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その吸血鬼は、ゲーム世界でもツイてない。  作者: 果実夢想
四章【変わりやすい愛情】
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再戦の行く末は

 前戦ったときは、仮面をブーメランのように投げて戦うだけだったヒース。

 それが、今や盾として使用し、イベリスの攻撃を防いでしまった。

 あれから強くなった証拠なのか、それとも前はただ使わなかっただけなのか。

 分からないが、前より苦戦は強いられてしまうかもしれない。


 でも、こっちだって前とは違う。

 何より今は、イベリスもいるのだ。負けるつもりなど一切ない。


「……ほら、来いよ」


 目線だけを僕に向け、更なる挑発を繰り返す。

 僕は、いつものように手のひらから血でできた武器を出す。

 ただ、いつもと同じ剣ではない。さっき使った鎌でもない。


 ――銃だ。


 当然使ったことなどないため照準を上手く定められるか不安ではあるけど、そんなことも言っていられないだろう。

 前と戦い方自体は同じだったら、また仮面を投げてくるはず。

 そんな相手には、銃のほうが相応しい気がしたのだ。


「……へえ。遠距離の武器なら大丈夫だとでも思ったのかァ? 甘えなァ」


 僕に銃口を向けられても尚、余裕綽々といった態度を取り続ける。

 何で、こんなにも余裕なんだ。

 そんなにも勝算があるとでもいうのだろうか。


 僕は軽く跳んで後退し、即座に引金を引く。

 銃口から一発の弾丸が飛ぶ――瞬間、ヒースは表情を変えることなく仮面を投げる。

 仮面は回転しながら孤を描き、銃弾に命中した。

 更に、銃弾ごと壁に突き刺さってしまう。


「何発でも撃ってこいよ。全部、弾き返してやるからよ」


 信じられない。投げた仮面で銃弾を弾くなどという芸当、当然普通の人間にできるようなことではない。

 僕は、正直侮っていたのかもしれない。

 まさかヒースが、こんなことまでできるようになっているとは。


「来ねえなら、こっちから行くぜ」


 イベリスの斬撃を仮面の盾で防ぎながら、もう片方の手で仮面を投げてくる。

 数は、二つ。

 僕は咄嗟に、銃で仮面を撃ち落とす。


 しかし、まだヒースの攻撃は止まらなかった。

 ヒースは次から次へと、仮面を放つ。

 その度に銃で撃っていくが、このままだとキリがない。


 と、思っていたら。

 仮面に軌道に、唐突に変化が生じた。


 さっきまでは普通に僕へ向かってくるだけだったのが、僕の頭上を飛び越えて背後に回ってきたのだ。

 僕はすぐさま後ろを振り向き、仮面を撃つ。


 それが相手の罠だと気づいたのは、撃ち終えてすぐのこと。

 慌てて前を向こうとするも、時既に遅し。

 前から向かってきていた仮面が、僕の肩を切り裂いた。


「くっ――」


 痛む肩を押さえ、ヒースを睨む。

 ヒースは、おそらく仮面の数に上限などない。

 仮面が背後に回ったからといって、振り向いてしまうのはいくら何でも迂闊だった。

 敵に背を見せれば、攻撃してくださいと言っているようなものなのだから。


 でも、肩だけで済んでよかった。

 この程度なら、あくまで軽傷。

 まだ、全然戦える。


 ヒースは再び、仮面を投げる。

 僕は二発、銃を撃ち――間髪入れずに駆け出した。


 確かにヒースは、次から次へと仮面を使うことができる。

 だが、たとえそれでも、仮面を投げたあとは多少の隙が生じる。

 そこを狙う。


 しかし――首筋に冷たい感触を覚え、僕は足を止めざるを得なかった。


 仮面だ。

 瞬時に反応を示したヒースが、近距離にまで近づいた僕の首に、仮面を突きつけている。


「動くんじゃねえ。その首、まだ胴体とくっついていたいんならなァ」


 肩を切り裂いたほどの仮面だ、おそらく胴体を切断することだって不可能じゃないのだろう。

