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次元の垣根を越えて

『SEVENS virtue sin ONLINE』――通称セブンズ。


 凄まじいほどに自由度が高く、どんなプレイをするかはプレイヤー次第という話題の新作MMORPG。

 リリースが決定し、すぐにテストプレイの抽選が行われた。

 その結果、僕と妹の緋衣ひえは無事に当選し、テストプレイを開始したのが――おそらく、つい昨日のこと。


 半日ほどプレイしていたとはいえ、まだ序盤中の序盤までしかできてはいない。

 でも、この草原と地名くらいなら知っている。

 何故なら、ゲームで最も最初に登場し、とあるキャラから説明をされた場所なのだから。


 名は、救恤きゅうじゅつ大陸――【ミントスペア】


 そして、そのとあるキャラというのが、先ほど僕たちを助けてくれたタイムという男なのである。

 そこまでいくと、もうゲームと同じ世界だとしか思えない。

 いくつもの名詞が一致しているなどという偶然が起こる確率は、ほぼ皆無と言ってもいいくらいだろうし。


「ほ、ほんとに……? 夢とか、何かのドッキリとかじゃなくて……?」


 僕の推測を聞き、女は唖然として声を震わせる。

 気持ちは分かるが、その可能性は極めて低いだろう。


「ここまで大掛かりなドッキリを仕掛ける理由なんてないと思うよ。それに、夢かどうかなんて自分の頬をつねってみたら分かるんじゃないかな」


 漫画やアニメなどでは、信じられない光景や状況に身を置かれたとき、自分の頬をつねって夢かどうかを確認する場合が多いように感じる。

 そう思って言ってみたら、すぐさま女の手が僕の頬へと向かい――。


「――いでぇっ!?」


「あ、ほんとだ。手が痛い……」


「僕の頬のほうが遥かに痛いんですけど!?」


 まさか、いきなり理不尽な暴力を振るわれるとは思わなかった。

 痛む頬を左手で撫で、女をジト目で睨む。

 が、全く意に介した様子はない。ちくしょう、この暴力系ヒロインめ。


「……とにかく、ここがゲームと同じ世界だってことは多分、間違いない。さっきタイムさんに、大事な仕事があるのかって聞いたら肯定してたでしょ。それって、ゲームの序盤でも同じ展開があったんだよ。タイムさんは狩人だから、魔物を討伐する仕事があるっていうイベントシーンがね」


「うん、知ってる。あたしも――そのゲームやってたんだから」


 やっぱり、思った通りだったか。

 この世界がゲームと同じ世界だったなら、飛ばされるとしたら僕と同じようにゲームをプレイしていた者だろうから。


「ちょっと忘れてたけど、確かに思い出してきたわ。ということは、本当の本当に……」


「うん。何で、どういう仕組みで、誰が、どういう目的で……とかは、一切何も分からないけどね」


 セブンズは、MMORPGだ。

 つまり、僕やこの女みたいなプレイヤーがいれば、当然タイムさんのような誰も操作していないノンプレイヤーキャラもいる。


 そして、ここがセブンズと同じ世界ならば。

 大陸、国、街、住人などなど……ゲームの設定を忠実に再現していてもおかしくはない。

 実際、ミントスペアやアンブレットという地名、タイムというノンプレイヤーキャラも登場したわけだし。

 だから、おそらく非常に似た――否、ほとんど同じものである可能性が高いだろう。


 けど、僕たちがやっていたのはあくまでテストプレイの段階。

 かなり序盤、いや言ってしまえばアンブレットという街に到着するまでしかプレイできていないため、あまり把握できていない。

 だが、それでも一応分かっていることはわりとある。


 まず、セブンズの世界は七つの広大な大陸でできているということ。

 その大陸ひとつひとつに、七つの美徳を冠したリーダー、または王とも呼ぶべき存在が統治している。


 ここミントスペアは、最も最初に登場するだけあって、一番安全で平和な大陸らしい。

 統治している美徳は、救恤。

 だから、救恤大陸と呼ばれているようだ。


「ところで、そろそろ名前教えてよ。何て呼べばいいのか分からないじゃない」


「あ、ああ、そうだね。僕はシオン」


「シオンちゃんね、分かったわ。あたしはヴェロニカよ、よろしく」


 どうしてちゃん付けなのか疑問に思いはしたものの、別に僕に対する呼称なんて呼びたい呼び方で呼べばいいから放っておく。

 と、ゲーム内ネームで名乗り合った直後、途端に不安そうに言ってくる。


「あの、一緒に行動していい? いくら小さな女の子と言っても、今のところ、唯一同じ境遇の味方なんだし……」


「小さな、女の子……?」


 訝しみ、すぐに得心がいった。

 そういえば今の僕、女の子になってしまっているんだった。


 ここがゲームの世界だと分かった今、鏡を見なくても大体どんな姿になっているのか想像がつく。

 きっと、セブンズのテストプレイにて、自分で作成したキャラクターの姿なのだろう。


 背は低いし、声は高くて可愛いし、髪は長くて銀髪だし、さっき犬に追われているときも感じたことだが歩いたり走っているだけでも違和感が半端ない。

 自分で作ったとはいえ、どうしてこんなに可愛い幼女キャラにしてしまったのか。


 あぁ……こんなことなら、普通に男キャラにしておけばよかったかなぁ……。


「ヴェロニカ、ひとつ、勘違いしてるよ」


「え?」


「僕は、女の子じゃなくて男。こう見ても、中身は立派な男子学生だから。一応」


「ええっ!? そうなの!?」


 オーバーに思えるくらい、いいリアクションだ……。

 ゲームやネット上には、腐るほどネカマが蔓延っているものだけど、僕はただ女のキャラが見たかっただけ。

 だから、別にネカマではない。

 だから、自分が女の子になっても大して嬉しくはない。本当に。


「へぇー、そうなんだ。本当に女のキャラで始める男っていたのね」


「……何だよ、悪いかよ」


「ごめんごめん、悪くなんかないわよ。ちょっと驚いただけ。可愛いわね、シオンちゃん」


「絶対馬鹿にしてるよね!?」


「そんなことないって。ほら早く行くわよ、シオンちゃん」


「くそう……仕返ししてやる」


「仕返しって、どんな?」


「……この金髪巨乳め。現実世界のヴェロニカは、どうせ貧乳で地味な女か、巨乳が好きなおっさんだと見た」


「そんなことないわよっ!? 仕返しっていうか、それただのセクハラじゃない!」


「僕は小さな女の子だから、別にセクハラとかじゃありませんし」


「さっき自分で中身は男だって訂正してたのに!? 盾に使うのは卑怯じゃない!?」


 そんな、喧嘩とすら呼べないような言い合いをしながら。

 僕たちは特に行く宛てもなく。

 とりあえず、アンブレットという街へと歩を進めた。

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