表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/157

触れてはいけない

 声が出ない。

 手が震える。

 視界が霞む。


 目を逸らしたいのに、視点がある一点に固定されたまま動かすことすらできなかった。


 どうして……こうなったのか。

 一体何がいけなかったというのか。


 いくら考えても、明確な答えなんて一向に浮かんではくれない。

 考える余裕すら、うに残されてはいなかった。


 ただ――運が悪かった。


 そんな言葉で解決してしまいそうになる自分を、ひたすらに憎んで。

 嘘だ。夢だ。冗談だ。

 そんな考えも、目の前で広がっている惨状と、自分自身が今感じている痛みや匂いなどが、残酷にも全てを否定していく。


 ……いや、違う。

 僕は、知っている。自分でも分かっているはずだ。

 みんなに言われなくても、そんなに責められなくても。

 運が悪かったわけでもなければ、夢だとか何かの嘘だとか、そういうわけでもなくて。

 ちゃんと、分かっていた。


 ……全部。

 全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部。


 ――僕が、悪いってことを。


 ――僕が、殺したんだってことを。


 視界を彩る、無慈悲な赤。

 僕へ注がれる、化物を見るかのような眼差し。


 全てが、敵のように見えた。

 誰が、とか、そんなレベルじゃなくて。

 世界、そのものが。


 だから、僕は。

 僕は――。



     §



「……ッ!?」


 がばっと、布団から飛び起きる。

 汗で服が体にくっつき、僕の頬を一筋の汗が伝う。

 心臓の鼓動が、騒がしいほどに激しさを増していた。


「……何で、今更あんな夢なんか」


 思わず呟くも、その理由は分かりきっている。

 おそらく、この世界に来たせいだ。

 いや、正確には。

〈キーワ〉と出会い、そして僕の過去に触れてきたからだろう。


 ヒースとオオバコ、二人の言葉で少なからず惑わされてしまっていたんだ。

 ランのおかげで、もう前を向くことを決めたってのに。

 自分の夢ながら、いい加減にしてほしい。もう囚われていたくはないのだから。


 ふと、斜め後ろを見る。

 さっきまで僕が寝ていた場所の、すぐ隣に。

 なぜか、イベリスが心地よさそうな寝息をたてて眠っていた。


 ……もしかして、僕は知らない間にイベリスと添い寝をしてしまっていたのか……?

 この家はかなり広く、デイジーは僕たち一人一人にそれぞれ自由に使ってもいいと、個室を与えてくれたというのに。

 なのに、何でわざわざ僕の隣で、同じベットで就寝しているのか。


 などと、頭に疑問符を浮かべていると。

 イベリスがしきりに瞼を擦りつつ、ゆっくりと上体を起こす。


「……おはようございマス、シオン」


「う、うん、おはよう……って、そうじゃなくて。何でここで寝てんの?」


「ワタシだって、最初はちゃんと一人で寝てマシタよー。でも、途中で目が覚めちゃいマシて。せっかくなので、シオンに夜這いでもしようかと思って来てみたら、何やらうなされてるみたいデシタから、一緒に寝てあげようかと!」


「……突っ込みどころが多すぎるのやめて」


 せっかくだから、という大して理由になっていない動機で、夜這いをしようとするのも怖いし。

 うなされていたからって、そこから一緒に寝るという行為には繋がらないと思うのだが。

 まあ、イベリスだから、で解決できる……問題、でもないな、こりゃ。


 それにしても、うなされていたのか。

 間違いなく、あの夢のせいだろう。

 そのこと自体はまだ仕方ないのだが、それをイベリスに見られてしまったのは困る。

 もし訊かれたら、どう説明すればいいのやら。


 しかし、イベリスは全くそのことに触れず。

 代わりに、別のことを訊ねてきた。


「そういえば、今日は頭はっきりしてるんデスね。いつもは朝に弱いからって、ぼーっとしてマスから」


 確かに、言われてみればそうかもしれない。

 いつも、目覚めてから数分間は頭がうまく働かず、呂律も回っていないことが多かったから。


「ああ……たぶん、夢のせいで熟睡できなかったからかもなぁ」


「夢、デスか?」


 やってしまった。

 自分から夢のことを話してどうするんだ。馬鹿か、僕は。

 でも、どうやらそれは杞憂だったらしく。


「もしかして、怖い夢を見ちゃったんデスか? 大丈夫デスか? 一人でトイレに行けマス? 一緒に行ってあげマスから安心してくだサイ! トイレの中まで!」


「心配すると見せかけてセクハラすんのもやめてっ!? そんな子供じゃないし!」


 ただ、イベリスといつものようなやり取りをしていると、やっぱり楽しいというか、嫌でも元気が戻ってくる気がする。

 まあ、絶対に本人には言わないけど。


 今日は、ついに別の大陸へ旅立つ日だ。

 いつまでも、こうしているわけにはいかないだろう。


 僕がベッドから起き上がると、イベリスも続く。

 昨日デイジーが言っていたのは、船が来るのはおよそ昼頃。

 まだ少し時間があるとはいえ、あまり呑気にのんびりもしていられない。


「あーっ! せっかくシオンが寝ていて二人きりだったんだから、既成事実を作っておけばよかったデスっ!」


「……き、既成事実? 何?」


「やははー。ワタシとシオンが、体の関係を済ませるってことデスよー」


「……こ、怖いこと企まないでくれる……?」


 これから、イベリスの前で寝られなくなってしまったじゃないか。

 ヴェロニカたちがいれば大丈夫だとは思うものの、できるだけ二人きりにならないようにしよう。

 何されるか分かったもんじゃない。


 イベリスの変態性に戦々恐々としながらも、僕たちは部屋を出た。

 暫く、デイジーたちとは別れることになる。

 だから、今のうちに。


 忍耐大陸――オークモスに向かうまでの間に、ちょっとだけでもデイジーたちと過ごしておこう。

 そう思って、一階に下りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓こちらもよろしくお願いします!
小説家になろう 勝手にランキング
小説家になろうwiki
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