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赤が包み込む戦場

 今、この場に残っているのは、たったの四人だけ。

 僕、ヴェロニカ、イベリス、ネリネだ。

 突如現れた三股の龍を相手に、対峙している。


 この世界に来てから戦った魔物は、どれも大きな体をしたものばかりではあったが。

 さすがに、ここまで巨大な龍は見ることすら初めてだ。

 どうやって戦えばいいのか分からないけど、だからといって逃げるわけにもいかない。

 絶対に、この場で斃さないと。


「……三つの首で、それぞれ攻撃してくるから。絶対に、油断しないで」


「う、うん、分かった」


 ネリネの助言に、僕は頷く。

 一つの首にばかり注目していると、他の二つの首に隙をつかれてしまう。

 だから、できるだけ三つ全てに警戒をしなくてはいけない。


「……来る」


 ネリネがそう呟いた、途端に。

 三股の龍が突然動き出し、右の顔が大きな口を開き、火炎を放つ。

 咄嗟に避け、僕は右手から剣を出す。


 ネリネは回避するのに高く跳躍しており、空中で龍に向かって銃弾を放っていた。

 見事に命中し、一瞬だけ仰け反る龍だったが、またすぐにネリネに向けて火炎を吐く。

 空中にいるネリネに向けて放たれた火炎は、ネリネが地面に着地することで避けることができた。


 イベリスは剣に水の魔力を纏い、龍へと駆け出す。

 その際、左の首と真ん中の首が順番になぎ払ってきたが、華麗に全てを回避し。

 胴体に、その剣で斬りかかった。


 しかし、少し傷ができて小さく悲鳴を上げるだけ。

 間髪入れず左の首がイベリスに近づき、イベリスの襟首を咥え始めた。


「な……何するんデスかっ!?」


 必死にもがくイベリスだが、口から離れる様子はない。

 と、他の二つの首にも動きが生じた。

 イベリスは今、咥えられたことでまともに身動きがとれない。

 そんな状態で、真ん中の首がイベリスへ向けて口を開いていた。


 まずい……おそらく火を吐く気だろう。

 さっきまでなら避けることは可能だったが、抵抗すらできていない今は避けることは不可能。


「……ッ」


 ネリネは強く歯噛みし、二丁の銃で龍の首を撃つ。

 ヴェロニカの精霊――クリムも駆け出し、龍に首に火炎を吐く。


 しかし、悲鳴は上げているものの、全くイベリスを離す様子はなかった。

 やがて、龍の口から真っ赤な火が放出され――。


 瞬間、ネリネの銃弾が首を貫いた。


 イベリスの体を支えていたものがなくなったことで、イベリスは地面に落下し。

 すぐさっきまでイベリスがいた場所、落ちていくイベリスの頭の上を火炎が通り過ぎていった。


「ネリネ……今のは?」


「……うちが撃てる弾丸は、一つだけじゃない。威力を込めただけ」


 僕の問いに、ネリネは龍から目を逸らすことなく答えてくる。

 一発の銃弾に威力を込めて、龍の首を切断するほどにまでなったというのか。

 本当に、すごいやつだ。


「た、助かったんデスか……」


「……しっかりして。次が来る」


 ネリネが言った通り、残った二つの首が何もしてこないわけがなかった。

 最も厄介な相手が誰なのかを把握したのか、二つの首が全く同時にネリネに火を放つ。


「……く」


 何とか身軽な動きで回避していくネリネだったが、さすがに連続で避け続けるのは難しいのか、腕の辺りが少し当たってしまう。

 でも――ある意味それは、好機だった。


 龍がネリネに攻撃している間、僕は瞬時に龍にまで駆ける。

 すぐさま背後に回り込み、体を駆け上るようにして背中に乗った。


「……うちが注意を引きつける」


 そう言いながら、間一髪のところで龍の攻撃を避け続けるネリネ。

 イベリスは剣で胴体に斬りかかっていたが、ちょっとした牽制にすらなっていなかった。


「シオン!」


 ふと。ヴェロニカが突然僕の名を呼んだかと思うと、クリムが龍の背中に上ってくる。

 その体は炎を纏っており、真っ赤に照らし出していた。


「シオン! 強くなったのは、あんたたちだけじゃないのよ! あたしだって、新しい技ができるようになったんだから!」


 ヴェロニカは、叫ぶ。

 新しい技……? 僕が知らない間に、そんなものできるようになっていたのか?


