求められた争いの直中で
町の中を歩いていると、小さくボロい建物ではあったが一応宿屋を発見した。
値段は安いものの、部屋はかなり狭く、風呂やトイレは決して綺麗とは言えない。
でも、さすがにそんな贅沢も言っていられないだろう。ヴェロニカもイベリスも明らかに不満そうだが、今だけは我慢してもらおう。
しかし、そんな部屋では満足に遊ぶことも寛ぐこともできず、風呂や食事を済ませたあと、疲れていたのもあってすぐに就寝した。
そして、翌日。
朝食を終えるや否や、僕たちは即チェックアウト。
朝早くに宿から出ると、昨日と変わらない荒んだ光景が広がっていた。
特に、寝起きには見たくない光景だ……もちろん、いつであっても見ないに越したことはないけども。
「じゃあ、早速行こっか」
僕が言うと、二人は神妙な面持ちで頷く。
地図を見るに、闘技場は然して遠くはなさそうだ。徒歩でも、あまり長時間はかからないだろう。
他に寄り道することなく、僕たちは早速町から出る。
そして、地図を頼りに荒野を進む。
また昨日の蛸みたいな強い魔物が出現しないことを祈りつつ、足を動かし続けた。
やがて、数十分ほど経過した頃。
視線の先に、かなり巨大な円状の建造物が見えてきた。
おそらく、あれが闘技場なのだろう。
どんな建物かと思ったら、ドーム状になっているとは。
少しの緊張を覚えながらも、僕は扉を開け放つ。
真っ先に視界に入ったのは、途轍もなく広い空間の中央に位置する、受付らしきものだった。二人の男性が、受付に立っている。
そして、受付の奥には扉が二つあり、その隣には二階へと続く階段。
辺りを見回してみると、壁にモニターの画面があったり、ソファーやら自動販売機やらが設えられていたり。
あれだけ不衛生で荒れていたカナンガとは違い、不自然に思えるほど綺麗な内装だった。
少しだけ歩き、よく受付を見てみれば。
左の男性の前には『観客専用』と、右の男性の前には『出場者専用』と注意書きのようなものが置かれていた。
ということは、僕たちは左側で手続きなどを済ませればいいわけか。
「じゃあ、とりあえず手続きとかすればいいのかな」
「そうデスねー、お願いしマス」
完全に人任せである。
仕方ない。僕は左側の男性の前に立ち、緊張しつつも用件を伝える。
「あの、すいません。試合を見に来たんですけど」
「三名様でよろしいですか?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「一人500ウィロで、1500ウィロとなります」
すると、隣に置いてあった機械を弄り、僅か数秒ほどで機械から三枚の紙が出てきた。
そして僕に手渡し、僕たちは一人500ウィロずつ支払う。
手続きは、これだけで終了らしい。
何というか、案外簡単に終わるものなんだな。
もっと複雑な何かがあるのかと思っていたが、まあ早く済むならそれに越したことはないか。
貰った紙を、ヴェロニカとイベリスに渡す。
僕が持っている一枚の紙を見ると、今日の時間帯と、まるで映画館のような席番号などが記載されていた。
「この番号通りの席に行けばいいってことなんデスかね?」
「たぶんね。んーと、二階に行けばいいのかな」
結局、どこに行けば試合が見れるのかを訊き忘れたため、僕は首を傾げながら階段を上ってみる。
二階にはたくさんの扉が並んでおり、そのひとつひとつの扉の横にはそれぞれ異なるアルファベットが大きく書かれている。
そこで、ふと持っている紙に再び視線をやると。
席番号が、Fから始まっていることに気づく。
「二人の席番号ってさ、何から始まってる?」
「Fデスねー」
「あたしもFよ?」
ならば、扉の横に書かれたアルファベットは席番号の頭文字ということだろう。
そう結論づけ、僕たちはFと書かれている横の扉を、おそるおそる開いてみた。
そこには――階段状に並んだ無数の椅子に座っている、大勢の人たちの姿。
そして、観客席の下には二人の人物が戦っている最中だった。
一人は、中年の男性。
一人は、刀を携えた女性。
男性が女性の前に跪き、頭や肩などから血を流れさせている。
なのにも拘わらず、女性は大して傷を負っていないように見えた。
かなり佳境に差し掛かっているところのようだ。
「シオン、イベリス。ここがあたしたちの席みたいよ」
ふと、後ろからヴェロニカから声をかけられる。
後ろを振り向くと、ヴェロニカが空いた三つの席を指差す。
その椅子を見てみたら、僕たちが貰った紙に書かれた英数字と全く同じ番号が書かれていた。
左がヴェロニカ、真ん中に僕、右にイベリスという配置で座り。
下で繰り広げられている戦闘に注目した。
しかし、その僅か数秒後には。
跪いている男性の口から、小さな声が発せられた。
「――参った。俺の負けだ」
瞬間、審判と思しき人物の、女性が勝ったという宣言のあと。
周りの観客から、大きな歓声とともに会場が沸いた。
なるほど、これは片方が降参することによって決まる勝敗か。
勝った女性は、すぐに踵を返して退場する。
そして間もなく、次の出場者が左右から登場してくる。
「続いて、本日第3回戦! ローレルVSマレーヤ! 性別から体型から、何から何まで正反対のお二方です!」
審判がそう称した通り、次の出場者はかなり異なる外見だ。
一人、マレーヤという名の出場者は、長身スレンダーの女性。腰に剣を提げている。
方や、ローレルと呼ばれた者は、筋骨隆々とした体の巨漢だった。背中に大きな斧を背負っている。
戦闘が始まる、その寸前で。
ローレルは口を開いた。
「……悪ぃが、即行で終わらせちまうぜ。遊びすぎて時間かけちまったらよ、ボスに怒られんだよ」
……ボス? それって、一体……?
訝しむ僕だったが、次に発せられた一言で、思わず絶句せざるを得なかった。
「ま、〈十花〉の俺様が、負けるわけねぇんだがなァッ!」
そう。
自分自身が〈十花〉の一員であると、確かにそう言ったのだ。




