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その吸血鬼は、ゲーム世界でもツイてない。  作者: 果実夢想
四章【変わりやすい愛情】
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落ちた右側の磐石

 今は……僕、ヴェロニカ、イベリス、ランの四人。

 先に続いている道は、二本の分岐。

 つまり二人ずつに分かれれば、両方の道を進むことができる。


 たとえ片方が行き止まりだったとしても、もう片方に進んだ二人は先に行けるというわけだ。

 ただ、本当にただの行き止まりならいいけど、もっと危険な罠が仕掛けられていたり、想像もできないようなものが待ち構えている可能性だってなくはない。

 でも、そんなことをいちいち考えていたら、一向に前に進めやしないだろう。


「……灯りは、どうするのよ?」


 ヴェロニカが、クリムの炎を見つめながら問う。

 確かに、ある意味それが一番の問題点かもしれない。

 クリムの炎がなければ、あまりにも暗すぎて周囲を確認することなど不可能にも等しい。

 それどころか、どっちが前でどっちが後ろなのかすらも分からなくなってしまう。

 だが――。


「その点は問題ございません。わたくしも、念のため灯りを持ってきております」


 そう言って、ランはメイド服のポケットから、小さめのランプを取り出す。

 スイッチを押すと、クリムの炎ほどじゃないにしろ、控えめな淡い光が辺りを照らしだした。


「ランも持ってたんデスね」


「はい。こんなこともあろうかと」


「用意周到っていうか何ていうか……よく想定できてたわね」


 ランも灯りを持っているのなら、問題は解消されたと言ってもいい。

 二手に分かれる場合、ヴェロニカとランには別々の道を行ってもらうことになるだろう。


「それで、どうかな。二手に分かれるっていうの」


「ワタシはいいと思いマスよー」


「わたくしも異存はありません」


「そ、そうね……両方行くためには、そうするしかないものね」


 特に反論はないらしい。

 あとは誰がどっちに行くのか、ということを決めなくてはいけないのだが。

 それはもう、あまり迷うことはなかった。


 どっちに何があるのか分からない以上、戦力を偏らせるわけにはいかない。

 ランは自分で戦えないと言っていたため、魔物が襲ってきたりした際に戦闘できるのは実質三人だけだろう。


 その上で分けるとしたら、やはりランと一緒に行動するのは最も戦闘力のある人がいいはず。

 ランが戦えないということで、一人で戦わなくてはいけなくなるのだから。


 そうみんなに告げると、なぜか満場一致で僕を指名されてしまった。

 まあ、吸血状態になるとかなり強いのは自分でも間違いないと思う。


 僕とランが右へ行き、ヴェロニカとイベリスが左へ行く。

 短い話し合いの結果、そういうことに決まった。


「……じゃあ、あたしたちは行くわ。そっちも気をつけて」


「うふふ、わたくしのほうは問題ございません。シオン様がいれば百人力です」


「ワタシもシオンと行きたかったデスよー。シオン、絶対にあとで会いマショウ!」


「大丈夫だよ。また、あとでね」


 全員で短い間の別れの言葉を告げ、僕たちは二人ずつそれぞれの道へ行く。

 この先で、何が待ち受けているのか。

 僕は、無意識のうちに口角が少し上がってしまっていた。



     §



「シオン様、わたくしは治療だけならできますので、魔物が襲ってきたら存分に戦ってください」


 二人と別れてから、すぐにランがそう言ってきた。

 たとえ戦闘の技術はなくとも、治療ができるのなら充分すぎる。

 それなら僕も、あまり気にせず戦うことができそうだ。


「ん、分かった。ありがと」


「いえ。少しでもお役に立てるのなら、それがわたくしの幸せです」


 ニコニコと笑みを浮かべながら、僕の後ろをついてくる。

 その手には、小さな明かりを灯す一つのランプ。

 後ろにいるランが持っているため、前をほんの少ししか照らせていない。


「ねぇ……ランが前に行ったほうがよくない?」


「わたくしはメイドです。誰かの前を歩くだなんて、恐れ多いことこの上ありません」


「……じゃあ、そのランプ貸してくれないかな? 僕が持つから」


「分かりました。壊さないでくださいね」


「分かってるよ。全力で気をつけるから」


 ランからランプを受け取り、ようやく前がちゃんと見えるようになった。

 僕は夜目が利くとはいえ、ここまで闇に包まれていたら、さすがにはっきりとは見えない。

 だから、唯一道を照らしてくれる灯りは大事にしなければ。


 それにしても、さっき前を歩くのは恐れ多いって言ってたけど、闇の竪穴に来るときに僕たちを案内するために前を歩いていた気がするのだが……。

 まあ、別にいいか。


「あ、シオン様。そこ、罠がありますのでお気をつけて――」


「――えっ?」


 ランの声に反応が間に合わず、僕は踏み出した片足を地につけた――刹那。

 不意に、大きな物音が後ろのほうから聞こえてきた。

 まるで、何か大きなものが迫ってきているかのような――。


「し、シオン様、逃げましょう……っ」


 ランが珍しく顔を青ざめさせ、そんな震え声を出した次の瞬間。

 後ろから、大きな岩が転がってきているのが見えた。

 まっすぐ、僕たちへ向かって。


「ちょっ!?」


 踵を返し、一目散に僕たちは駆け出す。

 だが、この竪穴は基本的に一本道だ。曲がり角も、抜け穴も、見たところ何もない。

 転がっている大岩と、走っている僕とラン。

 このまま追いかけっこを続けていれば、いずれ岩に押しつぶされるであろう未来が見えてしまう。


 せっかく忘れかけていたのに、ここに来て僕の運の悪さを思い出させてきやがった。

 ふと肩越しに後ろを見れば、ランがメイド服の裾を掴んだまま走っていた。

 が、その顔は既に元気がなく、肩を必要以上に上下させている。心なしか、速度も低下している気がする。


「ラ、ラン……大丈夫?」


「はぁ……はぁ……わ、わたくし、運動は、苦手でして……正直、岩に潰される前に、先に死んでしまいそうです……」


 これは予想外だった。

 メイド服は確かに走りにくそうだとは思っていたが、僕以上にかなり運動が苦手だったなんて。


 まずい。

 この様子だと、あと十分ほどすれば完全に体力が尽きてしまうだろう。

 そうなれば、間違いなく岩に潰されてしまう。


 どうする……どうすれば、この危機を脱することができる。

 僕は足を動かしながらも、キョロキョロと辺りを見回して思案を巡らす。


 周りには、使えそうなものなど何もない。

 そうこうしている間にも、徐々に岩との距離が縮まっていく。

 ランの体力も、余裕なんてあるわけもない。


 だめだ、考えている時間なんてあまり残されていない。

 こうなったら、僕の能力を使うしかないだろう。


「……ラン、ごめん」


「……ふえっ?」


 訝しみ、首を傾げるランに。

 僕は近づき、その白い首筋に己の牙を突き立てた。


 ドクン、と心臓が高鳴る。

 いつもの感覚が、なぜだか妙に落ち着く。


「し、シオン様、今何を……?」


「いいから、行くよ。離さないでね」


「は、はい……っ!」


 戸惑うランの腕を掴み、僕は全速力で駆ける。

 ランはもうあまり走れておらず、僕に引きずられているみたいになっていたが……。

 岩との距離は、少しずつ遠くなっていった。


 やがて、僕は目を見開く。

 視界の先に、道が見えなかった。


 道が、ない……?

 ということは、この先はもしかして落とし穴――。


 思考は追いつけど、足は急には止まれず。

 僕はランと一緒に、深い深い穴の中に、吸い込まれるようにして落ちていった。

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