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裕福とは縁のない町

 忍耐大陸――オークモス。

 そこに存在する、唯一の町――カナンガ。


 荒れている町の現状は、僕の予想の斜め上をいってはいたが。

 それでも、まだデイジーがあそこまで危険と言っていた意味が分からない。

 確かに安全な場所とはお世辞にも言えないかもしれないけど……まあ、この町の様子だと、スリとか暴漢とかがいてもおかしくはないのかも。


「……じゃあ、うちはこれで」


「あ、ちょっと待って」


 用は済んだとばかりに立ち去ろうとするネリネを、僕は慌てて呼び止める。

 すると、ネリネは振り向きも返事もせず、足だけを止めた。

 せっかく、他のプレイヤーに会えたんだ。このまま、ここで別れてしまうのは少しもったいない。


「ネリネってさ、パーティーとかはどうしてるの?」


「……いない。うちは誰とも組んでないから」


 質問してみたが、そう返してくるのは大体想像ついてはいた。

 出会ったときから今までずっと一人だし、性格からしても、あまり誰かと一緒に行動するようなタイプには見えない。まあ、あくまで偏見だけど。


「じゃあ、僕たちと一緒に行かない? ネリネともっと一緒にいたいし、僕たちのパーティーに入ってくれたら嬉しいなって思って」


「……悪いけど。うちは、誰かと組むつもりはないから」


 冷めた声色で、そう呟き。

 ネリネは、立ち去ってしまった。


 だめか……あっさり入ってくれるとは思わなかったけど、ここまで拒まれてしまうとは。

 やっぱり、パーティーを組んで複数人で共に行動するよりは、一人のほうが性にあっているのだろう。

 その気持ちも、分からなくもない。


「振られちゃったわね」


「むむむ……シオンがワタシ以外の女の子を口説いてマス……なんか悔しいデス」


「いや、別に口説いてるとかそういうんじゃないからね? 語弊のある言い方しないでくんない?」


 ネリネをパーティーに誘っただけなのに、ひどい言い草である。

 無理矢理パーティーに入れても意味はないし、拒否されてしまったなら仕方ない。

 このまま三人で行くか。


 そう思い、僕たちはとりあえず町の中を歩いてみる。

 ホームレスと思しき人が地面に座り込んだり寝転んだりしており、更には服装が所々で破けていたり、体が汚れまみれだったり。

 家などの建物も決して綺麗とは言えないほどボロボロだが、それ以上に住んでいる人々の装いが尋常ではないくらい不衛生極まりない。


 とても貧しく、まともに住む家や着る服、食べるものなどを手に入れる手段が得られない者。

 そういった人たちがこの町にはたくさん存在し、ここで厳しい暮らしを強いられているのかもしれない。

 まさに、スラム街のようだった。


 町の中を歩いていくと、当然並んでいる建物や町の景色などは移り変わっていきはするものの。

 どこを歩いても、必ずと言っていいほど地面に人が座ったり寝たりしている光景が続いていた。

 それだけ、この町には貧しい人が多いということか。本当に、世知辛いことだ。


 できれば救ってあげたいけど、さすがに貧しい人全員を救うことなど不可能だ。

 だから、僕たちには何もできず通り過ぎることしかできない。

 いくらゲーム用に作られたキャラクターだとしても、こうして実際に肉眼で見てしまえば、悲しさやら悔しさやら怖さみたいなものを覚えてしまうのも無理はないだろう。


「ところで、結局どこに行くのよ?」


「そうだね……〈キーワ〉に会えればいいんだけど、いたとしても誰がそうなのか分からないしなぁ」


 とりあえず、オオバコを追うために、そして元の世界に戻る方法を探すためにと、オークモスにまでやって来たわけだが。

 明確な目的地があるわけでもない上に、カナンガにあるもの、オークモスにあるものを未だによくは知らない。

 我ながら、計画性のなさが滲み出てきたなぁ……ヴェロニカとイベリスにはついて来てもらっているのに、実に申し訳ない限りだ。


「シオンシオン、こんなのが落ちてたんデスけど」


 ふと、背後で歩いていたはずのイベリスが突然前に出てきて、手に持っていた何かを見せてくる。

 一枚の大きな紙だ。


 見てみると、どうやら大陸中の地図であることが分かった。

 この町カナンガは北西に位置しており、北東には闘技場という大きな施設が、東には棘山とやらがあるらしい。

 大きなものはそれだけのようだが、川を隔てた遥か南に井戸まで記載されていた。


 町や山などが地図に書かれるのは当然だと思うが、普通こういう範囲の広い地図で井戸なんか載るものだろうか。

 僕が知らないだけで有り得ないことではないのかもしれないけど、何だか少し気になってしまった。

 ただ、ここからだと異様に遠い。簡単に行ける距離ではないだろう。


 でも、こういう地図を見てしまうと、他にも気になるところができてしまう。

 他にあるものと言えば、闘技場と山か。

 その二つのうち、ここから近いのは闘技場。


 特に収穫はないかもしれないが、だからといって行かないままでは大事な手がかりを逃してしまうおそれもある。

 よく分からない場所でも、何もないだろうと決めつけて行き先から除外したりはしないほうがいい……と、少なくとも僕は思った。


「今日は、もうすぐで夜になっちゃうからやめたほうがいいとは思うけど。明日、ここの闘技場に行ってみたいんだ。二人は、どうかな」


「闘技場? 何しに行くのよ?」


「もしかして出場するつもりデスか?」


「あ、いや。参加するんじゃなくて、観客としてね。それに、闘技場ってことはたくさんの人が集まる場所なんだろうし、もしかしたらって思って」


 観客としてなのか、出場者としてなのかは分からないけど。

〈キーワ〉の人が、一人くらいはいてもおかしくはないのではなかろうか。

 それで全くいなかったら、完全に無駄骨となってしまうけども。


「ヴェロニカ、どうしマス?」


「うーん……正直、あんまり気は進まないけど。まあ、見るだけなら行ってもいいわよ」


「なら、ワタシも別にいいデスよー」


 ヴェロニカは渋々といった様子ではあったものの、一応反対はないようだ。僕も出場するのは怖いし嫌だから、さすがに見るだけ。

 念のため、行ってみるだけだ。無駄骨となって残念ではあるが、何もないなら諦めて別の場所に行けばいいし。


 と、いうことで。

 僕たちは明日、闘技場とやらに行くことになった。

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