 動いた途端に斬られる可能性が高い以上、銃で撃つのも躊躇われる。

 つまり、僕の行動を制限されたと言っても過言ではなかった。


 だけど、ヒースは片手でイベリスの攻撃を防いでいるからって、僕のことしか警戒していなかったのだ。

 ここには、もう一人仲間がいたというのに。


「なッ……!? ぐ、ちィ……ッ」


 全速力で駆けてきた犬の精霊――クリムが、凄まじい跳躍力を以て高く跳び、ヒースの腕に火炎を吐く。

 ヒースはあまりの熱さに舌打ちをし、腕を押さえる。


「――今よ、シオン!」


 ヴェロニカの叫び声に、僕は銃を構え。

 ヒースの腹部を目がけて、引き金を引いた。


「ぐ……はッ、やるじゃねえかよ……どうした、止め、ささねえのかよ」


 穴の開いた腹を押さえ、口から血を溢れさせつつも、どこか余裕そうに言う。

 僕は、殺したいわけじゃない。

 だから、銃を消した。


「はァ……はァ……どういう、つもりだァ」


「言ったでしょ、僕はあんたを殺しはしない。オオバコにも言ったけど、僕はあんたたちを仲間に――」


「ざけんじゃねえぞ。俺らの仲間にはならねえって言ったくせに、そっちの仲間にはなれっつーのかよ。ンな虫のいい話、あるわけねえだろうが……ッ」


 確かに、それはそうかもしれない。

 ヒースからしたら、そう思うのも無理はないだろう。


「……僕は、ヒースたちに、こんなことをしてほしくないんだよ。元の世界で辛いことがあって、誰も手を差し伸べてくれなかったから、こんなことになったんだよね。だったら、僕たちが手を差し伸べる。今までの拒絶の分を全部、肯定するから――」


「――だから、それが気に食わねえんだよッ! そんな言葉で、思い通りになると思ったら大間違いだぜ……俺の、現実への憎しみは簡単には消えねえ」


 その声色は、いつも以上に。

 憎悪の色が、ひしひしと滲み出ていた。


「……シオン。ひとつ、言っとくぜ。自分が憎む相手、恨む相手、思い通りにならない相手、自分の敵……そういう奴らくらい、ちゃんと殺せるようになれ。お前には、それだけの力があんだろうが。じゃねえとよ――まず自分の身を滅ぼすことになっちまうぜ」


 激痛と疲労が重なってきたのか、ヘトヘトになりながらも。

 ヒースは、仮面を投げた。

 僕に、向かって。


 今の僕は、もう武器を消してしまった。

 それに、ヒースとの会話ですっかり油断してしまっていた。

 だから、上手く反応ができず――。


 刹那、横から振り下ろされた白銀の刃が、仮面を真っ二つに切断した。


「イベリス……」


 思わず、ほぼ無意識に仮面を切断した本人を見て名を呼ぶ。

 イベリスは答えない。

 ただ無言で、ヒースへと歩み寄る。


「……ンだよ……。てめえも、殺――……」


 そこから先の言葉が紡がれることはなかった。

 言葉の途中で、ヒースは仮面をイベリスに突きつけようとして。

 その瞬間に、イベリスが刺してしまったから。


 左胸に突き刺さった、白銀の刃。

 ヒースはゆっくりと崩れ落ち、うつ伏せに倒れたまま動かなくなった。


「……シオン、気持ちは分かりマス。でも、そのせいで自分たちがやられちゃったら意味ないデスよ。こうすることだって、大事なんデス……」


 僕に背を向けて言うイベリスの声は、少し震えていた。

 いや、声だけじゃない。

 血がしたたる剣を持つ手も、小刻みに震えている。


 僕がやられてしまいそうだったから、イベリスは。

 僕の代わりに――殺したのか。


「やはは、ワタシだって、できれば殺したくはないデスけど。でも、自分と、大事な仲間や友達が殺されるくらいなら……」


 言葉は、そこで止まった。

 でも、先は言わずとも分かる。


 僕も、甘えてばかりはいられない。

 綺麗事ばかりも言っていられない。


 だから――僕も。

 友達や仲間たちのために、いつかは。


 ――殺さなくてはいけなくなるときが、来るのだろうか。

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