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その吸血鬼は、ゲーム世界でもツイてない。  作者: 果実夢想
四章【変わりやすい愛情】
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生死の誤算

 崩れた瓦礫の上で、苦悶に表情を歪めながら倒れているヴェロニカ。腹の上には、クリムが倒れている。

 そんなヴェロニカたちには目もくれず、ヒースは瓦礫の上を通り、僕のほうへ歩み寄ってくる。


「……生きてたの?」


「あァ……あれくらいのことで、簡単に死ぬわけにもいかないんでなァ。ま、救われたって言ったほうが正しいけどよ」


 救われたってことは、あの場に他に仲間がいたというのか。

 いや、そんなはずはない。

 突然の爆発に間に合うように助けるなど、そんなことができるわけが……。

 それに、近くに誰かがいれば、さすがに気づかないのもおかしい。


「救われたって、誰に?」


「んなことまで言う必要あんのかァ? 〈十花ヴェイス〉の仲間だよ」


 オオバコ以外の、他の〈十花ヴェイス〉のメンバーか。

 もし本当に、あのときヒースの仲間がいたとしたら……迂闊だった、と言う他ない。

目の前の敵との戦い、そしてヒゴロモを救うことで精一杯だった。


「じゃあ、僕が持っていた仮面が消えたのは?」


「俺が消しただけだよ。俺の仮面は武器というよりも、能力に近い。自在に消すことが可能なんでなァ」


 そういうことか……それを、持ち主が死んだから消えたのだと思い込んでしまっていたというわけだ。

 せっかく、オオバコとの戦闘にも決着がつき、仲間にできるかと思っていたのに。

 まさか、こんなタイミングで登場してきてしまうとは。


 さっきの僕たちの会話を聞いていたのか否か。

 ヒースは、僕の近くで尻餅をついているオオバコに話しかける。


「オオバコ……〈十花ヴェイス〉だからって、俺はへりくだったりなんかしねえぞ。お前よ、今そいつの手を取ろうとしたろ? そいつの、仲間になろうとしただろ」


「……そ、そそ、そ、それ、は……」


「ふざけんじゃねえ。今までの憎しみを思い出せ。そんな安っぽい台詞で、簡単に負けてんじゃねえよ。それでも〈十花ヴェイス〉か」


「……」


 ヒースの叱咤を受け、オオバコは拳を強く握り締め、立ち上がる。

 その目からはもう涙は出ておらず、ただ真っ直ぐ僕を睨みつけていた。


 くそ……上手くいくかと思ったのに。せっかく、オオバコの気持ちが寄りかけていたのに。

 今のオオバコからは、もはや敵意しか感じられなかった。


「――シオン!」


 不意に、ヒースの背後からそんな叫び声。

 ヒースの背中に向かって、イベリスが剣を構えていた。

 しかし、ヒースは少しも反応を示さない。


 まるで、道端の石ころのように。

 イベリスからの敵意を、全く気にする素振りを見せなかった。


 今、相手はヒースとオオバコの二人。

 対し、こちらは疲労困憊で負傷したヴェロニカと、僕とイベリスの三人。


 となると、イベリスと二人で、この二人と戦わなくてはいけないわけか。

 まさか、ヴェロニカがヒースにやられるだなんて思いもしなかったが、もしかしてこの間戦ったときより幾許いくばくか強くなったのだろうか。


「……ヴェロニカ様、ご無事ですか?」


「う、うん……ありがとう……」


 ふと瓦礫の上を見てみれば、ランがヴェロニカの傷口に手を当てていた。

 そうか、確かランは治療ならできると言っていた気がする。

 すぐには無理かもしれないが、これで何とかヴェロニカも復帰できれば二人が相手でも勝てるかもしれない。


 と、思っていたら。

 ヒースの口から、思わず耳を疑う言葉が飛び出してくる。


「……オオバコ。こいつらの相手は、俺にやらせろ。お前は、勝手に逃げてろ」


「で、で、でも、い、行く場所なんて」


「忍耐大陸――オークモス。あそこなら、お前でも暮らしやすいだろ。……って、ボスが言ってたぜ」


「……じ、じゃ、じゃあ、分かった。で、でで、でも、あな、あなたで、大丈夫、なの?」


「はッ、これは俺のリベンジだ。もう二度と、負けやしねえよ」


 オオバコは、ゆっくりと頷く。

 そして、一番奥に設置されていたレバーを引く――と、突然上から長い長いロープが下りてきた。

 オオバコはすぐさまそれを掴み、上に上っていってしまう。


 やられた。ここから逃走する手段まで、既にあったとは。

 それにしても、さっきヒースが言っていた忍耐大陸――オークモスとは何なんだろう。

 こことは別の大陸であることは分かるものの、場所などは何も分からない。

 せっかく〈十花ヴェイス〉の一人を追い詰めたと思ったのに……これも僕の運の悪さのせいなのか、本当に上手くいかないものだ。


「じゃあ、始めようぜ。今度は、絶対に負けねえからよ」


 来いよとでも言わんばかりに、指で挑発してくる。

 再戦のときが来るだなんて一切予想だにしていなかったが。

 あのときとは違い、一対一ではない。

 今は、イベリスを含めての二対一だ。

 ヒースが強くなっていたとしても、それはこちらも同じのはず。だから、勝てる。


 先に動いたのは、イベリスだった。

 刀身に水の魔力を帯び、ヒースに向かって斬りかかる。

 しかし――。


「……なっ!?」


 僕もイベリスも、喫驚する。

 伸ばした左手の先に、自身の身長よりも巨大な仮面。

 イベリスの刃が直撃しても傷一つつくことなく、完全に防いでしまっていた。


「前は使えなかったけどよ……俺の仮面、こんな風に使うことだってできるんだぜ。なめんじゃねえよ」


 まさか、盾にすることも可能だったとは。

 ヒースのリベンジ、か。確かにこれは、一筋縄ではいかないような気がした。

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