしいなければそれでいいし、いたとしても……君たちの強さは自分が買ってる。できれば、その殺人鬼を捕らえてほしい」


 僕たちが戦っているところを実際に見たわけでもないくせに、ただ三股の龍を斃したという事実だけで、かなり強いのだと思われてしまったようだ。

 困ったな。殺人鬼に勝てる保証など全くないのに。


「自分は、この町と闘技場を守る」


「いや、統治しているんだったら、他のところも守りなさいよ」


 ヴェロニカはジト目で突っ込む。

 結局、三股の龍が出たときに闘技場を守ったのも僕たちだったわけだけど。

 何だか、やる気があるのかないのか、少し他力本願なところがあるようだ。


 でも、タイムさんが殺されたのも事実なわけで。

 僕自身、殺人鬼の正体が気になる上、あまり放置もしたくはなかった。


「……分かった。じゃあ明日、とりあえずその井戸に行ってみるよ」


「ありがとう、助かる」


 僕が承諾すると、アリウムさんは嬉しそうに微笑んだ。

 アリウムさんに頼まれたからというよりは、このまま放置しているとカナンガの人がもっと襲われる可能性もあるし、他の大陸にまで行ってしまう恐れもあるから。

 だから、僕たちで止められるものならそうしたい。もちろんこっちがやられてしまったら意味がないから、あまり無理はしないでおくが。


 アリウムさんにも、もっと頑張ってほしい気持ちはあるものの。

 とにかく、僕たちは明日、南部の井戸へ行くことになった。

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