 訝しむ僕をよそに、クリムはどんどん僕に近づいてくる。

 そして、口から火を吐いた。


 突然のことに避けることなどできず、吐かれた火炎は命中した。

 僕に、ではなく。

 僕が持っていた、血でできた剣に。


 すると、剣に火が灯り。

 メラメラと、赤く燃え始めた。


「あんたの武器に、火の力を付与させたわ。しかもそれだけじゃなくて、攻撃力もいくらか上がってるはずよ」


 精霊の力を、仲間の武器に付与させる技か。

 炎の血剣。

 これなら、いけるかもしれない。


 龍の首はまだ、ネリネを執拗に狙い続けている。

 なかなか知能があるのかもしれないと思っていたが、それは撤回しよう。

 案外、頭が悪い。首が三つある分、分散されてしまったのかも。


「はぁ……ッ!!」


 気合の一声。

 僕は剣を振りかぶり、首の付け根へと振り下ろす。


 刹那――。


 刀身の炎が更に強く激しく燃え上がり、やがて僕の全身より大きくなって形を変える。

 刃をかたどった炎は、龍の首を包み込み。

 無残にも、二つともを切断してしまった。


 首がなくなった龍は絶叫することもできず。

 やがて、その大きな体は消え去り。

 後には、お金だけが残っていた。


「ふぅ……勝ったのね……」


 ヴェロニカは深々と溜め息を漏らし、その場に座り込む。

 ネリネはただ無言で、二丁の銃を太ももに仕舞っていた。


「ワタシ、全く活躍できませんデシタ……」


「……大丈夫。囮くらいにはなった」


「嬉しくないデスよーっ!」


 イベリスは涙目で嘆いているが、まんまと捕まってくれたからこそネリネが首を貫けたとも言える。

 まあ、そんなこと言っても褒め言葉と受け取れないだろうけども。


 僕は剣を消し、お金を拾う。

 今まで魔物を倒したときに出てきた金額の、どれよりも多い。

 やはり、それだけ強い相手だったということか。

 獲得した経験値も、かなり多いみたいだし。


「それにしても、まさか炎を付与させただけであんなに強くなるなんて予想外だわ」


「僕の能力だからってのも、あるんじゃないかな」


「どういうこと?」


「吸血状態だと、攻撃力とかも何倍にも上がるから。だから、付与させたことで上昇する攻撃力も、何倍にも上がったとか。分からないけどね」


「なるほどねえ……やっぱり強すぎね、それ」


 ヴェロニカに同感ではある……が、結局のところ使用者次第、使い方次第な気もする。

 生憎と、僕はあまり使いこなせているとは言えないだろう。

 何とか勝ってきてはいるものの、もし今後、もっと強い相手が来たらと思うと……。

 それに、ローレルにも勝ったとは言えない。


 なんて、今考えるようなことでもないか。

 せっかく龍に勝てたんだ。そんなネガティブになっていても仕方がない。


 ――と。

 不意に、一人の足音が聞こえて。

 僕たちは、一様に振り向いた。


「……あ、あれ。もしかして、もう片付けちゃったのか?」


 そこに、一人の男性が姿を現した。

 怪訝に思う僕たちに、その男性は右腕を後頭部に当てて自身の名を名乗った。


「あ、ごめん。自分の名前はアリウムって言って、一応……七つの美徳の忍耐を司ってる者なんだけど」


 そう。

 デイジーが言っていた、七つの美徳の忍耐を司るアリウム。

 その人だったのだ。

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